表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おまけ投稿!割れ綴じ夫婦! 姉に押し付けられた婚約者がラノベ的優良物件ではなくマジでやべー奴だった私の話  作者: 家具付


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/13

その場しのぎと押し付け合いの行く先

結婚式直前の、本当に後一時間と少しと言う位で発覚した義姉の逃走によって、関係者は阿鼻叫喚の嵐となっていた。

貴族の結婚式というのは基本的にメンツがかなり関わるため、一族郎党のかなりの数が出席するし、縁をつなぎたい人々も呼ぶし、百人単位で出席者がいる事なんてざらである。

私の結婚式はそれらと少し違っていて、逃げ出される前にさっさと婚姻契約を済ませようという事から大規模な物にならなかったが、旦那様の身分を考えるととんでもない異例の結婚式であったと言えるだろう。旦那様くらいの身分の貴族の結婚式は、もう街一つがお祭り騒ぎになる程の一大行事になるのが通常なのだ。

そこまでではないものの義姉の結婚式だって相当な規模で執り行われるはずだった。

メンツがかかっているから、可能な限りの豪華絢爛さで行われるはずでもあった訳だ。

しかし。

一番出席していなければならない、なんなら居なければ式を行えないであろう存在の新婦が逃げたとなれば、その異常性と非常識さは群を抜いているだろう。

急ぎ呼び出した父と義母と義兄と、姉の婚約者であり私の元婚約者は、置き手紙を見てブルブルと震えて、義母は蒼白な顔で倒れたし、父は怒りのあまり頭の血管が切れそうな程に顔が真っ赤になっているし、義兄は絶望のあまりか、天を仰いで正気を失いたいと言うそぶりである。

対する新郎側も全員で大激怒している様な状態で、腕に覚えのある使用人達に、義姉を探せと命令しているだけでなく、もうすでに招待客がそろった状態で、どう結婚式を中止するか、穏便な形にするか、と話し合っている。

この時点で、何も手を打てない私の生家の出来の悪さが露呈している。恥ずかしいったらありゃしないが、私はとうに他家に嫁がされた身の上、口を出す事はしないのが基本である。


「もう皆さん来ていらっしゃるんだぞ、これで結婚式を中止だと言えばどれだけの恥をかくか」


「恥だけならまだましでしょう、我が家に泥が塗られるばかりではなく、他家からの信用がなくなります。花嫁に逃げられた家を、どうまともに見るでしょう」


「だからあんな娘との結婚は反対だったんです! お前がどうしてもと言うから泣く泣く認めたというのに! それに、他にもう男がいるなんて、さぞ股の緩い女だったに違いない! 子供もお前の子供か怪しくなってきましたよ!」


娘の股が緩い、というのは貴族にとって大変な侮辱と言って良いだろう。貴族の令嬢は慎み深くあれ、と言うのがこの国というか大陸で広まる考えで、貞淑である事は貴族令嬢にとって強要される事でもあり、自身でそうあるならば大変な美徳とされるのだ。

新郎の母親の発言に、父の顔がどす黒いほどの色に染まる。

娘への侮辱は、娘を育てた家への侮辱につながる。

義姉の血統は正しい物なので、直系ではないからと言う言い訳も出来ない。

お前の家の育て方は大変出来が悪い、といわれたも同じで、娘の教育も満足に出来ない家は、基本的に笑いものにされるのがこのところの常識だった。


「……っ」


新郎が母親の言葉を聞き唇を噛んでうつむく。指摘された事の一部は、自分の見る目のなさを責め立てられているのと同じで、さぞ耳が痛い事だろう。


「……あの、式の開始まで後十分ほどなのですが……」


「うるさい!」


開始前の最終確認のために来た、式を執り行うための関係者の言葉に、父が怒鳴り散らす。貴族に怒鳴られる事は想定していなかったのか、関係者は身をすくめた。


「すみません」


震えた関係者に、さてどうするという空気が流れた時の事である。


「新婦が緊張で倒れてしまい、そのまま気絶して目を覚ます気配がないため、式を交流会にすると伝える事はいかがでしょう」


「あ、あなた!」


扉を開けて入ってきたのはこの場では一番関係の無い、私の夫だった。目も覚めるような礼服を身にまとい、新郎よりも遙かに格上かつ財力を示す、新郎がかすむ様な迫力をまとった私の夫が、状況をすぐに判断していたのか、それとも途中から聞いていたのか、そう提案してきたのだ。


「私の妻がいつになっても戻ってこない物だから、新婦と感極まって離れがたくなっているのかと心配してしまったのですよ。それに式の前の新婦は、新郎には見られてはならないと言いますが、妹の夫に見られてはならないというマナーはありませんし。様子を見に来たらこの騒ぎですから」


猫を被っているのはマジだった。旦那様の猫の分厚さに驚きを少し隠しきれない私だが、旦那様の猫は落ち着き払った物で、提案された事はその場をしのぐには都合の良い言い訳だった。

出産してすぐの女性が、体調を崩すという事はありがちだと聞くし、結婚式で緊張のあまり倒れる人も珍しくはない。

それらが組み合わさってしまい、本来その場に現れて誰からも祝福されるべき新婦が、式に出られない状態になった事は、運の悪い事と言えるが、異常と思われる事ではない。

この場で怒りや失望や焦燥で、そう言った判断が下せなかった関係者にとって、旦那様の言葉はまさに天からの助けと言えただろう。


「ではそうしよう」


「父上、それではこの恥知らずな女と結婚した事に」


「式が延期になったならば、当然婚姻契約の締結も延期という訳だ。我が家にそう言った意味での傷はつかない。……花嫁に逃げられたお前が笑いものになるかどうかは、今後の対応によるがな」


「……っ、やはり姉ではなく妹と結婚していれば……」


新郎の父が頷き、新郎の叫びに冷静な答えを返す。新郎は心底後悔しているという調子で小さく呟き、それに私の義母が反応した。


「こんな家に迎える事も認めたくない血筋の娘の方が、そちらの家にふさわしいですって! あり得ない、我が家を侮辱するつもり!?」


「落ち着いてください。この状況でどこかに行ってしまわれたご令嬢を、さぞかし心配していらっしゃるのでしょうが、あちらの言い分ももっともなのですよ。家の矜持のかかった結婚式を混乱に陥らせる花嫁であっては、あちらもそれくらいは言いたくなるでしょう」


「くっ……!!」


旦那様がとんでもない皮肉を義母に叩き込んでいる。お前の娘ってろくでもねえな、という副音声が私には聞こえたような気がした。

そんな時だった。


「ふええ、ふええ……」


私が新婦の控え室に入った時は弱々しく泣いて、それから眠っていたらしい赤ちゃんが、また弱々しく泣き出し始めたのだ。

赤ちゃんの泣き声という物は、本能的に注目を集めてしまう物だから、控え室にいた人間の意識は一斉にそちらに向き、私は父か義母か義兄か、それとも新郎側が赤ちゃんの面倒を見る人間を呼んでくると思ったのだ。

だが。


「その赤ん坊は当家では養育いたしかねますからな。このような手紙一枚で消え失せる女性の子供など、育てられる訳もない。まして息子という物がありながら、他の男を選ぶなど。きっと父親のわからない子供でしょう。母親のはっきりしているそちらでお育てください」


新郎側の当主である、新郎の父が彼等の見解を述べ


「父上、このような事をしでかした妹の子供を養育するなど、世間の笑いものになります。当家でも育てられません。どこかの傍系の家に養子として渡すべきです」


ある程度世間の目がわかっている義兄がそう言い、父がうめいて義母が泣き出し……

赤ちゃんを抱き上げる事すら、誰もしない。赤ちゃんは誰かを求めて泣いている。……うん。

私は誰も赤ちゃんの面倒を見るそぶりがないから、黙って赤ちゃんを抱き上げた。

もう生後半年を越えている子供は首が据わっていて抱っこしやすい。

抱き上げられた赤ちゃんはふえふえと泣いているけれども、泣き方が甘ったれた物になりだした。

これは……おねむである。


「……何をするつもりだ?」


父が用心深い声で言う。私はしれっととある発言をしようとして……


「誰にも選ばれないのでしたら、私の家に連れて行きましょう。誰もこの子の事を気にかけないのでしたら、どう扱ったとしてもどこからも苦情は入りませんし」


にこやかに旦那様が言い切って、私を見やってこう言った。


「妻は孤児院の子供たちと交流する事がとてもうまいのですよ。よく、帰らないで欲しいと泣かれるくらいに。双方の方針が決まるまで、当家預かりでも何も支障を来しませんよね」


「……良いのだろうか」


「ええ。養育の資金には困っていませんし」


旦那様がどちらの家に対しても遠慮の無い侮辱をしている。子供一人世話する資金もねえんだろ、貧乏人、と言う副音声が聞こえた気がする。

そして、義姉と義母の浪費で家計が火の車であろう私の生家はぐうと音を立てた後に黙り込み、新郎側はこう言った。


「何から何までお世話になります」


「いえいえ、こういった話は客観的に見る事の出来る第三者のほうが、最善の事が見つけられる物ですよ」


物事を俯瞰してみられないお前等はばーか。また旦那様の副音声が聞こえた気がする。旦那様の言葉は貴族的遠回りをしつつ、いろいろ容赦がまるで無い。

私は、腕の中で胸に顔を埋めて寝始めた赤ちゃんを抱っこして、旦那様に肩を抱かれ、その場を速やかに立ち去ったのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ