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結婚式からの妻の認識

「なんだこんな貧相なのが俺の花嫁?」


私は元々、生まれはともかく育ちが育ちと言う事もあって、結婚というものに対しての夢は、いっさい見ていなかった。

と言うのも、山賊育ちと言う、お嬢様の生まれとしてはあり得ない半生を送ってきた私は、結婚観と言うものが一般的とはいえないものなのだ。

山賊は適当に女の人を捕まえてきて、ちょっとそういう処理をして、捨てたり元の場所に返したり、を繰り返していたし、臨時収入があれば女の人をそういう職業の人限定で買ったりしていた。

そういうのを間近で見ていたから、私は結婚と言うものに対してのあこがれはいっさい思いつかなかったのだ。

男女の関係ってそんなものなのだろうと思っていて、結婚あれこれそれは、父の家に引き取られてから知ったものの筆頭だ。

厳しい家庭教師は、私が結婚と聞いて思いついた事を口にしたら、絶句して頭を抱えて

「コレの矯正は……私でも出来ないかもしれない……」

と言ったほどである。

ちなみになんと口にしたのかというと

「股を開いてつっこんでひいひいいうのが、男女の世界でしょ」

と言う中身である。家庭教師の彼女が、徹底的に私に常識その他を教えてくれた今だからこそ、その発言がとんでもなく残念な考え方だとわかっている。

それ故に結婚というものをもっと詳しく知って、憧れたかというとそうではない。

逆にとても面倒くさくなった。家のつながりだとか、資金援助だとか、支援だとか、家柄の釣り合いだとか、お互いの性格の相性だとか。

聞くだけ聞いて、

「山賊の世界の方があっさりしていてわかりやすくて、単純だったな」

と思ってしまったわけである。

そしていっそう夢を見ない人間になり、私は姉のために作られていた花嫁衣装を着て、明らかに体型にそぐわないそれでえっちらおっちら移動して、大急ぎな結婚式をあげたのだ。

そしてその時に初めて、夫になる男性の顔や形を見たわけだが、私としては


「ふうん、清潔感があるから良いか」


で済んでしまったのだ。山賊の世界に生きているとこうなる。清潔感と縁もゆかりもないような、そんな生活をする男どもがひしめく世界で、彼らと生きているとそんな感覚になる。美醜よりも清潔感。太っているとかやせているとかよりも体臭がきつくない事。歯がかけていたりするのはご愛敬で、歯を磨いていないで口臭がやばい方が減点。

そのため私は、まじまじと旦那になる男の顔を見て、ふうんそうか、清潔感があるから合格だな、と内心で思ったのだ。

対する相手は、明らかに体型に合わない花嫁衣装で、化粧をしても平凡な顔を隠せない私を見て、第一声として


「貧相な嫁だな」


そういったわけである。確かに肉感的な義姉と違う私は、義姉のために用意された花嫁衣装は明らかにぶかぶかだし、背丈も違うから場えっちらおっちら移動しなくちゃいけないし、見るに見かねてって感じで思われてもしかたがなかった。

それが私はよくわかっていたから、確かにそうなんだよな、とちっとも不愉快に思わなかったのだ。

だからうんうんと頷いた。


「姉が着るはずだったドレスなんです」


「はあ? 花嫁のための支度金は、そうとう俺は出しておいたはずだぞ」


「だって知らないです、そんなの」


「あの家、花嫁の支度金にまで手を着けてんのか?」


彼は怪訝そうな顔をしてから、私をまた上から下まで眺め回して、こう言った。


「ま、金で買ったようなもんだからな、好きに扱わせてもらうぜ。俺のやることなすことに文句言うんじゃないぞ」


「良識にそって行動させてもらいます」


「はいはい。んじゃ、これからよろしくお願いしますってわけだ、嫁さん」


本当はもっと美人が良かったとか、もっと肉感的なのの方がいいとか、おしとやかさがあればまだ見られるのにとか、彼はぶつぶつとずいぶん文句を言っていたものの、私が結婚相手と言う事は覆らないので、結婚式をあげて、披露宴は行わないで、私と彼は結婚したのだった。

そこからは、まともな時間に帰らない彼に説教をし、雑な扱いをする男に身の危険を感じて、私もやりかえして、不思議と離婚になる大きな諍いは起こさずに、日常がすぎて行っているのだった。




私が家庭教師からたたき込まれたのは、家の維持管理の基礎知識とかで、女主人はそれを把握してなくちゃいけないって言う事を教え込まれた。

そのため、家の出費とか必要経費とか維持費とか、屋敷の帳簿で確認して、赤字経営にならないようにしているわけだ。

夫は必要なものは最上級品を買い求める生活らしいが、それを丁寧に手入れして使い続ける側面もあるので、大きな出費があっても取り戻せるし、第一において、夫が管理経営している領地からの収入が、信じられない金額になるのだ。

夫はそういった領地経営はちゃんと出来る男らしく、私は本宅の維持管理だけで済んでいて、気がちょっと楽だ。

そんな風に、私は自分の仕事の量と、平穏な生活に納得して、暮らしているわけである。

まあ、毎晩取っ組み合いに近い喧嘩をしている生活が、平穏かどうかは人によりそうだけれどもね。

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