おまけの話
旦那様やべー話足りない気がしたので短編でおまけです!
「盗難事件!?」
「はい……大変に申し訳ございません!!」
平謝りするのは屋敷の警備をになう人達で、殺されても仕方が無いと言わんばかりの表情で頭を地面に擦り付けるようにして謝罪している。
「一体何をいつ盗まれたんですか」
落ち着け、とあたしは心を落ち着かせる様にして問いかけた。
普通に考えて、この邸宅の貴金属をしまっている部屋は限られているのだから、そこまでの警備をどう突破したのかが気になって仕方が無い。
「おとといの……旦那様と奥様が夜明けまで外出していらした時のはずなのですが……」
「どうしてそのように曖昧なのですか?」
女主人としての厳格さを見せるように問いかけると、警備の誰もが縮こまった。
「本日アーノルド様より、旦那様が貴金属の目録の確認をしろとお命じになった事で……目録の物と数が合わないと言う事態に発展し」
「いったんお前達は警備を洗い直しなさい。それから細かい異変の何もかもを記録し報告しなさい。私も目録を持って盗難のあった部屋にむかいます」
「こ、この事は旦那様には」
「無論報告いたします。この邸宅で起きた盗難という問題を、当主たる旦那様に知らせないなどありえませんので」
「ひ、ひいっ!! 首を落とされる!」
「ばか、それだけで済めば御の字だろうが! 家族に責任問題の賠償金とかが被ったら、一家離散どころか一家破滅どころじゃなくて、一族郎党皆殺しに匹敵する額になるぞ!」
状況が状況であるせいか、警備の誰もがパニック状態になっている。
そんな時だった。
「おい、何の騒ぎだ」
「旦那様!」
「公爵様!!」
旦那様が誰かから騒ぎを聞きつけたのか、あたしの仕事場に顔を出したのだ。
控えているのは顔色の悪いアーノルドさんである。
「旦那様」
私は努めて落ち着いた声で、盗難事件が起こった事を報告した。
すると旦那様は警備の責任者達を、目を細くして眼光鋭くして、彼等の精神が崩壊しそうな冷たい視線で見つめた。
「へえ、お前達、この邸宅にろくでもないのを入れたってわけか」
「そ、それは……」
「二日待ってやる、その間に下手人を割り出せ。一匹残らず取り逃がすな。盗まれた貴金属は全て取り戻せ。じゃなきゃお前達と当日の警備に関わってた奴らに全員賠償金を支払わせた後、紹介状を書かずにお前の身内もろとも屋敷から放り出す」
「ひいい!」
「時は金なり! 承知いたしました! お前、行くぞ! 旦那様の温情に感謝してだ!!」
「ああ、さっさと行ってこい」
旦那様が面白がる調子で手を振り、青ざめた彼等を送り出す。
送り出してからこっちを見て……言った。
「お前も下手人割り出すか?」
「うん。どういう方法でこの邸宅の際億に近いだろう、貴金属を扱う部屋に入ったのかが気になるから」
「素人が調べても何にも出ないだろ」
「あたしの育ち知っている?」
「ん? 辺境の土地持ちの貴族の一夜妻の娘だろ」
「それ以上は聞いて無いんだ」
「何言いたい」
「とにかく。調べさせて」
そうはっきりと言うと、旦那様は頷いて、アーノルドさんに、盗難が起きた部屋に案内する様に命じたのだった。
盗難が起きたという部屋の周りは、警備の人達すら簡単に出入りできない。それは部屋の中の貴金属にもしもの事があったら、もう全ての破滅につながるからだ。
彼等は自分や家族が大切なわけで、身を滅ぼす事につながる事はしない。
だが、きらきらと輝く宝石を見つめるうちに魅入られて、宝石一つとかをくすねて換金し、一家もろとも逃亡すると言う事はありうるのだ。
そんな事を思いつつ、部屋の扉からまずは見ていく。鍵穴には正規の鍵以外で開けた時に出来る微妙な鍵穴への傷が存在しない。
裏側に回っても、針金一つ分の細かいかすり傷すらない。
「……犯人は正規の鍵を使った」
ぼそりと言うと、案内したアーノルドさんが小さな声で言う。
「おわかりに?」
「鍵師は手持ちの大量の細い針金で、厳重な鍵を開けていくけれども、ここの鍵穴の周りの金属は、歴史のある邸宅だからか純度が低いのか、金属自体が比較して柔らかいんです。対して針金は中で折れる事が問題になる事もあるので、思っているより硬くてバネのきく物を使うそうです」
「……」
アーノルドさんの顔が引きつっているのも何のその、扉を開けて中を確認する。
「盗まれた物はどこに置かれていたのか、アーノルドさんほどの人なら把握していらっしゃるでしょう。どこですか」
「こちらにあった物です」
「……指さしてください。案内は要りません」
「は、はい」
手で示された方に近付く。貴金属をしまっていた箱がいくつも棚に並べられている、この部屋が金庫のような役割の部屋だ。
窓のない部屋は、日光による劣化を避ける事が大きいだろう。
壁も、余計な湿気を吸い込んで、劣化を遅らせる作用があるだろう。木の材質からそう判断できた。
「……盗みに入った人はどうやら、この中の事にとても詳しい様子です。アーノルドさん、これは問題ですよ。ここに入り浸ると言う事をしている誰かが邸宅の中にいる、と言う可能性が極めて高くなりました」
「何故とお聞きしても」
「壁に手垢がついていない」
「は」
「外から侵入してきた何者かの場合、盗みは時間との闘いと言います。いかに素早く、金目の物を手に入れるかが重視される事とも。ここに侵入した何者かが外部からの侵入者や、ここに滅多に入れない身の上の物ならば、入り口付近の、……そのあたりの、豪奢で小さな箱に入った物を手当たり次第に鞄に放り込んで、慌ただしく出て行くと計算できますから」
「……」
アーノルドさんの声はもう出ていない。そりゃそうだ。お嬢様がこんなに泥棒のあれこれに詳しいなんて前代未聞と言って良いだろう。
子供の頃の生活から身につけたあれこれだから、あまり人に言った事も無い経験値だ。
「そうなると、ここに靴底の痕があったり、灯りが満足じゃないからこそ、壁に手を当てて、大きな音を立てないようにして物色する事はする。ですが入り口から盗まれた物があった場所までの距離に、靴底の痕も何かが不慮の事態で焦げた印も手垢もない。そもそも狙うはずの小さくて高そうで運びやすそうな物は狙われていない」
顔が険しくなっていく。内部犯なら全ての人を疑わなくてはならない。
旦那様に報告しなくてはならないしそれに……
鍵を管理できるアーノルドさんが、一番下手人として上がってしまう。
これだけ信じてきた人が盗みを、と思うと信じられないが、世の中信じられない事も多い。
「旦那様へ報告はしなくては」
そう言うと、アーノルドさんの顔色は悪いまま、こくりと頷いたのだった。
「なんでお前がそこまで気付くんだよ……」
「現時点で一番盗みに加担したと考えられそうなのは、アーノルドさんですが」
「あいつはやらねえ」
「信じるんですか?」
「あいつは俺様がどんだけ怖いか知ってるからなあ」
げひゃげひゃと下品に笑う旦那様が、睨んだこっちを見て首をすくめた。
「怒るなよ。……お前は奥さんだからもうネタばらしするけどよ」
旦那様はそう言って、耳元に顔を寄せてこう言った。
「俺様が盗んだの」
「……は?」
衝撃に固まったこちらに、旦那様がネタばらしをする。
「俺様が、貴金属整理の最中に見つけたイミテーションのサンプルを、特別展で展示したいっていう博物館に高額で貸し付けてんの」
「……は」
つまり盗まれた物なんて何にも無いと……?
「警備連中の気抜け根性をたたき直すために、今回一芝居打った訳だ」
「つまり……何が正解なのですか」
「警備連中が、盗まれた物が一つも無くて、博物館に俺がイミテーションを貸し出したって答えにたどり着けば正解さ。二日って言う短時間なのはすぐに判明できなけりゃうちの警備にゃ腕が足りねえ」
「警備の者達への……試験ですかそれ」
「そうそう。ついでにうちの使用人達へもな。何かあったら疑われるから、下手な真似するなよっていう警告」
旦那様はにんまり笑い、お前が一番正解にたどり着く道として正しいな、とまたあの下品なげひゃげひゃ笑いをしたのだった。
結果として警備の人達は、真っ青な顔になりつつも、
「盗まれた物は無く、あの部屋から持ち出されたのは、旦那様が大博物館の展示会にと貸し出したイミテーションジュエリーのみです!」
と二日目の夜にやっと報告し、旦那様はにんまり笑って
「俺のほうでの最終確認と一致した。よかったなあ、居ない下手人を引っ立ててこねえで」
と恐ろしい笑い声で彼等に彼等はそれを聞きその場で、気絶したのだった……




