50.打開策
「三人とも、聞いて!」
その私の声に、すぐさま反応が帰ってきた。
「どうしたの?」
「クララ、手短に話せっ。」
「なにか思いついたの?」
近くにいるエイミーを始めとし、遠くにいる二人からも反応が来たのを確認すると、本題に入る。
「……これから私のすることを信じて、その通りにして欲しいです。恐らく、この状況を安全に打開する、最善の方法なので。」
「わかった、その方法に従おう。」
オスクリタからの返事をきっかけに、私は行動へと移す。怪物から視線を、少しでも遮る方法、それは……
「みんな、怪物から一旦引いて下さいっ!氷壁!」
一定の距離ができた途端に、魔法を展開し、私たちと怪物の間には、分厚い氷壁が立ちはだかった。
その隙に、怪物から距離をとり、逃げるように指示出しを行う。エイミーの手を引き、オスクリタとベイリーの後ろを駆けていく。
後ろでバキッて、怪物が壁を壊した時はヒヤッとしたけど、距離がありすぎて、さすがに追いかけてこなかった。
走り続けてどのくらいが経ったのか、ベイリーが、苦し紛れに問いかけてきた。
「ね、ねぇ、逃げてよかったの……?」
「最善かは、分かりませんが、はぁ、減点は、少なくなるはず、です……。」
攻撃をし、逃げるのに全力を使った私たちは、体力の限界が近づいていた。特に魔力の少ないエイミーは、倒れる寸前だ。
「エイミー、頑張って。あと少しだよ。」
「う、うん……。」
既に洞窟の行き止まりは、見えていた。一本道だから、ここがゴールで間違いないはず。
目を凝らしてみると、ハシゴが掛かっているのが見えた。あれだ、と希望の光が差しかかる。三人も気がついたようで、走るペースが上がっているのが明らかだ。
「とりあえず、エイミーとクララ、先に登りな。ベイリーは、俺の前な。」
「すみません……ありがとうございます。」
疲れきったエイミーを先導するかのように、私が先に登り、引っ張りあげた。その後は、ベイリー、オスクリタと続き、無事、大怪我は免れたみたいね。
「オスクリタチーム、帰還しました。」
「了解。」
登りきった先に姿が見えたのは、試験監督者の姿だけだった。他の受験者の姿はなく、少し先には、洞窟に入った時の穴があるだけ。
「試験が終わったチームは、速やかに、筆記試験会場へと移動するように。」
「みんな行こっか。」
試験監督の人が全体に声をかけ、ベイリーが私たちを促す。周りの様子から見て、私たちのグループが一抜けみたい。別に、速さを競っているわけではないけど、遅いよりはいいと思うわ。
「結果発表は、三日後だっけ?」
「そうですね。あ、でも筆記試験の結果は、当日の今日ですよね?」
「そうだね……緊張するなぁ。」
「私も、受かってるか心配です……。」
四人で、先程の席に座りながら話していると、次々と戻ってくる、受験生たちが目にはいる。はじめと、まったく変わらない様子の人もいれば、傷だらけの人もいる。
「はい、全チーム無事に戻って来れたようで何よりです。優秀な生徒が多かったようですね。筆記試験の結果は、今日の午後四時に張り出されます。それでは、試験を終わりです。」
そうして、試験は終わった……はずだった。なのに、なのに、
「あ、そうだ。クララさんは、こちらへ来てください。」
なんで私だけ、呼ばれるのよっ!やっとゆっくり出来ると思ったのに。
「えっと、何か御用でしょうか?」
「こちらへ。」
案内されながら、試験監督をしていた女性について行く。一本道の廊下の両脇は、部屋が連なっていて、学園の教室だと、容易にわかった。
「あの、なぜ呼び出されたか、お聞きしても?」
「簡潔に言えば、試験について。心当たりは?」
「……ない、と答えられるように努めましたが、一気に自信がなくなりました。」
話題を振っても、自爆したかのように終わりを告げた。また沈黙の気まずい空間が続くと、いきなり右の教室へと入ったため、私も慌てて入る。
「ここは、多目的室と呼ばれるところよ。今回は、あなたと私、そして、学園長の三人で、試験について話をするわ。」
「学園長まで……。」
そんな多忙で、偉い人が、こんな(仮)貧民のために、なんで出向くのかしら?私、それほどおかしな事したっけ……?
頭の中で、今日の行動を思い返していると、いきなり知らない声がかかった。
「君が、クララ?」
「……はい、学園長……ですか?」
「うん、そうだよ。」
一通りの会話を終えると、学園長は偉い人が座るような、ぽつんと離れた席に座る。その脇に、試験監督の女性が立ち、私はそんな二人の前に立っている。
学園長は、私が想像していたよりも、若く、綺麗な女性だった。輝く長い金髪を、低い位置で一つに束ねていて、翠玉の瞳がよく目立つ。
前髪を左右に分けているからか、優しくもキリッとした顔立ちが、長らしさを引き立てているの。
気のせいかもだけど、どこかで見たことあるような、気がしなくもない。髪の色と瞳の色が、気にかかるんだよね。
「私はグレース、よろしくねクララ。さて、私も詳しいことは知らないんだ。アメリア、説明してくれるかい?」
グレース学園長は、試験監督のアメリアさんへ話を振る。学園長も事情を知らないのは、想定外だわ。
「はい。まずこちらをご覧に。」
「これは?」
「彼女の筆記試験の答案用紙と、実技試験の点数と行動を示したものです。」
「……これは、本当にクララので間違いないのか?」
「はい、偽りなき事実でございます。」
ふむ、と難しい顔をしながら、なにやら考えている学園長。その傍らで、私は学園長の名前を繰り返す。
グレース、グレース。知ってる……はず、なんだけど。靄がかかっているみたいで、思い出せない。
金色の髪……翠玉の瞳……グレース……あっ!?今、すごくピンときた!
「クラーク辺境伯の、グレース令嬢……!」
「……なぜそれを?」
「え!?」
思わず呟いたことが、学園長本人に聞こえちゃったみたいですごく焦る。どうしよ……どうするべき!?
「……アメリア、合否発表の準備をして待っておれ。クララは保留だ。」
「かしこまりました。」
そんな会話を終えると、アメリア先生は素直に下がっていった。
グレース学園長の視線が痛い……ずっと感じる。少しつり目の綺麗な瞳が、私を真っ直ぐ見据える。
「そなた、平民か?」




