49.聖杯、剣、盾、棍棒
「真冬の航跡波!!」
航跡波というのは船などの水面を航行する物体によってできる波のこと……って先生が言ってた。海とかに関しては詳しくないからよく知らないのよね。
真冬の波って、聞いただけで寒そう。
呑気なことを考えている私の前は、まさに大洪水だった。本来なら、勢いの強い低い波が押し寄せるだけなんだけど、ここは細くて永遠と長い深淵。横に広がった波が落下しながらまた怪物の方へと押し寄せ、動けないのか、必死にもがいている。
「っ!?冷たっ!」
不意にしぶきが飛んできたことに驚きつつ、ものすごく冷たい水を肌で感じる。怪物は一体どれだけの苦しさを味わっているのだろう。考えただけで震えてくるわ。
しかし、同情はしない。私たちに危害を加えたんだもの。
水が徐々に深淵の奥底へと消えていき、怪物も動かなくなった。
「そろそろ大丈夫そうね。」
魔法を解除する。二つの魔法を同時、しかも、それなりに強い魔法を維持しながらはさすがに魔力がごっそりと削られたわ。疲労感がいつもの比にならない。
「深淵も解除しようかしら。」
深淵の解除には二種類あって、完全に発動前の状態に戻す方法。つまり、中にいる人や敵も地上へと出てくるってこと。もう一つは埋めるイメージかな。完全に閉じ込めるの。
「試験で後々面倒になりそうだし、一緒に戻った方がいいわよね。」
魔法を解除すると、空間が歪むような感覚に陥り、既視感のある洞窟へと移動していた。
「クララっ!!」
えっ!私の目に、映ったのは武器のようなものを持って戦う、みんなの姿と、大量の怪物。そんな緊迫した空気の中で、私に声をかけたのはエイミーで、こちらに全速力で走ってくる。
「ねぇ、どうなってるの?」
「わ、分からない。急に出てきて……二人が戦って……。」
「何となくわかったかも…?けど、武器はどうしたの?持ち込みは禁止だし、この洞窟では見当たらなかったよね?」
「あ、それは……クララみたいに、出てきたの。私もほら。」
「……剣?」
「うん。でも、私は戦えないし……。」
こうやって話している間も、激闘の音が聞こえるわ。早めに加勢しないとね。
「エイミー。私はそう思わないわ。」
「え……?」
「エイミーも戦えると思う。勇気がないだけよ。だって、受験のために努力してきたでしょ?あなたが運動できることは、一目見たときから分かっているわ。」
それから黙りこくってしまったエイミーをじっくりと見つめる。心に直接問いかけるかのように。
「私、運動はできる。よく木の枝を剣の替わりにして練習してきたの。でも、思っていたよりも剣は重いし、怖くて体が動かないの……。」
「思い込んでいるだけ、あなたはできる。努力の成果を発揮すべきよ。」
私は諦めずに説得を試みる。ここで終わってしまっては勿体ないもの。チーム戦なのもあって、尚更、置いては行けないわ。
「でも……足が震えて……。」
「私のところまで走って来れたじゃないの。」
「あの時は助けを呼ぼうと必死で……。戦うとなったら……。」
「じゃ、私が魔法をかけてあげる。」
「魔法……?」
「うん。」
そうして、私はエイミーのおでこをパチッ、とはじいた。案の定、エイミーは驚いた表情を滲ませる。
「うわっ!?」
「えへっ、元気出たでしょ?」
「クララったら!痛いでしょ!」
「でも、緊張解けたでしょ?それに、怪物にやられたらもっと痛いよ?」
「た、確かにそうだね……。」
「ほら、私も行くから、一緒に行こ?」
「……うんっ!」
歩みだしたエイミーの姿は堂々としていて、表情は言わずともやる気に満ちている。
エイミーがやる気じゃ、私も負けていられないわ!
私は、棍棒を振りかざすオスクリタと、盾を使いながら魔法で攻撃するベイリーに向かって大きく声をかける。
「オスクリタ様!ベイリー様!」
「クララ遅いよっ!」
「とりあえず、加勢を頼む!その……できればエイミーも。」
「「はい!」」
威勢のいい返事をすると、野放しになっている怪物を見つけて、エイミーが剣を構える。
あ、あのぉ……私は何を構えれば……?エイミーがバッチリと決めてる横で、私は聖杯でも持っとく?いや、異質すぎる。
結局、魔法を展開する前段階で、手を突き出して攻撃の構えをとったわ。あっちは、こちらの様子を伺っている。かなり慎重ね。
「エイミー、先に攻撃を仕掛けるわよ。」
「うん!」
怪物を一瞥し、魔法の展開に全霊をそそぐ。さて、この敵さんの弱点はどこかしら。あの、「致命的場所探知」だっけ?私も使えたらいいのに。
「まぁ、粉砕すれば関係ないか。」
「ふ、粉砕っ!?」
「エイミー行くわよー。」
「はっ、はいっ!」
ここで、真冬の航跡波を使ったら、大変なことになるよね。私以外、みんな流されそう。
だったら、また永遠の深淵?この数となると、魔力が流石に持たないかも……。
「魔力消費量が少なくて、強い攻撃魔法……。」
「私は弱くないもん。死なないもん。逃げないもん。守られてばかりじゃなくて、守るもん。」
私が呟きながら考えていたら、隣でボソボソとエイミーが自分を奮い立たせていた。
もっと、違う視点から考えて。何か、安全に合格できる抜け道があるはず……。攻撃魔法……これに、こだわらなくても、いいのかしら。というより、攻撃する必要がある……?
私たち四人で逃げちゃえば、他に人もいないから、被害が出ることもない。そして、戦って負けたり、傷を負って減点されるリスクも減るわ。
メリットが多い……。これに賭けない手はないわ!
怪物に視線を向けたまま、叫ぶようにお腹から声を出す。
「三人とも!聞いて!」




