47.油断大敵
「ウオアアアアアア!!!」
な、なに?上からなんか降ってきた!防御に適している氷壁でもかなりギリギリみたい。ヒビが入っていて今にも割れそう……。
私は全力で走る。展開した氷が鋭い破片となって落ちてくるのを恐れたから。少ししてポロポロと落ちてきていた氷の粒が大きくなって塊が鈍い音をたてながら地面へと叩きつけられる。
さらに、ひときわ大きい……私が出した氷壁の大半を占める大きさの塊と共に黒い物体が視界に移る。
白く光る目をギラギラさせながらゴツゴツとした体を起こす。心なしかこちらをじっと鋭い眼差しで見つめられている気がする。
……怖い。私、怪物と戦って経験がそんなにないの。唯一の経験はフォーリャ達と王宮の怪物討伐をした時。あの時は妖精との共闘だったし、精霊様も近くにいた。でも、今回は違う。チームだけど魔法の得意不得意がはっきりしていて、なおかつ技術も未熟。
体が無意識のうちに震えを起こし、体の動きが鈍くなる。
「おい!何してるのだよ!危ないぞ!」
「クララ、早くこっちに来てよ!」
オスクリタとベイリーがこちらに向けて叫んでいる。エイミーは怪物の姿に萎縮して身震いを起こしながら口元に手を添えている。
い、いかないと。私が動き出そうとしている間にも怪物はこちらに攻撃する準備をしている。おそらく、このまま受けたとしても命に別状はないと思う、試験だからね。でも、そうなるとやっぱり首席どころか入学だってできない。
魔法の展開!展開しないと……。
……間に、合わない……。今からやっても、ダメだ。
私は思わず目をつぶった。すると、そのままシンとしたまま、何も起こらない。
「なっ、なに!?」
驚きのあまり目を開く。すると……怪物が私に振りかぶって固まっている。いや、なになになに!どうなってるの!
「……。」
なんかもう、フリーズしちゃってるし、緊張が解けてきた。油断しちゃいけないって、わかってるんだけどね。
するといきなり宙をさまよっていた拳を戻し、少し後ずさりを始めた。
えっと……?ほんとにどうなってるの……?
「ギイェェェェェ!!!」
急に怯えた様子になってうずくまり始める。その姿はまるで強者にひれ伏す下の者のようだった。
なんだろう。なぜだか、どうするべきなのかが浮かんでくる。
「き、消えなさい。」
とりあえず実行してみる。さすがにそう上手くはいか……いったぁー!
怪物は身震いをしたまま下がって行く。しかし一度だけ振り向き、「アp…アーミーンズ……」のようなものを弱々しく言い放ち、暗闇の中へと消えていった。
夢でも見ている感覚だったわ……。すごくヒヤヒヤしたけれど。
「「クララー!」」
三人がドタバタと足音をたてながらこちらへ駆けてくる。
この後、無事でよかったーの繰り返しで収まるのには十分ほどかかった。ふぅ、怪物よりもこっちの方が大変かも。
それからというもの、他にも怪物が現れて、その度にみんなで協力して倒した。
そしておそらく試験も終盤と思われる頃、
「待って、三人とも下がった方がいい。」
え?私とエイミーがその場で固まっている中、オスクリタは少しずつ慎重に後退りをして、ベイリーの指示に従う。
「クララとエイミーも下がりなさい。」
今までほんの何十分か一緒に居ただけだけど、こんなに強気で貴族らしくて、威圧のあるベイリーは初めて見る。
私はエイミーの手を掴んで一緒に下がる。ベイリーもそれに続いて後ろへと足を引きずる。
「どうしたのですか?ベイリー様。」
エイミーの問いに私も頷く。一体何があったのかしら。
「この先、まだ距離はあるけど、今までのに比べ物にならない怪物がいるわ。」
「あ、あれよりも強いのがいるのですか!?」
「ベイリーの探知は一流、ほぼ百パー当たる。警戒するに越したことはないな。」
「流れ的に、最終関門、ですかね。」
落ち着いて四人で会話をしているけれど、緊迫した空気がピリついている。奥からは常に禍々しい気配を感じ始め、思わず身が固まる。
「……行くぞ。」
チームを率いるリーダーのようにオスクリタが後押しをする。三人であとに続いていく形でゆっくりと歩み続けていった。
「「……!?」」
四人で一斉に何かを感知して体が飛び跳ねる。なに、これ?
「ビート!イット!」
小さな……猫かな。可愛い。黒くてもふもふの猫が言葉を喋っている。魔法を使って動物に特定の言葉を言わせることは出来るらしいからそこまで驚かないけど、でも初めて見る。
「こ、こんにちは。」
「ビートイット!ビートイット!」
明るくて甲高い声ね。んー?コミュニケーションはできないのかな?まあいいや。ここにいるってことは何かしら意味があると思うし、意見交換をしないとね。
「可愛い猫だね。」
「……猫?」
私がエイミーに口角を上げながら伝えると不思議そうな顔をして疑問符を浮かべた。そしてハッとしたように言い直す。
「もしかして、この話してるのが猫なの?」
「当たり前だろ。なんだよ、猫を初めて見た雰囲気なんか出して。」
私の代わりにオスクリタが答える。噛み合ってない違和感があるのは私だけかしら。
「そうです、私、猫さんを見るのが初めてなんです。」
「そうなのか?」
「無理もないよ。」
エイミーとオスクリタの会話に素早く入ってきたのはベイリーだった。そして言葉を繋げる。
「猫……というか動物は高級種だからね、それなりに地位のある人じゃないと見ることもないよ。私も何回かしかないもの。」
そういえばそうだった、と思いながら後悔が押し寄せてくる。私、まずいことしたんじゃない?王宮で小さい頃に見ていたからうっかりしてたわ。
「そうなのか。……なら、なんでクララは猫だってわかったんだ?エイミーと同じ平民育ちだろ?」
オスクリタの疑問に同意するようにこちらに目線を送ってくる二人。……なんて言おう。
考えている間にも猫がビートイットといいつづけている。
「その、前にお貴族様の馬車が街を通った時に猫が乗っていて。動物が好きなので、見たことのない動物でも、図鑑の説明を見て覚えていました。」
これで、ごまかせるかな。
「そうなんだねー!私、動物っていま見た猫さんしかわからないけど、みんな可愛いのかなぁ。いいな、お貴族様。」
「……そっか。貴族の馬車なら、納得だね。」
すぐに反応したエイミーとちょっと間を開けてニコッとしてくれたベイリー。だけど、オスクリタからの反応はない。パッと視線を送るとこちらに軽く笑顔を送ってくれた。
うん、大丈夫そうだね。でも、油断していた。
「ビートイット、ビートイット……ビートイット……」
え?
「……」
止まった……?突然「ビートイット」の鳴き声?が収まり、沈黙が流れる。みんなも驚きつつ警戒しているのか体に力が入っている。
「レイト」
先程とは天と地の差がある低い声で再び話し始めた。違う言葉で。状況整理ができないでいると周りに霧が立ち込め、大きな影が出てくる。
「ほんと、どうなってるの?」
可愛い可愛いもふもふの黒猫は真っ黒でゴツゴツした大きい怪物へと変化した。
本当にお待たせしました!
次話は「トランプの意図」お楽しみに。




