41.本当の仲間
「……怖かった。」
ただそれだけの事。周りはみんな変わっていくのに、私だけ置いてけぼりにされてるみたいで。お父様はアナティアに向けられた敵意も、所在もわからないお母様も、みんなみんな怖かった。
「怖かったのですね。」
「ん、うん。怖かった、ずっと怖かったぁ。」
「今は違いますよ。フィーナ様や騎士団の皆さま、力不足ながらもわたくしも姫様のために尽力いたします。家来ではなく、仲間としてその闇を払って差し上げます。」
ぎゅっと抱きしめてもらっているわけでもない。手を握ってもらっているわけでも、頭を撫でてもらっているわけでもない。言葉だけなのに、なのにあたたかい。
私をまっすぐと見据える先生の瞳は、驚くほどに澄んでいて、優しかった。
─────────翌日
腫れた目は昨日のうちに魔法で治しておいたからバレずにすんだ。あの後はいつも通り解散して、シモツケ宮へと戻ってきて、そして今日。とうとう根詰め!試験の前日だもの、集中しなくては。
先生は今日も明日も来ない、来れない。外せない用事があると言っていたけれど、おそらく昨日のこともあって気を遣ってくれたんだと思う。
本当はゆっくり休みたいところだけど、そういうわけにもいかないわ。フィーナや先生まで巻き込んだもの。必ず首席を取らないとね。
明日以降の流れはこう。
今日の夕方から出発し、明日の朝に到着。そのまま受付を済ませて、試験開始の昼過ぎまでは宿泊施設探しと勉強しつつリラックス。
試験は全力で行い、そのあとは宿泊場所へと戻り、三日後の合格発表まで現地で待つの。一度戻ると距離的に大変だからね。
その間、私は一人がいいとお願いをした。どこで誰が見ているかわからないから、できるだけ平民のクララを取り繕っておきたい。だから外出時には、魔力入りのお守りの持ち歩きと遠くから少人数の護衛ということで解決した。
「クレア様、頑張っておられましたもの。大丈夫ですよ。」
「うんうん!頑張ってね!不正する気はないけど、もし面倒事が起こったら困るから門の前で待ってるからね。ずっと応援してるよ!」
「うん、ありがとう。」
フィーナとフォーリャの二人に向けて感謝の気持ちを伝える。不安なことは沢山あるけれど、頑張るわよ!努力を無駄には、しない!
そして夕方。シモツケ宮の前には小さいながらも馬車が止まっていた。騎士団のみんなが要請してくれたらしい。嬉しいな。フィーナ達は荷物を詰めていたり、書類の最終確認をしたりしている。
「ねークレアちゃん、学園って本当に平民も入れるの?」
「うん、そう報告があがってる。アズル先生や卒業生の騎士さんにも聞いたけど入れないことはないみたいよ。」
「入れないことはない?」
「貴族は推薦入学とか試験免除があって、優遇される人もいるから完全に公平とは言えないけどね。上下関係もあるらしいのよ。」
それが心配よね。ただでさえ同年代との交流経験が少ないのに上手く付き合っていけるかしら。話の話題もわからないわ。
「姫様ー、準備が整いましたー!」
ステルク騎士団で数少ない女剣士、ラーシアが大袈裟に弧を描きながら手を振って声をかける。
「わかったわー。行こう、フォーリャ。学園へ!」
「うん!」
─────────馬車の中
幸い王宮は下町と離れているから、人の少ない場所から迂回して街をぬけた。
私は馬車にゆられながら参考書を読み込んでいた。最後の悪あがきというものね。
「クレアちゃん。」
「ん?どうかした?」
「なんか、変な感じがする。この森の道に入ってからずっと。嫌な予感がする。」
嫌な予感?雷が鳴ってシモツケ宮の天井が壊れかけた時も、私が宿題を忘れてアズル先生が静かな冷気を放っている時も、一緒に騒いだり、震えたりしていただけだったのに。
事前に何かを察知して、しかもそれが嫌な感じとは、私まで不安になってきた。
膝の上にのっけて広げていた参考書をパタリと閉じ、馬車の窓から上半身を少しだけ乗り出す。風が吹いて、夕日に照らされて光っている銀色の髪が顔をおおったため手で素早く耳にかけて抑える。
「御者さん御者さん。少しいいかしら。」
「は、はい!な、なんでございま、しょうか?」
緊張した声色で私の問いに返す。そういえば急遽御者として遠出することが決まって、それが王女のお供ということは今日の昼間に知ったらしい。しばらく緊張は抜けなさそうね。
「周りによく注意をして頂戴。何かあったから怒っている訳ではないのよ。念の為ね。緊急の場合は随時、私の許可なしに止めたり、スピードを上げたりすることを許すわ。」
「は、はい!命にかけてお守り、いたします!」
わ、私、変なこと言ったかしら。優しく言ったつもりだったのだけれど。まぁいいか。護衛のみんなは周りに気を配っているのは当たり前のことだから言わなくてもわかるわよね。信頼しているわ。
再びフォーリャに詳しいことを聞こうと馬車の中に身を縮めようとした時、なにかが私の頬をすっ、とかすった気がした。
「きゃっ!?」
びっくりしたわ。葉っぱかしら。その方向を向いてみるとそこにはわずかな赤い液体が窓の縁に付いていた。
私の……血?理解した途端、かすった先に痛みを覚える。浅い傷のようだけどなかなかに痛いわ。一体何よ!顔が傷ついたじゃないの!
「……!?」
なに?私をかすったものは馬車の中に入り込んでいた。
フォーリャが短い足で駆け寄った先にあったのは弓に使う矢だった。
なかなか試験さえもたどり着きませんね。
そちらを早くみたい方、すみません。もう少しです!




