40.優しい私の先生、終了
「永遠の深淵!」
あれから何週間が過ぎ、入学試験を目前に控えていた。座学はもちろん、実技の方もかなり上達したわ。
「ふむ、上級魔法は問題ないですね。」
粉となりまさに跡形もない的を見ながら真面目に分析を始める。……先生のこの様子にもだいぶ慣れてきたわ。
「では、初級と中級も打ってみましょう。」
「はい!」
そうして私は一度だけ深く呼吸をすると初級魔法の呪文を唱える。
「放出準備、閃耀!」
同時に光があらわれ、的へと一直線に向かっていく。そして見事命中!実はコントロール、なかなか上手くいかなかったの、つい最近までは。初めの一回と先生の前で出した時がまぐれだったみたい。
「次、いきます!氷壁」
こちらは攻めと言うよりも守りの魔法。試験ではあまり使わないみたいだけど身を守るためには大切な中級魔法の一つよ。
「なかなかに上達しましたね。これであさっての試験も首席間違いなしでしょう。しかし、油断してはなりませんからね。」
「はい!その、先生。」
「どうかしましたか?」
「あ、ありがとうございました!短い間でしたが、お世話になりました。」
雇用期限は試験当日、あさってまで。明日と当日はバタバタするだろうから今だ!と思って思いっきり頭を下げる。
するとすぐ側で風が起こった気がした。少し頭を戻して目線を前へと移すと先生が体をくの字に曲げていた。
「先生!?あ、頭をあげ……」
「こちらこそ、人生で最高の一時でした。」
人生で最高……?思ってもみない嬉しい言葉に首をかしげる。
ふふっと軽く笑った先生は言葉を繋げる。
「わたくしは前に言った通り廃れ貴族の子息です。しかし、どちらかというと運動に優れていたわたくしはこの気難しい性格もあるものですから見放されてしまいまして、孤児となりました。
なんで王族は助けてくれないんだなんて考えて、路地で暮らし続ける日々。しかしある時をきっかけに魔力があることに気がつきまして身を守ってきました。」
自然としんみりとした空気に変化する。私よりもあまりに辛い生活を強いられてきたような気がして、無意識のうちに拳をつくっていた。
「……それから色々あってそれなりに稼ぎ、貴族としての地位はなくなりましたが、元孤児にしては裕福な生活をしていますよ。もう、心配いりません。」
私の気持ちを感じとったのか明るく振舞って簡潔に締めくくった。そのおかげで少し空気が和らいだけど、私が切り裂く。
言わねばって思った。先生だけでは不公平な気がしたから。たとえ先生が言わなくてもいいって思っていても。
「私、離れに暮らしてます。王女なのに、まともに側仕えもつけないで。なぜかご存知ですか?」
「……趣味、でしょうか?最低限の自給自足と言いますか……。」
「いいえ、理由は簡単なことです。……嫌われたから。ただそれだけ。」
よくわからない、といったように驚き半分の顔をのぞかせている。
「本当にそれだけです。家族仲にヒビが入ったからその日から徐々に崩壊していった。あのアナティアとお父様をはじめとして。」
「差し出がましいでしょうが、もし宜しければ伺いますよ。全て吐き出してください。」
気持ちを打ち明けられる場所がないのでしょう?と。
目が潤む。その通りだった。騎士団のみんなにもフィーナにも、心配をかけまいと笑顔で振舞っていた。
フォーリャたち妖精や精霊様とは記憶映像化魔法の一件もあって、吐き出すというよりは勝手に知られている状況だった。
こくこくと頷くとゆっくり口を開こうとする。でも先生が私の肩を掴んで制止する。
「ひとまず中に入りましょう。今の時間はまだ訓練時間内ですから奥の小屋にでも。」
奥の小屋?どこのことだろう。とりあえずついて行ってみる。なんと驚くことに知らない脇道があった。細い小道が続き、時々左右に生える葉に体がすれる。特に怪我とかはないけれど。
道をぬけて開けた場所にたどり着いた。そこには言葉通り、本当に小さな小屋があって、でもどこか頑丈そうで、さすが王宮の敷地内だと思った。ちなみに離のさらに奥にある。
「ここは、わたくしが偶然見つけました。たまに様子を見に来ていましたが、人が来たことは1度もなかったので安心して大丈夫ですよ。」
私は必死に頭の中で言葉をめぐらせ口を開く。
「前は王女が住む宮に住んでいました。お父様もお母様もみんな優しくて幸せで。でも、私の一番のメイドが消えたんです。手を尽くしても手がかりすら見つけられず、今でも不明。その頃から妹のアナティアの様子がおかしくなって、伝染するように、お父様も冷たくなって王宮から飛び出しました。
少しの間は再び幸せでした。新しく来た仲のいいメイドと下町の友達。みんなと楽しく、笑って。でも、また、連れ戻されて……お父様が、変わっちゃって、おかしくなって、」
言葉がおかしくなる。今までずっと堪えられていた涙が溢れててきて、声がつっかえる。それでも先生は静かに聞いてくれた。途中でへんに慰めたり、遮ったりせず、ずっと私を見据えて。
「それで、それでっ、心も体も、傷ついて、フィーナや騎士団のみんなが寄り添ってくれて、少し……だいぶ気持ちが楽になった。でも、もう平気。終わったこと、だもの。」
一人で話しているみたいにリラックスした気持ちで涙でつっかえるのとは別につらつらと言葉が出てくるのに、独り言よりも凄くスッキリする。
「それで、今、一番吐き出したいことは?聞いて欲しいことは?私に、なんと言ってもらいたいのですか?」
思いもよらぬ発言の連発で硬直に似た状態になる。でも、負けない。
「……怖かった。」
魔法の詠唱って考えるの難しいですね。




