37.天才クレア誕生
「私です。私があなたの雇い主です。」
沈黙が空間を支配していた。なんていうの、ほらあの、何も悪いことしてないのに気まずい雰囲気の。
「……そうですか、改めてアズルです。」
「アズル、私のことはご存知ですか?」
アズルは私を真っ直ぐと見据える。知ってるか、と質問したものの知らないって知ってるよ。
「いいえ。」
「私はクレア。クレア・ジュア・ヘリオス。亡くなったって噂の第三王女を知っているかしら。」
「!?」
さすがにこれには驚きをあらわにした。
「私は死んだなんて噂、流してないんだけどね。こんな所にいれば仕方ないか。」
「ご無礼をお許しください。」
「い、いいのよ!私が言わなかったから!ごめんなさいね。素のあなた達を評価したかったの。」
「……素?」
「望……素晴らしいと思ったわ。私に協力してもらえるかしら?」
「もちろんでございます。」
─────────次の日
昨日はアズルが驚きすぎて頭が追いついていなかったから授業は持ち越しとなった。
え?そんな驚いてなかったって?いいえ、すごく驚いていたわ。だってあの後気絶したもの。一瞬トラウマがよみがえったけど、近くにフィーナがいたから大事に至らなくて良かったわ。
そして初授業の日。私は正座していた。
「あの、いつまで、このまま、いればいいのですか?」
「集中できるまでです。」
うぅ〜!こんなはずじゃなかったのに!
「勉学に集中するには当然、集中力がなければ、いけません。これは主に、異国の場所で使われる修行方法です。」
「でも、先生。試験まで時間がありません。それは後でも……。」
「だから今なのです。受験に集中力がなければ学力があってもミスをします。」
「う……はい。」
そして十分ほどして解かれた。もう足がしびれて大変よ!
椅子に座って座学を受ける準備をする。
「これを続けていけば、集中力はあっても受かれないのではないですか?」
「こちらを見てください。」
……?これは確か、アズル先生の採用が決まった日、やっておいて欲しいと頼まれていたテスト。もちろん先生が気絶する前に渡された物よ。
「こちらは過去の受験問題です。姫様から見て右側が姫様の回答、そして左側が平均点です。ご覧下さい。」
そして机の上へと丁寧に置かれる。これ、かなり難しかったのよね……。自信ないわ。そして私はペラっとめくって中身を覗く。
なになに……右が六十四点、左が四十八点。もう一回見てみよう。やっぱりその通りだ。あれれ、先生間違えたかな?私と平均点、反対っぽい。
「先生、これ……」
「右が姫様ので間違いありませんよ。
平均点が四十八点、合格点は五十点、現時点での姫様の点数は六十四点ということです。」
ほ、ほわわーん。私、できてるのよね。やった!
「でも、合格点が半分って低くありませんか?」
「それほどまでに難しいということなのですよ。姫様は小さい頃に英才教育を施されておりましたからその賜物でしょう。」
まぁ、確かに前はスパルタだったわね。
「問題は実技ですね。もちろん首席のため、座学も向上させますが、魔法を使ったことがないと側仕え様から伺いました。」
「待って待って、首席ってどういうことですか?」
「やるからには主席を目指さなくては。平民として受けるのですよね。平民が首席となれば貴族がさぞ、燃え上がることでしょう。」
怖い怖い。でも止められそうにない。まぁ、程々に頑張るわ。
ところで魔法。使ったことがないことになってる。つまり魔力測定から。そしてすごく多いことに問い詰められる。さらにフォーリャ契約していることが明らかになる可能性も。
どうしよ、どうしよ!なんとかしないと!
「あのぉ、実技はいつから……ですか?」
「無論、本日からです。」
「あ、あはは。少々お待ちいただけますか?今朝の牛乳を急いで飲んだのがあたったのかもしれません!」
私、意外と体強いから、がぶ飲みしても痛くなったことないのだけどね。緊張と場の空気にお腹が痛くなってきた。だから痛いのは本当だから!牛乳の可能性だってあるし!
そしてお手洗いへと駆け込む。閉めたドアに寄りかかりながらへばりつくように座り込むとそれでだいぶ収まった。
「フォーリャ!どうすればいいの?」
「困ったなぁ。あたしもわからない。」
「通信で聞いてみてくれない?」
フォーリャは頷くと私に背を向けてなにやら話しだした。
はぁ、一体どうしよう。約束も敗れないし、嘘もつけない。
「いいって。」
「え?」
「話してもいいって。限界まで粘ってみて、ダメそうだったら仕方ないって言うのがあっちの意見らしい。」
そう、と呟くように言い放つと頭をコツンとドアにつける。言うのにもかなりの勇気が必要ね。でも、頑張るしかないわ。私の選んだ道だもの。
そっと身を潜めるように戻ると先生は窓……いや、空を眺めていた。
「戻りました。何をしているのですか?」
「お帰りなさいませ、空を見ておりました。雲の流れを見ていると時の進みを感じますね。」
そして再び座り直して本題へと入る。
「では先生、魔力測定から、お願いします。
ふふ、きっと驚きますよ。」




