36.面接官になる
あの怪物騒動から二ヶ月が経ったある日のこと。
私はある準備で一日中動きっぱなしだった。それでも間に合わず、夕飯に関しては食べながらしていたもの。王女としてあるまじき行為だけれど、状況が状況なのでフィーナを含めた誰も咎めなかった。
私がこんなにも忙しくなったのはある一言が原因だった。
─────────昨日
「ねぇ、フォーリャ。私、相当大変だと思うのよ。」
「え?なんで!?病気になった!?」
「そうじゃなくてね、私、勉強ができないの。」
勉強ができない。正しく言うとできていない。王宮から正式に家庭教師を雇ってもらえるわけでもなく、だからといって学園に通わせてもらえるわけもない。ここにいる誰かに教えてもらうという手もあったけれどなんせ教材もない。
いやいや、王女なら買いなよってなるかもしれないけれどそう簡単にはいかないのよ。私の金銭関係は王様が管理している可能性が高いからね。面倒事になったら大変だわ。
それでも生活分と雇用費はきっちりと出してくれているの。
顔は見たくないけれど、死んで欲しいという訳でもないみたい。一応娘だものね。
「なるほどねぇ、ならさ、通っちゃえばいいんじゃない?学園に!」
「学園に?無理よ、私は王女だし、費用も出せないもの。」
「そっかぁ……。」
ん?いや待てよ。私、死んだことにされていたんじゃなかったかしら。費用も何とかなるはずよ、きっと!
「私、学園に通いたいわ!」
「あら、クレア様。学園に通われるのですか!?なんとご立派な……。」
いつのまにか扉の前で立っていたフィーナは目を潤ませながら感激したように呟いた。
「フィーナ!いつからそこに!?」
「学園は無理と仰っていた頃からです。独り言を呟きながらお考えでしたのですね。」
なんとかバレてない?確かに独り言にも聞こえるかもね。うん。
「あぁ、うん。そうなの。私、学園に行きたい!」
「しかし、クレア様が通われるのならば王様を通さねばなりません。」
「そうね、だから私はクレアとして通わない。学園に行ったら私は平民のクララよ!試験も公平に受けてくる!」
そうして始まった学園準備。今日は学園に入るための準備……の準備。教材集めや一ヶ月限りの専属教師を探すの。
見つからなかったら騎士団の誰かに教えてもらうつもり。私が通いたいと思っているソレール王立基礎科学園に在籍していた騎士さんもいるの。
今日がスムーズに進めば明日からは試験勉強開始!今は3月の初め頃で、試験は3月の終わり頃だから期間は意外と短い。これはもう猛勉強よ!
「クレア様ー!連れてまいりましたよ!教師希望者!なんと三人です。」
「ありがとう。私が面接室の方まで行くわ。」
これには私の一生がかかっている。学園に入れるチャンスは今しかないもの。そんな私に教えてくれる先生はやはり私自身で選びたい。
面接室というのは雰囲気でそう呼んでいるだけで、メイドの休憩場所のこと。ここは離れだから人は全くと言っていいほど来ないの。
ちなみに態度が変わるといけないから王女ということは伝えていない。
──────面接室入口前
「ごきげんよう。私は今回の面接官を務めます。ファルセダーと申します。」
「ファルセダーさん……見かけぬ名前ですわね。」
「ほぉ、子供ですかぁ。よろしくお願いします。」
眼鏡をかけた厳しそうな中年の女性とおじいちゃん先生が反応してくれた。それに対して顔の整った若い男性はペコリと会釈しただけだった。
ここで一つ、ファルセダーとは。この偽名の意味はそのまま偽りという意味。少しふざけすぎたかしら?
「ではそちらの女性から中へどうぞ。」
──────面接室
名前等の一通りの会話を進めたあと、私が一番気になっていることを質問する。
「あなたはどんな教師になりたいと考えていますか?」
「もちろん、合格ですわ!朝から晩までずっと勉強をサポートし、最適なトレーニングを設定いたします!」
んー、生徒の健康を見ないタイプね。私、今回はバッサリ切り捨てるって決めてるの。はい、不合格。
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続いてオネストがおじいちゃん先生を中に通す。
「改めましてごきげんよう。」
「こんにちはぁ。」
話すスピードもやっぱりおじいちゃん先生だね。
その他にもさっきの女性と同じような会話を繰り返したけど耳は遠いし、ゆっくり話すし、目は悪いし、教師に向いてないと思う。ごめんね、不合格。
**********
「こんにちは。」
「どうも。」
最後はあの大人しそうな男性。初めて声を聞いたけど、なかなかにいい声ね。勉強に関しては問題ないわ。
学力、問題なし。態度、声が小さくて俯いているけれど多分問題なし。身なり、問題なし。残るはあの質問だけ。
「あなたはどんな教師になりたいですか?」
その瞬間、その整った顔が私へと向けられた。それは、その瞳はまさに、教師の目。
「望です。」
望?どういう意味?
「詳しく教えてください。」
「望まれる先生像になりたいです。百人の生徒がいればそれぞれにあった百人の性格の教師になります。そして望むことを叶えられるように協力するという意味です。」
すごい。すごいすごい!決めた!この人がいい!少しぶっきらぼうだけど、そんなのどうだっていい。
「面接は以上です。お疲れ様でした。」
そしてまた一礼して退出していった。
─────────翌日
「昨日の方が到着されました。」
「お通しして。」
そうしてシモツケ宮内の広間、いつも自身の部屋以外でくつろいでいるところへと続く扉が開かれる。
「昨日はどうも。」
「えぇ、そちらへお座りになってよくってよ。」
「失礼します。」
そしてフィーナが入ってきて、私と先生の前に紅茶を置く。
「紅茶は嗜まれておられまして?」
「それなりに。」
そして何度か口にカップを運んだ後、口を開いて尋ねてきた。
「こちらにわたくしが専属となる方がいらっしゃると聞きました。どこですか?」
すっごいストレート。回りくどいよりはその方がいいけれどね。
「ここにいますよ。」
「……?」
反応が鈍いのでストレートにはストレートで対抗する。
「私です。私があなたの雇い主です。」




