33.意外な敵対者、異常
ルーチェに刃のようなものを突きつけられてから、沈黙が流れ続けていた。そんな空気を切り裂いたのは、私にとって意外な妖精だった。
「……ルーチェ、やりすぎだ。」
ヌーべは相変わらずたんたんとしている。フォーリャは驚きのあまり、すっかりフリーズしてしまっている。ソルは、少しだけ険しい顔でいるだけで他に変わったところはない。
待ってね、なんか、見えてるの。ソルもヌーべもルーチェも。姿が見える。特徴を聞いたことがあるから、すぐわかった。でもそれよりもこれ、どうにかしてほしい。
「わかってるよ。でも、今の現場指揮はわたし。万が一を考えて行動しなければいけないの。……クレアちゃんだったら、ごめんね。」
私だったら……?どういう意味だろう。首を傾げていると、ふとルーチェの使っている武器に注目してみる。
まず、明らかにルーチェや他の妖精よりも大きい。私が使うのにいいサイズかもしれないわ。むかし本で見た事があるの。手引き糸ノコ?というのに似ている。手で持つところの先は、二つに分かれていて、そのうちの一つに刃がついている。普通に怖いよ!嫌な汗がツーっと首筋から背中にかけて流れていく感覚が襲ってくる。
「ルーチェ、クレアから目を離さずにみんなで戻ってきなさい。」
この、司令室からのルーナ様命令により、退却となった……ってフォーリャから聞いた。私には回線がついてないからね。声を聞くことはできないの。
──────妖精たちの会議室
「これはまたわからんな。……ルーナやソレーユはわかるか?」
「いいえ、見分けもつかないわね。つい先程会ったばっかりだもの。」
「俺も検討がつかない。つまりだ、これはクレアだろ。」
ずっとこんな具合に話が繰り返されていく。私だけおいてけぼり。一体なんの話よ!
「一体なんの話!?っていうクレアの声が聞こえる。」
「え?口に出してた?」
「いいや、心の声が聞こえた。」
これまた見事に当てられて、驚く他ないわよ。わかってるなら早く説明ちょうだいよ。
「なら単刀直入に聞く。……お前、クレアか?」
はい?なによ、私が偽物だって言いたいの?まさか、ソレーユがおかしくなった?いや、それだったらさっきの会話に説明がつかないわ。
「あのさ、ソレーユ。本当になんのこと?私が私かって、おちょくっているのかしら?」
「悪いな、なら質問を変える。俺たちの名前、全員言ってみろ。」
意図が全く汲み取れない。とりあえず言われた通りにしてみるわ。
「左からステラにルーチェ。フォーリャ、ラント様、ソレーユ。ルーナ様、ヌーべ、ソルでしょ。今更何かしら。」
「ん、というわけで潔白だな。」
「そうだな。」
ソレーユとラント様が満足げで言っている中、ルーナ様は私のすぐ側まで駆け寄った。
「よかったわ、本当に。クレアちゃんどこも怪我してないかしら?」
首を縦に振ると、やはり女神様のように微笑んだ。すごく神秘的。
「ご心配して頂きありがとうございます。……ところで、さっきから勝手に話が進んでいるのだけれど、ルーチェ、ソレーユ。申開きはあって?」
私は武器を突きつけられた張本人であるルーチェと、質問攻めにされたソレーユを名指しで指名する。
「ご、ごめんなさい!万が一のことを考えて動いたの。わたし初めての指揮で、上手くやんないとって……。」
「ルーチェは役割を全うしただけだ。詳しいことについては俺から説明する。」
とりあえずルーチェには無実の印を押しておく。二人とも信用はしているからね。何か訳があるんだろうって。
「結論から言う、お前は異常だ。」
ソレーユの話はシンプルなような、複雑なような話だった。
私からいきなり光が溢れでて、考えられたことは三つ。
一つ目、妖精たちどころか、精霊様も知らない怪物の能力。私に取り憑いたか、操られているかなど。
二つ目、私自身の変化。魔力が急激に減ったか、増えたかなどが考えられたという。
三つ目、私が怪物を取り込んだ。あの魔法が怪物を取り込むもので、怪物は消え去ったのではないかなというもの。
つまり一番を疑われて、警戒されたってことね。ただ、異常ってことはわからない。光が出たのも不思議だし、怪物を倒したのも我ながらすごいと思うけど異常ってさ……。
「詳しく説明してほしいわね。」
ソレーユはそれを待ってました、と言わんばかりの口調で説明を始めた。
「自分の状況を理解してるか?」
状況を理解?何を意味しているかは検討もつかないけれど、そうね……。
「強いて言うのならば私が魔法のようなものを、使ったことかしら。」
そのくらいしか異常なことは思いつかないけれど。
「正解だ。」
ふぅ、別に不正解でも変わらなかったけれど、当たるのは少し嬉しいかもね。
「半分だけな。」
その付け足しさえなければルンルンのままだったのに!
正解よりも、不正解よりも、半々の方が検討つかないわ。一体どういうことなの?
「残りの半分は?」
「残念ながら不正解だ。魔法を使うには魔力が必須。大きな魔法を使おうとすれば、その分魔力は大きく必要となる。これでわかったか?」
ええ、わかったわ。私は魔力が少ないのに、なぜあんな大きな魔法を出せたかということよね。フォーリャたち妖精も複数人で手こずっていたもの。
「私の魔力はどうなったの?」
「増えた、信じられないほどに。総量は王族では収まらないし、妖精、いや精霊に匹敵するくらいだ。」
そこで私の思考は、完全にショートした。




