32.覚醒
「緊張してる?」
怪物のいる本宮殿へと向かっている最中、フォーリャは唐突に尋ねてきた。
「ええ、少しね。」
本当は少しなんてものじゃない。怪物討伐が怖いのもそう。でも、本宮殿自体へ行くのも怖い。本宮殿───つまりレーヴェ宮。王様の住んでいるところ。私が下町から帰ってお父様と再会したあの、苦い思い出が蘇る。
いつまでも引きずっていては、いけない事ぐらい分かっているわ。それでも身体が恐怖で、震えそうになる。
「大丈夫だよ!考えてみて!精霊様がいるんだよ。司令だとしても危険だと判断したらすぐに来てくれる。
そしたら怖いものなしだよ!それにこんな全力でできる機会ないし、本気でやらないと!」
フォーリャが頼もしく見えてきた。精霊様も頼もしいけど、フォーリャもいい勝負かも。
「あの、クレアちゃん。わたし、ルーチェ。よろしくね。」
「ええ、よろしくね。ルーチェちゃん。」
本人からの希望があってこれからは「ルーチェ」と呼ぶこととなった。他には「ステラ」「ソル」。みんな呼び捨てとなった。
「ところでクレアちゃん、あなたの……」
「……着いた。」
ヌーべが、ルーチェの話をさえぎりながらも教えてくれた。
とうとう着いたわね。平気よ、お父様は避難済みだもの。
「攻撃班は戦闘準備!守備班は結界を張って魔力を温存!みんな位置について!」
ルーチェがここにいる四人へ声をかける。今回の現場指揮はルーチェとなっている。なぜかというと太陽の精霊様の親族で、一番位が高いから。一つの組み合わせを除いて、みんな仲良いから、そんな風には感じないけど。
ヌーべたちと別れると、ルーチェは太陽がたくさんあたる場所で、目を瞑って集中し始めた。光を集めて、光を扱いやすくするんだって。
フォーリャは、何をしているんだろう。ガッツポーズをしながらにこにこしたり、何かをぶつぶつ呟いている。
「対象、動きあり!攻撃班、構え!」
ルーチェの力強い声で、フォーリャは、真剣な顔へと変わる。構えって私どうすればいいの!?
とりあえずそれっぽく魔法を出すような形で構えておく。なんか私だけ浮いてそうで怖いんだけど。とりあえずそれっぽく構えておく。
「フォーリャ!ラベンダーの用意!クレアちゃんそこは危ないから少し下がって!」
ルーチェの掛け声でフォーリャが動いて、ラベンダーの粉らしきものを振りかけている。声をかけられた私は、数歩下がると、すぐにルーチェによる攻撃の斬撃が飛んでくる。
あまりに目の前だからすっごいびっくりした!本当に、一歩前だったら潰れてたよ。あっぶなー!
フォーリャもルーチェも怪物に向かって必死に攻撃をしている。ソルもヌーべも、魔力をたくさん使って、建物を守っている。私だけ、私だけなにもできてない。何の役にもたってない。ここにいて邪魔な存在なだけ。
私の手がぽわっと光ったことにまだ気が付かなかった。
「みんな、もっと全力でいきなさい。私たちは何があっても助けに入らないからね。」
ルーナ様の声が回線を通して聞こえてくる。
みんな命をかけて頑張っている。なのに私は……。
私だって……役に立ちたい!!
その途端、私全体が光に包まれた。体の中に何かが入っていく……いや、流れていくような感覚がする。手のほうから始まって、全身に広がっていって、あれ?フォーリャと契約した時と少し似てる感覚かも。
「クレアちゃん!?」
フォーリャが私を見て驚いたような高い声をあげる。ルーチェも驚いている顔をしているけど、すぐに怪物の方へ向き直り、攻撃を再開しだした。
あっ!フォーリャ、危ない!
ルーチェの攻撃を防いだ怪物がフォーリャめがけて攻撃を仕掛けてくる。フォーリャが怪物のほうに向き直って、魔法を展開してからじゃ遅すぎる。
私が、私が何とかしないと!
強く思った。強く願った。
──────どうか、私に守れる力を。
「葉魔法」
光と同時に流れ込んできた何かと一緒に、頭に浮かんできた、魔法の名称のようなもの。私は魔力が少ないし、そんな短くてシンプルな言葉に、影響を与えられるほどの力はないと思った。でも、いい意味で期待を裏切られたわ。
私の手から緑色の光が出ると、大きさを増していく。そして、私と同じぐらいの高さへと変わった時、怪物の方へ動き始めた。
「ぐわぁあぁぁあああぁあぁぁあぁぁあぁあぁぁ!」
人間の叫び声のようだった。けど、徐々に色が薄れていく怪物は、怪物の他見えなかった。
「あら?」
流れ込んでいた何かが、逆流するように飛び出していく。ほんの一部だけ失ったみたいだった。
「クレアちゃん……すごい!」
フォーリャは、ばんざい!しながら、こちらへ、とたとた駆け寄ってくる。そのまま私へとぎゅー。
「あんなすごい魔法使えるなんて!一撃で倒しちゃったし。いつの間に使えるようになったの?それに、」
「魔力、どうしたの?」
興奮気味のフォーリャをルーチェさえぎって淡々と聞いてくる。
「魔力?なんのこと?」
私が聞き返した瞬間、すぐそばで、風が吹いたように感じた。
「ルーチェ!」
フォーリャの叫ぶ声が聞こえる。守備班のソルとヌーべは、少し遠くで静観している姿が目に映る。
……これは、想定外すぎるわ。
私はルーチェに刃のようなものを突きつけられた。




