29.むかしむかし、冷酷非情の国がありました。
「どういうことなのか説明して。」
状況がわかってないのは私だけだわ。
これから話が進んで、ついていけなくなっては大変ね。
この状況で、はじめに口を開いたのはソレーユだった。
「クレアの血筋が王族となる前、この国には違う一族が王族だった。」
それだけでもかなり驚いたけど、それだけでは済まなかった。
だいぶ昔のソレール王国は冷酷非情の国として名をとどろかせていた。王族をはじめとし、貴族らなどの権力者は、理不尽に物を奪ったり、税の価格を引き上げたり、好き勝手に行った。そのため、権力者は裕福な暮らしを、平民は貧しい暮らしを強いられた。
その生活に耐え兼ねた民は、次々と隣の王国へと移っていった。やがて、逃げ出した国民らを含めた各地の国に襲撃され、王族一家は処刑された。空っぽとなったその国土をどの国の国土とするかが問題となったが、共に戦った戦友ということで争い寸前で解決した。その解決法とは新しく王をたてること。功績、性格、魔力、様々な観点から今の王族が誕生した。
簡単にまとめるとこういうことらしい。はぁ、まさか、自分の国の詳しいことを知らなかったなんて。不甲斐なさすぎるわ。
「とまあ、これが、一般的に知られている内容だな。」
言葉の引っかかりっていうのかな。一般的、という言葉にどんな意味が込められているのか。
「精霊もしくは妖精がなぜ人間を、特に王族を嫌っているか知ってるか?」
精霊や妖精が人間を嫌っていることは知っていた。姿を全くと言っていいほど表さず、その画期的な能力を、世界のために尽くすことがなかったからね。でも、驚いたのはその後ろ。
「王族を嫌っている?」
「ふん!当たり前だ。其方らがしたことを考えればこのぐらい甘すぎる。」
ラント様が、当然だとそっぽを向きながら怒鳴る。私とは関係がない一族。それを深い繋がりのあるものとして、引っ張り出されるのには正直心地よいものでは無いけど、それなりの理由があるはず。
「前の王族一家はあなたたちに何をしたの?」
「先代の話だから、直接俺たちにしたことじゃないし、クレアは関係がない事だから、それはしっかりと理解してから聞いてくれ。」
ソレーユが重たい口を開くように、話を切り出す。
私は関係ない。血も繋がっていない人の昔話だもの。何をしていたとしても、私が気に病む必要はないわ。
軽く深呼吸をして気持ちを整える。
「前王族一家が好き勝手にやっている頃、王宮の近くを拠点としていた妖精が、当時の王子に見つかってしまったんだ。王子は王に報告をし、人を陥れるために妖精の力を利用した。
それを知った精霊は怒り狂い、王族一家に呪いをかけたんだ。しかし、そう上手くはいかず、妖精を人質に取られてしまった。呪いを解除せざるを得ない状況となり、屈辱を受け続けることとなってしまった。
精霊と妖精は隣の国と一時的な交友関係を結び、王国の破滅に協力した。しかしそのあとは仲間同士で戦争寸前となるほどに国土争いが起こるし、すれ違いも起き、人間を信用しないこととした。
だから人間は信用をしないし、その後釜となった王族一家は段違いで毛嫌いしているということだ。」
何も言えない。私とは関係ない一家の話。だけど、だけどさ、同じ人間として、昔とはいえと同じ王国の人や王族として、あまりに罪を犯しすぎだと思う。なぜか罪悪感に見舞われる。
「だから言ったんだ。人間は信用してはいけないと。さっさとこの人間を追い出せ!」
「ご……ごっ、ごめん、なさ、い。」
ぽたぽたと床へたれていく涙を隠すようにしながら俯いて、鼻をすすりながらこの場にいるみんなへ向かって謝罪をする。
そうしないと私が苦しいという自己満足かもしれない。けど、誠心誠意の気持ちなことには変わりがないわ。
さすがにこの状況には部屋が静まり返った。
「謝って済む問題ではない。……フォーリャにでも送ってもらいなさい。」
相変わらずきつい言いよう。けど、さっきよりは落ち着いた言い方のように感じる。
「クレアちゃんは悪くないですもん!絶対追い出しません!」
「フォーリャ。」
咎めるように語気を強めてフォーリャの名を呼ぶラント様。それだけでも身震いしそうな勢い。それを押し返すように、フォーリャがラント様の名を呼び返す。
「ラント様!あたしは何があっても追い出したりはしません。ご存知ないでしょう?クレアちゃんがどんな人で、どんな人生を歩んで来たか。
あたしも話を聞いただけですけど、少なくともあたし達よりも苦しい思いをしてきています!だからこそ、少しでも力になりたくて、自ら契約をしたのです。」
涙がスピードを増してさらに溢れてくる。これは嬉し涙。そんなふうに思ってくれていたなんて、思ってもいなかったわ。
「一体どんなことを吹き込まれたのだ?」
どうやら信じていないみたいね。ただ、フォーリャのことは信じているみたい。親族だものね。
「いいなぁ、信じてもらえる家族がいて。」
独り言のつもりだった。ぼそっと呟いた程度。
フィーナもララも、マシーナも。ソガにマーナだって大切な家族よ。でも、血の繋がりのある家族とはまた違う。
よく関係ないなんて言うけど、お父様やお母様には信じてもらいたかったな。アナティアに何を吹き込まれたのか知らないけど、悔しい。フロルお姉様はどうなんだろう。私から離れていってしまったのかな。
「クレアちゃん……。」
「ラント様、俺も詳しくは知らないが、クレアが離れに住んでいることを踏まえればなにか分かるんじゃないか?」
「はぁ、全くその通りだな。記憶映像化魔法を使う。準備しろ。」




