25.危険信号
「あっつ〜……。」
今日はとても暑いわね。絶好の花摘み日和だわ。
窓際にある椅子に座りながら、リゼティーを口に運ぶ。日差しを浴びながらぼんやりとしていると、とっさに我に返る。
いやいや!おかしいって!今日の日にち知ってる?
一月一日!年の初めだよ!なんなら真冬と言ってもいいんですけど。先程まで新年の挨拶などを終わらせて自由になったところで、暑さはどんどん増していた。
「なんでこんなに暑いのよー!とうとう王国の天気も終わりかしら。」
「きっと太陽の精霊様のご機嫌がいいんだよ。あたしは具合が優れないくらいだけど。」
そういうもの……なのかな?太陽の精霊様はいつも冬は機嫌が悪いってこと?
「フォーリャ、大丈夫?」
「うん、まあ。」
天気のことについては、これ以上考えても仕方がないので、再びカップに口をつけようとした瞬間、
──────バンッ!
とてつもなく大きい音で扉が開いた。
「誰!?そんな乱暴に開け……ってフィーナじゃないの。」
冷静に考えれば、ここに来る人なんて、フィーナしかいないよね。騎士団のみんなもあまり入ってくることがないもの。
「クレア様……クレア様……。」
今にも泣きそうな顔で、扉の前に立ち尽くしている。そして後ろからは、フィーナの後を追って来たのであろう、騎士のみんなが何人か顔を出してきた。
「ちょっと……どうしたの?私が大きな声を出したから驚いた?謝るから……」
「ち、違います。今、王宮が大変なんです。」
「大変って……何があったの?」
王宮の話題を全くと言ってもいいほど出さないフィーナが、言う程だわ。きっと、とんでもないことが起こったのよ。
「か、か……怪物が、暴れている、そうです……。」
「か、怪物?」
まさかのワードが出てきてキョトンとする。怪物が、王宮で、暴れてる?なにその物語みたいな話。
「はい、又聞きの情報ですがとても大きく、凶暴で、既に負傷者が出ているそうです。
王宮から町までは離れているため、下町の者に影響はありませんが、王宮では避難指示が出ています。」
「避難指示に負傷者って……。」
いきなりすぎるんだけれども。
「とりあえず最低限の物を持って、逃げる時間はあるの?」
「まだ、北門近くにいて、歩くスピードは遅いそうなのでお恐らくは。」
「わかったわ。急いで準備しましょう。」
せっせと準備を済ませると、フィーナや交代で宮を護衛していた騎士団のみんなと共に、急いで外へと出た。離れなだけあって、王宮の裏口へは小走りでも一分ほどで着いた。
「「姫様!」」
交代で休憩、または鍛錬、別任務などで側にいなかったステルク騎士団のみんなだ。
息を切らしながら走って、駆け寄ってくるみんなに、手を振って笑顔で応じた。
「ねぇ、姫様って呼ばれてるあの子、クレア様に似てない?髪色とかもさ……。」
「まさか!亡くなったって噂でしょ。」
「でも噂でしょ?なんとなく面影があるっていうか……。」
裏口とはいえ、非常時の脱出口の一つだし、当然こちらに避難しに来た人もいる。恐らくはシモツケ宮に近い宮に仕えるメイドなのだろう。
迂闊だった。死んだっていう噂を広めたのは私じゃないとはいえ、私の話がお父様達の耳に入ったら大変だわ。
「ち、ちょっと〜!騎士さんってば、いつもそう呼ぶんだから!いくら私が亡くなった第三王女様に似てようが、別人なんだからさー、ちゃんとクララって呼んでよー!」
目配せさせながら、騎士団のみんなに砕けた口調で、そしてここにいる全員に聞こえるように声を張り上げた。
「あはは、ごめんな。君が入ってきた昨日から、姫様に見えて仕方がないんだよ。なぁ?みんな。」
「そうなんだよー!」
「僕たちも困ったもんだ。」
騎士団のみんなもメイド達の会話が聞こえていたのか、すぐに反応してみせた。笑いながら話している私たちのそばでは、
「なんだ、そっくりさんか。」
「だから言ったでしょ?もう存在しない人だってば。」
「驚かせるなよ……。」
なんて声が聞こえてきた。
「ここも安全とは言えません!わたくし達、騎士団がお守りしますので、下町まで参りましょう。」
騎士団長のオネストが声を張り上げて、危機感をめぐらせる。騎士団のうちの三人ほどが護衛につき、下町へと引き連れていった。
「オネストは行かなくていいの?」
「ステルク騎士団は姫様専属の護衛騎士です。その騎士団長が護衛対象である貴女様を置いては行けません。」
そっか……。改まって言われると嬉しくなってきちゃった。私の専属だもんね。
「クレアちゃん、クレアちゃん!」
フォーリャの声が聞こえた。
「ごめん、ちょっと待ってて。すぐ戻るから!」
そうして王宮とは反対の山の方へ駆けていった。フォーリャが人前で返事を求めてくるなんて、よっぽどの事だわ。
「どうしたの?そんなに慌てて。……もしかして体調がさらに悪くなった!?」
確か、今日の朝ごろ、体調が優れないと言っていた。
「違うの!銀色のたまご、置いてきちゃった!」
「……あっ!!」
銀色のたまごは、私が不思議な夢を見た朝に、なぜか握っていたもので、フォーリャやソレーユにも分からない、凄いなにか。とにかく魔力が多く籠っている物らしい。
「取りに行った方がいい……よね?」
「当たり前!……って言いたいところだけど、かなり危険だよ。だって……」




