20.冷たい怒り
「……おい、お前ら。」
ソレーユの聞いた事のない、低い声が聞こえた。その途端、空気がズーンと重くなったように感じた。
「フォーリャがクレアのことをなんて呼んだのか呼んだのか聞こえなかったのか?」
「で、でも……。」
「あるいは、俺たちが嘘をついているとでも?」
「「……っ!」」
姿の見えない多くの妖精が、一斉に息をのんだことは、私にもわかった。待って待って。状況についていけない。そもそも自己紹介した途端にざわめき始めたのはなぜ?所々オーラとか気になる言葉も出てきたし。
「……ごめん。そんなつもりじゃなかったんだ。ただ、驚いたって言うか……。ソレーユのことを疑ったわけじゃないから!」
一人の妖精が勢いをつけて謝った。男の子みたい。それ以来ソレーユも黙ってしまい沈黙が流れ続けた。
「クレアちゃん、大丈夫だよ。ケンカはよくあるから。まぁ、ここまで酷いのはあんまりないけどね。」
気を使うようにフォーリャが話しかけてくれた。
「ちょっとソレーユ!クレアちゃん、萎縮しちゃってるじゃん!もっと抑えて!」
「黙ってられるかよ。少しザワつくのはまだいいが、明らかに殺意や悪だくみをしている奴がいたろ?見ないふりできない。」
「それでも言い方は考えてよ〜!当の本人が怖がってたら意味ないじゃん!」
あまりの正論に、反論できなくなったのか、
「……ごめん、クレア。」
と、バツが悪そうに短く謝ってきた。その声色はシュン、としていて、親に怒られた小さな子供みたい。
「大丈夫よ。」
私も短く答える。気になりはするけど、怒るほど気にしてはいないわ。
……あっ!私、帰らないと!いま何時だろう。うわぁ、間に合うかな?一見優しそうに見えて、回りくどく言われるフィーナの説教ネチネチ攻めはやだ!それだけはやだ!
「私、帰るね。」
少し具合も悪くなってきた気もするし、もしかしたら一週間前の風邪がぶり返したかも。いち早く帰りたい。
「……うん。クレアちゃん大丈夫?顔色悪いし……。」
「平気よ。ちょっと、風邪気味な、だけ。」
いつも通りに話せない。なんでだろ。フォーリャが心配してくれているからできるだけいつも通り振る舞いたいのに。
「やっぱり辛そうだよ……。ヌーベ、クレアちゃんと私を乗せて、クレアちゃんの住んでる所まで送って。」
「……なんで僕が。」
「なに?また問いつめられたいの?」
「……送ればいいんだろ。」
フォーリャが若干口調を強めて放つと、渋々といった感じて了承してくれた。フォーリャ、意外にも強し。
するといきなりこの場所を中心として、雲行きが怪しくなっていく。その一部が線を描いて下に落ちてきてまた平べったくなった。
「クレアちゃん、ここに乗って。」
え?ここに?この雲に?雲って乗れないよ。
そんなことを考えていると勝手に体が動いて雲の上に乗っかった。すごっ!ふわふわしてる。驚きつつ喜んでいると、今度は雲が動いた。
「うわぁ!?」
「大丈夫!落ち着いて座れば平気だよ。」
──────数十分後
なんか歩くよりも時間かかってる気がする。気のせいかな。
「ごめんね、クレアちゃん。こんなつもりじゃなかったの。私が止めるべきだったのに……。」
「ううん、平気だから謝らないで。むしろ送ってくれてありがとう。ところで、この雲はどうやって動いてるの?」
しんみりした空気は居心地が悪くて話題を変えようとした。
「……えっとね!妖精にはそれぞれ得意分野があるの!
私は葉っぱの妖精だから葉っぱを頼りに生き物の場所を見つけたり、風向きをより正確に確かめたり、色々!
ソレーユは火だからそれ全般。冬は便利だよ、夏はちょっと遠慮したいけどね。で、ヌーベは雲を操れるの!だから、いま運んでもらってるんだよ。」
なるほど、凄い。魔法に憧れる私には神様レベルで尊敬する。
「凄いね、尊敬するよ!」
「……当たり前だろ?妖精は高貴で尊くて珍しい存在なんだから。」
今まで黙っていたヌーベ君が、ムスッとした様子で答えてきた。てゆうか居たの!?姿が見えないから全く分からない。まぁ、この雲を操ってるんなら近くにいて当然かも。
「うん!風向き良好!このまま行って!」
雲は風に左右される。いくら操れるとは言っても強風が来たら流されるかもしれないもんね。相性いいなぁ〜。
「あそこの宮?ほら、あの左側の。」
「あ……。」
あそこは前に住んでいた宮、フジの宮だ。王女宮で私が逃げ出した場所。更に体調悪くなってきた。寒気がする。あそこには近寄りたくない。
「……フォーリャ、戻って。」
離れたい。見る度にマシーナとの悲しい思い出やお父様の態度を思い出す。
「ここじゃなかった?王女宮なんだけど……」
「嫌だ!早く戻ってよ!」
「あ……う、うん。」
──────王女宮からしばらく離れて
「宮はどこにあるの?」
不意に訪ねてきた。さっきの私みたいに空気を和らげようとしてくれたのかもしれない。
「離れ……南門の花畑から歩いて十分ぐらいのところだよ。」
「えっ!遠回りしちゃった〜、ごめんね。あたし、勘違いしてた。」
「勘違いするのも無理ないよ。私こそごめん。」
気を利かせて明るく振舞ってくれる。フォーリャは気にしてないって言ったけど、やっぱりこれは要反省だね。
「フォーリャ、少し聞いてくれる?」
口からこぼれた言葉は私が溜め込んでいたものだった。心配をかけまいとフィーナにも騎士団のみんなにも話さなかったこと。




