18.ごめん!忘れてた!
えっと……。なになになになに?どういう事?何これ?
なんて言えばいいんだろう。
細長い丸で卵に近い形。色は、私の髪色と近いあざやかな銀。とりあえず振ってみる。変化なし。じゃ、動かしてダメなら今度は置いて眺めてみる。特に変わらず。
「うーん、もしかしたら似てるものを思い浮かべるとか?」
これは……卵?ひよこ、にわとり、鶏肉……。あっ、いけないいけない。お腹すいてきちゃった。朝ごはん前だから尚更ね。
他には不思議なもの……とか?
えっと、お化けでしょ、未確認飛行物体、ある意味では魔法も?えーと精霊、妖精、人間の仕組みも不思議。
……待って。いいこと思いついちゃった!同時に悪いことも。
あのフォーリゃちゃんに聞けばいいんだよ!不思議なものは不思議な生き物に聞く!それが一番。
そして悪いことは、約束破っちゃった!会ったあの日に「次の日、あの場所」で待ってるって言ってたのに。
今すぐ行かないと!急いで着替えるとシモツケ宮からすごい勢いで出た……んだけど。フィーナに腕を掴まれて、片っぽ上がっている足を下ろすタイミングを逃す。
「え、えっと……フィーナ?なあに?」
恐る恐る尋ねながら、そぉーと離れようとすると、更に強く掴まれた。
「なあに?ではありません!どこへ行くんです?起床なさったと思ったらいきなり外へ駆け出されて、朝食もまだですのに!」
あはは……。つい夢中で何も考えてなかった。
「ごめんね?フィーナ。ちょっと急に用ができて、行かないといけないのよ。」
ただでさえ忘れちゃってたのに、覚えてる今も行かないなんて私には無理。それにソレーユ君?のことも気になるし。
「せめて朝食を済ませてからでも良いのでしょう?そこまで急なのですか?」
卵らしき物をさりげなく見えない位置へと隠す。何も言われないからセーフかな。
「えぇ、そうよ。できるだけ早く帰ってちゃんとご飯も食べるわ。お願い行かせて……!」
フィーナは私のことを心配して言ってくれているんだろう。
申し訳ないけれど、本当に悪いんだけど、ちょっと過保護っていうか、閉じ込められてる感がするんだよね。もちろん善意だって分かってるからね。
私をルールに縛られすぎている、典型的ないい子みたいな。ほら、フィーナって真面目すぎるからさ。
「私だって、ちっちゃい子供じゃないわ。成長してるの。今はフィーナとステルク騎士団のみんなと過ごせて、危険なことをしようだなんて思ってない。もう、大丈夫だから。」
本当に心の底から幸せ。たとえ家族と会えなくとも、ここにいるみんなも家族だもん。
「はぁ、分かりました。いいですか?今は八時です。神殿の鐘が三回鳴る九時になる前には自室にいるように、考えて帰ってきてください。約束できますか?」
私に目線を合わせるようにしゃがむフィーナは真剣な眼差しだった。
「うん、約束。必ず1時間以内に戻るわ!」
「いってらっしゃいませ、クレア様。」
途中で手を振りながら後ろを向いてフィーナに目をやる。優しく微笑んでいる姿を見ると、再び前へと向き直り、スカートの裾を軽く持ち上げながら走っていった。
多分走れば五分もかからないはず。
息を切らして、汗が首筋をつたっていく。こんなに走ったのはいつぶりだろう。
「はぁ、もう、無理……、はし、れない。はぁ、はぁ。」
こんなに体力なかったっけ?鈍ってるかも……。
やっと見えたっ!目の前は木が並んでたっていて、その向こうには壁がある。けれど私は知ってる。
「ここをこうしてっ!よいしょ……。」
木と木の間に生えている草をかき分けて、壁がむき出しになる。そうしたら思いっきり壁をパンチ!
「いった〜!!」
普通はこんな、幼女の力で壁はビクともしないし、私のダメージの方が大きいはず。でも、壁が綺麗な丸型を描いてパキッと割れた。
いや、正確に言うと、元々空いていた穴を塞いでた物が、外れたって言うのかな。
でも手のダメージは多少あるよ。うぅ、まだ痛い。
壁の向こうには、鮮やかな花畑が広がっていて、ここが王宮の誇る庭園でもいいと思う。
まぁ、言わないけど。お気に入りの場所が奪われたら嫌だからね。
「フォーリャ?フォーリャ!」
やっぱり約束破っちゃったし怒ってるのかな。それとも居ない?うつむいてスカートの裾をぎゅっと握りしめる。
そんな時だった。
「わ〜!やだやだ!来ないでよ〜!」
「うろちょろと……。いいかげん大人しくしろ!」
フォーリャと……誰だろう。声は高いけど、女の子の声とは違う高さで少年ぐらいって言えばいいのかな?そんな声も重なって聞こえた。大きく花畑の空気を吸い込むと、
「フォーリャ!!!」
これでもか!と言うほどまで大声で叫んだ。
でも、叫びすぎたかも。周りに人、居ないよね?大丈夫だよね?誰かいないって言って!?
「クレア……ちゃん?」
「うん……遅れてごめん。クレアだよ。」
その後の反応がない。やっぱり怒ってるよね。
「へー、この子が。なんか思ってたより小さいな。」
あの声だ。知らない男の子の声。
「えっと……誰?」




