13.まじめな話
「とりあえず座りましょう。お茶、用意してくれるかしら。」
微笑んでうながすと、安心したように小走りで部屋から出ていった。
「はぁ、まさか、あのオダマキでこんなになるなんてね。」
ソガにもらった花瓶にささっている、赤いオダマキを横目に考える。
フィーナとあんな風に言い合ったのは、いつぶりだろう。もしかするとこの四ヶ月で初めてかも。
昔のことといえば、おぼろげだけどお父様とお母様への挨拶は覚えているわ。……ダメね。今日はあの人たちのことばかり考えてしまう。
「お待たせいたしました。ドアーズの紅茶でございます。」
丁寧に、慣れた手つきで静かに置いてくれる。
「えぇ、ありがとう。」
一つ、小さな息を吐いて、フィーナが私の正面に座ったのを確認する。
「それでは話してくれるかしら。」
いつまでも話が進まなそうだったから、私がサポートする。
「はい……クレア様はこの離れのシモツケ宮に来られた後、私とお話をしたことを、覚えていらっしゃいますか?」
「もちろん。」
はっきりと覚えてる。半年ほど前の話よね。
こうしてみたら私って、相当落ちこぼれのモブ王女じゃない!?妹に座(家族での居場所)を奪われた哀れな姫……悲劇の人生……。
今の暮らしに満足しているから、錯覚していたけれど、自分が相当イレギュラーな存在ということに、今更ながら気がついた。こうして平穏に暮らすのも、別に悪くないと思う。心の片隅では、また家族と仲良くしたい、という気持ちもあるけれど。
「あれから数時間してクレア様はお互いを知るため、と仰って自身のことを話して下さいました。その時にもう、お父上にはお会いしたくない、と。
そのため少しでも接触を避けるために、本宮殿と繋がっている南門近くは、できるだけ通るのを避けるようにしてきました。」
それほど衝撃的な出来事だった。だって、生まれて初めてお父様に殺意を向けられたもん。会いたいはずなんてない。
だから私が言った同然ってことね。そんな風に言われれば確かに納得できる。
シモツケ宮から本宮殿までは、そこそこの距離があるけど、そこをつなぐ南門は、本宮殿の人も出入りするからね。
少し考えれば分かることだったのに、なぜ冷静になれなかったんだろう。
「そうだったのね。」
私はあいずちを打ったけど、本当にこれでいいの?フィーナに言う言葉は、これで合っている?
「フィーナ。」
「はい、クレア様。」
言うのよ、言わなければ。
「ごめんなさい。私が、私のわがまままで大変な思いをしていたのに気づかないで、迷惑をかけてしまったわね。」
フィーナの驚いた顔がわかりやすく出ている。いつもは笑顔を張りつけているばかりだから、新鮮で自然と口角が上がる。
「とんでもございません!こちらこそお心を指し図ることができず、申し訳ございませんでした。」
勢いよく頭を下げるフィーナに私は余計、罪悪感にみまわれる。
「でもね、私……やっぱり行きたいの。南門の花畑に。」
「……何を言っているのですか!?この話で、行ってはいけない理由を、分かっていただけたのでは無いのですか!?」
心外、といったように、私に向けて少し強く訴えかけてくる。
「なぜ止められていたのか、とても分かったわ。でもね、フィーナ。私はもうあの時とは違うのよ。少しだけど成長したの。お父様のことをずっと引きずっていても、仕方がないじゃない。」
会いに来てくれる訳でもないし、という言葉は喉で止めておいた。フィーナが私を気遣って傷ついたら困るから。
少ない期間でも、傍で見てきた私だから分かる。フィーナは優しすぎて、ずっと苦労をしている。私を助けたいという優しさで側仕えになり、他宮のメイドから陰口を叩かれるのを我慢している。花瓶を割った時には、私を心配するあまり、フィーナが怪我をしてしまっていたし。
しっかりと約束をしないと。フィーナが心配しないような方法で。
「フィーナ、あそこへはね、門の前を通らなくても行ける抜け道があるの。それに入り組んでいて、外からは絶対に見えないし、誰も来ないわ。」
そして、私は行かないといけない。もしかすると、あの人に会えるかもしれないから。それは喉でグッととめておく。
「しかし……。」
心配しているように顔を歪めている。
「大丈夫!フィーナに心配かけないから。いつもよりも早く帰ってくるようにするし、必ず報告するから、ね?」
「……仕方がない王女様ですね。分かりました、良いでしょう。しかし、何かあったら必ず私にお伝えください。」
「うん!」
本当に言葉通り、仕方なくという顔をしているフィーナに、目をやる。私がどうしてここまでして花畑へ行くのか、きっと分かっていないはず。
あの場所は……私にとって、すごく大切な所なの。
私はふかふかのソファから腰を浮かせ、ベッドのある部屋へ足を進めるがドアの前で再び歩みを止める。
「わがままな主でごめんなさいね。」
ティーカップを片付けていたフィーナに向かって声をかける。一瞬驚いた顔をしたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「クレア様に仕える事ができて光栄です。」
本当に優しい。この笑顔だけは絶対に守りたい。




