12.落ち着く日
──────翌日
いい香り。ここはソレール王国の王宮自慢の庭園……ではないんだけど、私だけが知っている秘密の場所。
一年中、色々な花が綺麗に咲き誇る花畑は、私の数少ない癒しの一つといってもおかしくない。
どこからかふんわりとした優しい香りが鼻に届く。知らない香り。鼻をピクピクさせながら、引きずられるように辿っていくと、その先に見えたのは……何の花だろう?知らない花。
丁寧に置かれた赤くて立派な花はここら辺では見かけない花だ。後でフィーナに聞こっと。
フィーナは私────第三王女であるクレアに使えるたった一人の使用人。本当は仕事の負担が大きすぎると思っているけど、私にはどうにもできない。
私はほとんどの人から興味を持って貰えない。下手したら存在すら忘れ去られている気がする。それは家族からも、特にお父様からはね。
王女だけど王宮の端っこ…忘れ去られたようなところに住んでいる。シモツケ宮っていうところ。でもね、シモツケの花はとっても可愛い花なの。
だから、本当はまたあの日に戻れるんじゃないかって、少し期待してる自分もいる。
私は齢五歳にして王宮という名の戦場で、人生の生き方を学んだ。誰の目にも触れず、穏やかに過ごす方法を。
──────シモツケ宫
「フィーナ、戻ったわ。」
今日はいつもより早く帰った。だってあの綺麗な花がなんの花なのかいち早く知りたかったの。匂いはだいぶ薄れてきたけれど、花びらは今から花瓶に入れれば大丈夫なはず。
私は王族だけど、魔法が使えない。適性があるのかすら、分からない。王族が魔法が使えるか鑑定するのは、五歳になってから受けると決まっている。すっかり忘れられている私は、受けられてすらいないから、正直使える可能性がないとはいえない。
一度だけ、ステルク騎士団との契約はしたことがある。けど、詠唱はただ知ってただけだし、貴重な魔石を使っていたから私自身の力とはあまり関係ないのよね。
でも、使い方が分からないから、結局大好きな花をずーっと長く保存することも出来ない。そこだけは悔しいところ。
「おかえりなさいませ、クレア様。今日は早かったですね。」
そう、これ。フィーナと普通な会話をして過ごす瞬間も癒される。そのまん丸い瞳で照らし出すように世話をしてくれたフィーナには感謝しかない。もちろんステルク騎士団のみんなにもね。
だから何があっても、フィーナだけは裏切って欲しくない。私の両親のようには……いけない、いけない。もう考えないと決めたの。あっちだって私の事を覚えてすらいないのに私だけ根に持っていては、人生損するだけよ。
お父様は私をとにかく嫌っている。お母様は……分からない。けど、訪ねてきてもくれないから、きっと忘れられてるんだろうな。私は笑ってみせる。
「フィーナ、教えてくれる?この花は何と言う花なの?」
私のベッドのシーツをひいていたフィーナが、私の声に振り向いた。んだけど、一瞬だけ表情が固まったように見えたのは私の気のせい?
「……その花はオダマキという花です。」
顔を曇らせたまま答えてくれる。
オダマキ、か。初めて聞く名前だな。花についての疑問は消えてスッキリしたけどフィーナの反応が気になる。なんて声をかけたらいいか考えていたら、フィーナの方から声をかけてきた。
「クレア様、そちらの花はどこから持って来られたのですか?」
意を決したように、でも少し不安そうに尋ねた。秘密の場所に行ったことはフィーナには言っていない。なぜか秘密基地の近くに行くと怒られるから。
「……怒らない?」
怖い。フィーナは基本的に優しいけど、特定のことになるとすごい怒る。
花瓶を割っても怒られないけど、綺麗な花を取りに、南門の近くまで行くと、しこたま怒られるんだよね。どうして?
「クレア様は怒られるような場所には行かない方なので、安心されて大丈夫ですよ。」
プ、プレッシャーが。意味ありげの笑顔をひしひしと感じながら、口を開こうとする。
なんで、「まさか行ってないですよね」という心の声が、ささやくように聞こえてくるのかしら。
「えっと、その……南の花畑。」
こうなってしまっては誤魔化しようがない。観念して話す。
「もう!また行ったんですか!?ダメだと言ったでしょう。」
フィーナに言われるのは相当なダメージが……。
分かってるんだけどね。ダメだって言われる理由があるんだろうって。でもあの場所には……南門近くの花畑にはどうしても行きたい。
「だって、理由も分からないのにダメだと言われて納得できないよ。」
いつもは反論なんてしないし、する機会も滅多にない。そのせいかフィーナが黙り込んでしまった。と思ったら口を開いた。
「分かりました。話しましょう。南門に近寄っては行けないと言う理由を。」
最初は耳を疑った。ずっと話しをそらされ続けたことについて話してくれると言ってくれたんだもの。
「うん、お願い。」
それが嬉しくて顔がヘニャヘニャになっちゃう。でも、なんだろう。この嫌な、不安な感じのモヤモヤした不快感は。フィーナが再び口を開くほんの一瞬に感じた。
「これは、クレア様が望んだことなのです。」
衝撃が走る。私?私が望んだの?今こんなにも、フィーナの言うことを聞かないでまで行く場所を。
驚きながら軽くパニックになっている私に、気遣うように頭を優しく撫でてくれた。
それが嬉しくて、フィーナは嘘なんてつかないと改めて思う。だから、きっと私が望んだのだろう。なんだか話が長くなりそう。
「とりあえず座りましょう。お茶、用意してくれるかしら。」




