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10.専属ステルク騎士団

私の目が再び開いた時、私はベッドに横たわっていた。


「クレア様。お気づきですか?」


騎士団長さんがすぐそばの椅子に座って、心配そうに、そしてどこか後ろめたそうに見つめてくる。


「ん……うん。」


ここ、どこ?きょろきょろ見渡すと騎士団長さんが答えずらそうに答えてくれた。


「ここは、シモツケ宮でございます。」


あ……そうだ。私、お父様に、捨てられたんだ。

暴力を振るわれたことを思い出すと痛みが押し返してきた。

そして、猛烈な吐き気も。


口を抑えると、騎士団長さんが慌てて袋を持ってきてくれた。そのおかげで部屋を汚さずには済んだ。


「騎士団長さん。気にしなくて大丈夫だよ。私は平気。

良く考えれば、ここ人あんまりこないしさ、安全だよね!

下町の豪華版?みたいな。ラッキーじゃない。自由に過ごせるし。」


お父様のことは忘れよう。もう考えないことにしよう。ずっと気にしたって、お父様が振り向いてくれる訳ではないもの。


でも、心の中ではお王様ではなく父様と呼ばせていただきます。私の親であることには変わりがないから。


もう会うことはないと思うから、次第に怒りも落ち着いてくるわ。今だけよ、今だけ。


「そうだ!メイドを決めないとね!候補はいるかしら?

気が利く子がいいわね。優しくて、読み聞かせが上手な人。」


明るく振る舞う。どうやら騎士団長さんは私を連れ戻したせいで怪我をしたことに責任を抱いているみたいだからね。


「……はい。そうですね。……クレア様。私を、ステルク騎士団を、護衛としてお使いください。」


ん?護衛?シモツケ宮だったら護衛は要らないんじゃないかな?人が寄り付かないし。


「今までは外出時に臨時として護衛をしていただけであって、正式な護衛ではありませんでした。しかし、無理に連れ戻した以上、王宮でクレア様が苦しんでいるのを見過ごすわけにはいきません。なので、お願い致します。」


深く頭を下げる騎士団長を見て、いたたまれない気持ちになる。


「わかった、わかったわ。こっちへ……うわっ!」


ベットから立ち上がり、歩こうとした途端、膝がカクンとなって倒れ込みそうになったけど、騎士団長さんが支えてくれたおかげで怪我せずに済んだ。ありがとう。


よし。そのまま支えてもらいながら、寝室から大広間まで移動できた。当たり前だけど誰もいなくて、大きな空間に私と騎士団長さの二人だけ。


「本当にいいのね?」

「はい、騎士団皆の意見です。」


わかったわ、と言ったように頷くとそっと目をつむる。


騎士団の契約はどうやるんだっけ?確か……


「魔法石をちょうだい。」


騎士団長さんから魔法石を受け取ると、強く握りしめる。


魔法を習う前に嫌われてしまったから、扱い方も呪文も、どうやって魔力を出すのかも分からない。なんなら魔力があるのかすら分からないもん。


でも、騎士団の契約だけは知ってる。

ララに教えてもらった。何かあったら使えるって。今がきっと、その時だよね。


「今を創るこの世の神。その眷属の五大精霊である太陽の精霊、月の精霊、大地の精霊、植物の精霊、空の精霊よ。

どうか私に聖なる力を。魔術(ウィッチクラフト)契約(コントラクト)!」


目をつむったまま、手を組んで契約呪文を言い終えた途端、ピカッと魔法石がひかり、体から痛みが消えた。体に何かが入り込んでくるような感覚に襲われ、それに身を任せる。


目の前で膝をついている騎士団長の前に、輝く神剣が現れる。

それは地面に突き刺さる形で現れ、近ずいた途端に消えてしまいそうなくらい透けていた。


「この剣で主を守り、世のために剣を振るうことを誓うか?」


ララに教わったとおりに進行していく。あのあとちゃっかり練習していたの。忘れたら困るからね。


「我が主とこの世のため、私オネスト・ダルメアとその部下は神から受けし剣を取り、忠誠を誓います。」


そうすると、段々と色が濃くなり、完全な剣へと進化した。

剣が放っていた神々しい光もやがて消え去り、同時に魔法石も消えた。


「それじゃあ、改めてよろしくね。オネスト騎士団長さん。」


今日、新たに護衛の専属騎士団が誕生した。名前はステルク騎士団。今後この日のことを後悔することはなかった。そればかりか感謝しかない。


──────三ヶ月後(八月)


メイドの選考中、私はステルク騎士団のみんなと過した。中には女の人もいて、手助けをしてもらったりもした。


ていうか、あの契約で、初めて騎士団長さんの名前知ったんだよね。本人には絶対言えないけど。


そして、いつも通りに過ごしていたところ。

誰だろう?いつもみたいに花を摘んで帰って来たらシモツケ宮の前に誰かが立っていた。


一番最初に感じたのがとにかく綺麗だなって。

夏風に吹かれてなびく、少し明るめの茶色の髪。長さは一般的に言う……みでぃあむ?ぐらいかな。肩からお腹に届かない長さ。


顔も整っていて、ただ切実に声を聞いてみたいと思った。


「あのっ!」

「ええと……。こんにちは。」


勇気を持って話しかけてみると驚いていた顔に笑顔が宿った。


「どうかされたんですか?」


ここに来る人はなかなか居ないから、何かしらの理由があるはず。


「ここにお住まいの王女様にお会いしたくて。ですがいらっしゃらないようですね。」


私の事……だよね?ここに住んでる王女って……うん。絶対私だ。他に考えられないもんね。でも、気がついてないみたい。


「お名前を聞いてもよろしくて?」

「申し遅れました。フィーナと申します。以後お見知りおきを。」


フィーナね。いい名前だわ。……私の名前は聞かないんだね。気を使ってるのかな?しかも年下の私に対して敬語を使ってる。礼儀正しいのか、王族だと知っているのか。


「フィーナさんですか、どうぞ入って下さい。」


混乱していたフィーナだったがペコリと頭を下げて一緒に入った。


──────シモツケ宮(中)


「あの。あなた様はどちら様か、伺ってもよろしいでしょうか?」


どうやら私が誰なのか知らなかったらしい。この様子だと貴族と勘違いって所かな。恐らく服装を見てだと思う。


「私はクレアです。ところで、なぜ王女様へ会いに?」


この様子だと名前を言っても分からないみたい。実際、名前を言っても分からない人は沢山いるしね。クレアよりも第三王女という肩書きが大きいから仕方がない。


「私は亡き妹の願いを叶えに来ました。」

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