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祓いは技術


かなり滅茶苦茶な人間性の竜童だがそれはそれ、これはこれ。

竜童のスピリチュアル理論はというと案外普通だった。


我々が「この世」として認識している「現世うつしよ」。

その背後には「幽世かくりよ」がある。

そして「現世」と「幽世」との狭間には

禍界まがつくに」があるのだという。

(禍界は西洋流に言うならアストラル界という)


「禍界」は人間にとってはDVDプレイヤーで情報を再生される「DVDディスク」のようなものに擬えることができる。

我々人間の「気分」は「禍界まがつくに」の影響を如実に受けているのだ。


人間の「潜在意識」は顕在意識とは異なるバックグラウンドでDVDディスクを再生し続ける「DVDプレイヤー」のような面もあるのだ。

「不具合や不幸を再生産する悪質な禍界」を「亜地獄にわかじごく」と呼ぶ。

普通の人間は当然ながら現世しか認識できない。

亜地獄から来る影響を認識出来ないので、全ての現象の因果関係を現世だけに求めようとする。

原因と結果が噛み合わないままで我々人間は生きているので人は説明不能の苦しみを抱える事になっているのだと、そう竜童は言うのである。


得体の知れないホムンクルスを身のうちに取り込む事で、亜地獄に原因のある事態を看破できるようになるのだという…。


「お前が他の者達には見えてないものを見ていたというのも、お前に憑いてるものがお前に見せていたという事もあるが。

注意すべき点は『それが憑き物自身の記憶』だったという点だ。

それをお前は『自分の記憶として認識してきた』という事だ。

既に憑き物とお前自身との魂に結びつきが出来てしまってるので、今更落とす事もできん。

なのでそのままだと半端な視力のまま一生を過ごす事になっただろうし。

その所為で本当に精神異常が生じる可能性も高かったんだ」

と竜童が真摯な態度で語った。


「そうだったんですね。それなら変なモノを食わされたのは、実は必要な事だったんですね?」

と楓が素直に鵜呑みにした。


「そうだ。有り難く思え」

竜童が踏ん反り返った。


基本的に竜童は霊能者としての仕事を自分で取ってくるような事はしていなかった。

あくまでもイラストレーターが本業で副業はエロ漫画家。

柴田先生の方で捌ききれない仕事を手伝うという形で霊能者としての活動をボチボチしている、といったところだ。


「締め切りが迫ってない時期にはそっちの仕事もちゃんと受けるし、その際にはお前にも手伝ってもらう事があるだろう。

別に騙している訳じゃないから大船に乗った気で励め」

との事だった。


楓は幾つかの冊子を渡された。

「祓い屋をするには祓えなきゃ話にならない訳だが、祓うにはその仕組みを理解しておく必要がある」

のだそうだ。


ーーそう。


「この世」は案外相対的なのだ。


社会通念上の世界観や価値観で、つまり現世の世界観や価値観で物事を考える場合、多くの人達が「この世」を「絶対的なもの」だと認識している。

だから限られた資源の中を奪い合い絶えず焦燥感と奪取欲に塗れていなければならなくなる。

そしてそうした人々の思い込みの激しさこそが「この世」の「物理法則を安定させている」のだそうだ。


思い込みの激しい人達、奪い合いにのめり込んで焦燥感に駆られている人達は一定数以上は「この世」の安定の為に「必要」なものだ。

だがそれはあくまでも「一定数以上」であり、過剰な場合はその限りではない。

人口過密都市が増えて多くの人達が物理的限界を絶対視しつつ奪い合いを繰り返すと、それは「ネガティブな情動の煮詰まり、認知の行き詰まり」を生み出す。


人々は「不条理」に対する「認知的不協和」というクッキーを自覚的に捨てることができないのだ。

そうして潜在意識でそれらが蓄積して「不毛な悪質な禍界」である「亜地獄」を生み出していく。


『脳波』というものは

当然のことながら脳があって脳が活動しているから生じる。

特定の脳波の波調と

主観的イメージと

それに付随する気分。

それらの組み合わせは本来なら多様である。

その組み合わせによってできる禍界も本来なら多様である。


しかし人間が自分の心というものがネット端末のプログラムと同様に

初期設定という先天的刷り込みや

ダウンロード、インストールという後天的刷り込みで成り立っているのだという事実に実感的理解をできない限り

「禍界を意図的に良いものにする(浄化する)」

という発想を持つことは難しい。


主に祓い屋の祓いの対象は亜地獄だ。

(亜地獄ではない禍界は放置)


霊能者には亜地獄がある場所では「重力が強くなった、又は弱くなった」ような錯覚が生じる。

それによって耳鳴りが起こる。

だが耳鳴りは聴こえる範囲の音だとは限らない。


だからこそ「目」が必要になる。

聴覚、嗅覚、触覚、味覚などの視覚以外の情報を視覚に変換する仕組み。

「共感覚」とも呼ばれる「目」。


ある種の化け物を身の内に取り込む事で「目」が得られる。

そして「目」は「投射」する。


楓があのゲテモノを「小人ホムンクルス」だと思ったのは、竜童があのゲテモノの存在感を察知した時に『◯玉親父』のイメージを投射してしまったからでもある。

それによってあのゲテモノの存在感の表層に『◯玉親父』のイメージが貼り付いてしまっていたのだ。


楓は容器に並々注がれていた液体に沈んでいたゲテモノをチラッと見ただけなので「小人」のイメージとして捉えたが、それは頭部が見えなかったからでもある。


そうした不可視存在に視覚的イメージを投射して、そのイメージをラベルとして貼り付ける『ラベリング』によって祓いの対象を捕捉する能力が上がるし。

それ自体が祓いに於ける肝となる。


ここで忘れてはならないのは

人間の脳波の波調パターンを別の存在が模倣する場合がある、ということである。

それは菌やウィルスなどといった微小な存在達によるゲシュタルトである。


「ファブ◯ーズで除霊できま〜す」

みたいなアホな話がそれなりに説得力を持つ場合があるのは

ある種の邪悪な人間の邪悪な妄想に伴う邪悪な脳波パターンを

微小な存在達のゲシュタルトがコピーする事で、邪悪な気分を彼方此方に広めているからなのだ。


菌やウィルスは見えないだけで何処にでもいる。


或る場所の空気中の菌やウィルスの配分が「邪悪な脳波パターンを模倣した菌やウィルスのゲシュタルト」の分布配分と酷似してしまった場合には

共鳴による共時性作用によって

「邪悪な波動」がその空気中に出現してしまう。


祓いはそうした「邪悪な波動」の中に身を浸し、邪悪な波動に既に描きこまれている邪悪なイメージに流されず

「描き込まれている邪悪なイメージを打ち消していく」

または

「無難なイメージを新しく描きこんでいく」

のである。


竜童曰く

「これが出来なくて祓い屋を名乗るのは詐欺だ」

との事。


しかしこうした理論はそれ自体があまり知られていない。

何故か人間は概念が自分の中に無い事柄を理解できないのだ。


基本的に「祓いは技術」である。

知識無くしては成立しないのである。


なので楓が霊能者見習いとして出来るようになるべき事は

「邪悪な波動」つまり「亜地獄にわかじごく」の中にスッポリと囚われた時に「呑まれない(自分を見失わない)ようにする事」なのだ。


こうした事を丁寧に語った上で

竜童は「頑張れ」と楓を励ました。


(何だろう?竜童先生が良い人に思えてきた…)

と一瞬思った楓だったが


「そのセーラー服はスカート丈が長過ぎる…」

という竜童のセクハラ発言が上向きかけた好感度を全てを台無しにした…。



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