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前衛芸術

挿絵(By みてみん)


翌日。

何故か正志が玄関まで迎えに来た。


小百合が愛想良く楓を引っ立てて送り出した。


「あの、道は分かりますんでお迎えにとか来ていただかなくても大丈夫ですよ?」

と言うと


「物理的にはそうだろうけど。

人の内面は道に迷うこともあるから、その辺のフォローはするつもりだよ?」

と答えられた。


その時点では正志の言う事の意味が楓はよく判ってなかった。


しかしーー

竜童家に着いて仕事部屋に入ると楓は呆気に取られた。


竜童家の二階にはまたも沢山の紙が散乱していたのだが…


(…漫画の原稿用紙だよなぁ?どう見ても)

描かれている絵を見て又ビックリ。


(なんじゃこりゃぁぁぁ!!!)


エロ漫画であった…。



楓は正志に向き直る。


「…スミマセン。『助手兼弟子』って、まさか…私にエロ漫画のアシスタントをしろって事なんでしょうか?」


楓は自分の視線が冷凍ビーム並みに冷たい事を自覚しながら尋ねた。


「君、これがエロ漫画に見えるのか?」

と真顔で正志が訊いた。


「これがエロ漫画以外の何に見えるって言うんですか!」

楓が怒鳴る。


「前衛芸術だ!二次エロ絵は今や世界的にシェアのある日本の芸術だ!君の常識は遅れてるぞ!」

正志が怒鳴り返す。


「スミマセン。帰らせていただきます。『助手兼弟子』の話は無かったことに…」

楓が部屋を出ようとした時に


「漫画のアシスタントが嫌だと言うなら、別にメシスタントでも良い。

とにかく仕事をしろ。

弟子云々の話はそれからだ」

と竜童は言い切った。


「ちょっと待ってください。それじゃアシスタントは…」

正志が尋ねると


「今まで通りお前が手伝えば良いだろうが」

との返事。


「そんなぁ〜っ」

と正志が泣きそうな顔で竜童に縋り付いた。


竜童と正志が口論を始めたので

完全に楓は取り残された。


「あの〜。私、帰っても良いですか?」

と楓はボソリと訊いたが当然、返事は無かった…。


取り敢えずエロ漫画とは関わらなくても良さそうなので、楓は家政婦さながらに竜童家を掃除した。


凄まじい。

(竜童先生、今まで掃除したことないんじゃ…)

と思った。


昨日来た時も少し廊下を歩いただけで靴下の裏が真っ黒になったので携帯スリッパを持参しておいて良かったと思ったのだった。


(それにしても私なんでこんな所でこんな事してるんだろ?皆こういう雑事をこなしながら霊能を学ぶものなのかな?…やっぱり高校卒業後は予定通り事務職に就くという訳にはいかないのかな?まさかとは思うけど、母さん勝手に内定辞退の電話とかしてないよね?)

と楓は世を儚みながら

ふと気付いた。


朝の正志の台詞

「内面は道に迷うからフォローはする」

というアレだ。


(もしかして「逃さん!」っていう宣言だったりしてね…まさかね…)

楓は不吉な考えにブルリと怖気を振るった。


頑張って掃除した甲斐があって何とか靴下で歩いても大丈夫というくらいにまで床を磨き上げた。


そろそろお昼なので昼食の支度をしなければならないだろう。


そう思って冷蔵庫を開けてみると昨日は入ってなかった容器が入っている。


中身を開けてみてすぐさま見なかったことにした。


(霊能者はホムンクルスを冷蔵庫に入れて暮らすのがきっと普通なんだ。…というか、私は何も見なかった…)


小人らしき生き物が容器の中の液体に浸かってるのを目撃するのは心臓に悪い。


(肉料理はやめよう…)

そう決意してミネストローネとプレーンオムレツを作った。


「うん。悪くないな。何しろ女子高生が作った料理だ。女子高生の味がする」

竜童がヌケヌケとセクハラ発言をかます。


「竜童先生、あまり本性を出さないでください。また逃げられます」

正志が今更なツッコミを入れる。


「やっぱり朝迎えに来たのは母の好感度を上げて私が逃げられないように囲い込む目的だったんですね…」

楓が冷たい視線を正志に向ける。


母親の弱点を熟知しているイケメンはタチが悪い…。


「それはそうと、先生。いつになったら霊能修行(?)を付けて貰えるんですか?」

と楓が尋ねると


竜童は

「お前。今時『修行』なんてする奴がいると本気で思ってるのか?」

とバカな子を見るような憐れむような目で楓を見遣った。


「修行しないなら一体どうやって霊能を学ぶんですか?」


「お前、他の奴らが見えてないものを見るのに何か特別な訓練なんかしたか?」


(何かしたっけ?…)

「…いいえ。何も」


「それが答えだ。人間にはすべからく適性がある。

適性がない奴は何をしても無駄だ。

全く無駄ではないにしても適性がある奴が軽く出来ることを何十倍も努力して行う事になる。

それは効率が悪すぎるだろう?

そんな奴はそもそも弟子にはしない」

何ともドライな意見である。


(適性重視か…。それなら私は適性があるって事なのか?)

「それで?結局私は何をすれば良いんですか?」

楓が改めて尋ねると


「フフフ、ちゃんと用意してある」

と竜童は不気味な笑みを浮かべた。


そして冷蔵庫から例のブツをーー


得体の知れないものが入っていた容器を持ってきた。


「お前、これを食え」

竜童が言う。


「お断りします」

楓が言う。


暫し見詰め合う二人。


「「………」」


沈黙が続きーー

竜童の声が鋭く上がる。


「おい、正志!こいつを押さえつけて口をこじ開けておけ!」


素早く正志が動く。


ーーと同時に

体育の成績が毎回「2」だったとは思えない反射速度と怪力で楓が反撃する。


結局、乱闘になり男二人は満身創痍状態になった…。


「クソッ。アバラが折れたかも知れんっ!」

と竜童が呻く側で


「もうお嫁に行けない〜!」

と楓が泣き崩れる。


「そうだろうね。そんな怪力じゃ婚前交渉も成立しないだろうし、逆に傷害罪で訴えられるだろうからね」

と正志が嫌味を言う。


「何が『お嫁に行けない〜!』だ!ちょっとゲテモノ食わせただけだろうが!」

竜童がキレた。


「うえっ!言わないでください!思い出したじゃないですか!」

楓が涙目で訴える。


「それにしても、アレ一体何だったんですか?」

正志が素朴な疑問を呈した。


「お前にはどう見えた?」

竜童が訊くと


「クラゲみたいな半透明な何か?」

正志が答えた。


「えっ?」

楓は思わずマジマジと正志を見た。


「竜童先生、アレってホムンクルスですよね?小人でしたよね?」

楓が尋ねると


「さあな?正体は正確には判らん。

だが適性があるものには『ゲゲゲの◯太郎』の『◯玉親父』みたいなものに見えるし、適性がない者達には半透明なもの、または姿すら見えない事が多いな」

竜童がサラッと怖い事を言う。


「私食っちゃったんだ…『◯玉親父』を親父を…」

楓が白目を剥いてブラックなオーラを醸し出す。


「しかし、これで半人前とは言え、そっちの仕事で多少は使えるようになる筈だ。

何せお前は今までは『見せられる』だけで『自分から見る』ことは出来てなかったんだからな?」


竜童は『善行を行った人』のように清々しい表情で「やり遂げた」と言わんばかりにホウッと息を吐いた。


「あんなモン食わされるより滝に打たれて瞑想でもしてた方が良かったです」

楓がジト目で見遣ると


「お前の場合は『見せられる』という一方通行とは言え『見る』事自体は出来てたんだ。

滝行は『見る』事自体が出来ない奴向けだ。

お前がやっても風邪ひいて肺炎を起こすのが関の山だ」

竜童が言うと


「やらせてあげれば良かったじゃないですか。

俺の時はやらせたくせに!

冬の最中に!

狡いですよ!差別ですよ!」

と正志が物騒な事を言い出した。


「…分かりました。正志さんの性格がそんな風になったのは竜童先生の所為だったんですね?

分かりますよ?落ち着いて」

と楓が正志を宥めた。


「お陰でちったぁ見えるようになっただろ?

クラゲだっけ?

一応認識は出来るんだから良かったじゃないか。

大半の連中は何も見えないんだからな?」

竜童が正志の肩を叩きながら慰めるように言った。


「それで、先生。『自分から見る』とは一体どういう事なんでしょうか?」

楓がそう訊くと


竜童はここにきて初めて表情を引き締めて、霊能者らしく語り出したのだった…。



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