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如月邸の怪:二

挿絵(By みてみん)


「おい、蘇芳。今夜のうちに明日身につけるもの全てにパターンを投射して祝物いわいものにしておくぞ。俺達のだけでなく正志が身につける服や持ち物もだ」

と竜童が言った。


「先生。もしかして悪霊の中に『邪眼』持ちが居ると思ってますか?」

楓が訊いた。


邪眼持ちの霊は、霊能者の健全な脳波パターンや生体パターンをさえ病んだパターンへ書き換える程のパターン投影力を持つと思われている。


「居ると思ってるんじゃなくて居るんだよ」

竜童は苦虫を噛み潰したような表情で言った。


「生きてたら霊能者の素養があっただろうに、それを自覚することもなく死んじまって。

死んだ後で素養を開花させて『邪眼』持ちになる霊なんて本当に勘弁して欲しいよ」


「先生、そいつどんな霊ですか?男ですか?女ですか?」

正志が心配するように竜童に尋ねる。


「さあな。霊状態の時は連中は感情や気分を通して『共感させ取り憑く』手口で来るから基本的に初めからこちらに姿を見せるような真似はしない。

連中が体験した事や生前の思い出なんかは読み出せるから、連中の体験の中に自分自身の声や姿を自分で意識するものがあれば性別や容姿が判るので身元特定にも役立つ」



そうーー。


事件性が認知されていない殺人事件の被害者の霊の場合は身元を特定する必要がある。


既に事件が暴かれた現場で事後処理の祓いをする場合よりも気を使う。


犯人側の残留思念の場合は

必ず思念に矛盾や欺瞞があるので

誰も共感しないしできない。

なので入り込まれる心配はいらない。


だけど被害者の場合には

「一歩先は闇」という

誰もが潜在的に抱えている不安を突いて共感の強制執行を仕掛けてくるので


ついつい共感に巻き込まれて入り込まれる事になる。



(そういや、お祖母ちゃんに憑かれたのって、多分お祖母ちゃんのお葬式の時だろうな…)


楓は思い返していた。


葬式が終わった後

伯父の槍馬そうま

父の秀矢しゅうや


「やっと死んでくれた」

とでも言わんばかりに

晴れ晴れとした顔をしていたのだ。


(お祖母ちゃん、可哀想…)

そう思いながら楓は周りを見回した。


葬式に来ていた人達が近況を報告し合いながら立ち話をしている。


伯母が祖母の実家の近所の人達と話をしていた。

近づいていってその話を聞いたのだ。


それを聞いた時には

一体何の話なのか理解できなかった。


ただ伯母も祖母の実家の近所の人達も

祖母の事を「若い頃から狂っていた」と話していたのだ。



祖母はある日突然

町中で大絶叫して

自分で自分の服を破り出して

自分で自分の性器を丸出しにして

自分で自分の性器に乱暴に指を突っ込み泣き叫びながら暴れ出した事があったらしい。


「キチガイだ」


そう言われて家に閉じ込められた。


暫くすると妊娠が発覚して

レイプされていた事が明らかになった。


その後も祖母の「自分で自分を犯す」パニックの発作は続いた。


曽祖母は祖母を詰り続けた。


「お前みたいな娘は我が家の恥だ」と。


曽祖母と祖母の仲は悪化して祖母は子供を生むと実家を出て行った。


子供を置き去りにして…。



子供は剣人けんとと名付けられて

祖母の実家で曽祖母に育てられた。


子供は…

伯父の剣人は「キチガイの子」と言われて近所でも常に白い目で見られ続けた。


曽祖母が亡くなった後は

施設に入っていた。


中学を卒業した後は

施設を出て、そのまま行方知れず。


「どこかでのたれ死んだんだろう」

誰もがそう思った。


祖母もそう思っているのだろう

それで納得しているのだろうと

誰もが思っていた。


だが父の秀矢が成人して間もなく

祖母が狂い始めた頃には

祖母はよく剣人の事を話していた。


本当は捨てた子供の事をずっと気にして罪悪感を持っていたのだろうと


皆がそう思った。

まるで他人事のように。



そう。

最後まで他人事。


最後の最期まで

祖母の縁子ゆかりこの苦しみや狂気は周りの者達にとって


どこまでも他人事だった…。


楓にはそうした人々の感性に対して世知辛いものを感じて虚しさを覚えた。



(人は皆、独りだ。何処までも何処までも独りだ。寂しい者同士で寄り添うことも出来ずに何処までも何処までも独りだ…)


多分、その感情が『共感』だったのだ。


今なら判るのだ。


あの時すぐ近くに祖母の霊が居たのだ…。


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