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誠実であれ

挿絵(By みてみん)


さて内弟子の正志だが


正志は独り立ちの心配を全くしていない。


そもそも素養が無いので

化け物(ゲテモノ)」を食っても

何かしらの能力が身につく訳でもない。


完全に竜童の秘書兼アシスタントなのである。


そもそも正志が竜童の弟子になった経緯は

楓達のような「素養があって弟子になった」ような者達とは全く違ったものだった。



柴田家は母親がヒマワリ会の会員だった。


兄の貴志は昔から普通の人には見えないものが見えていたので母親同様に幼い頃からヒマワリ会にハマっていた。


一方で正志は

親子揃って変な宗教にハマってる母と兄を内心バカにしていた。


しかしたまに兄の貴志が

正志の頭を撫でたり背中に触れながら優しく話をすると、それまで苛々していた気分がすうっと消える。


そして不思議と穏やかな気分に変わる。


そういう体験を何度もしていた。


なのでヒマワリ会は貴志にちゃんと良い影響を与えてくれてるのだ、

という事だけ漠然と理解していた。


しかし正志は貴志と違って

霊だの霊能だのとは全く縁のない生活を送っていたのである。


それが一変したのは高校時代

正志のクラスメートの女子が自殺した時だ。


その女子はクラスの女子達から仲間ハズレにされていながらも正志に好意を持っていたらしかった。


それすらも正志自身は何も感じ取る事が出来なかったが、その女子が死んだ途端に正志の近辺で奇怪な出来事が起こり出した。


水の無い所に水があるように見えたり

或いは本当に水浸しになっていたり、そうした水難に立て続けに見舞われるようになった。


鈍感な正志はそんな中でも特に不審感も恐怖も感じていなかったのだが。


夜中に尿意を催して

トイレへ行こうとした時に

ドアの上辺りの天井から壁にかけて

ドス黒く濡れているように見えた。


(何だろう?)

と不審に思いつつ

部屋の灯りを点けた。


…赤黒いシミのようなものが

天井から壁にかけて出来ていた。


正志は流石に不気味に思った。

(思わず朝までオシッコを我慢した)


本当なら大声を出し上げて兄を呼びたかったところだが、その時は間の悪い事に貴志は修学旅行中だった。


潜在的に正志は貴志を頼りにしていたのだ。


天井から壁にかけて出来たシミを見ると、母親は嫌がる正志を引きずってヒマワリ会へと連行した。


正志は本気で抵抗すれば母親の良いなりになどなる筈がないのだが、やはり本音では一連の出来事が不気味で心細く思ってたのだ。

ブツブツと文句を言いながらも大人しく連行された。


しかし連行されたは良いが

(テレビに出てる日向葵に会えるんだろうか?)という興味半分の期待は見事に打ち砕かれた。


普通は霊障相談も会長自ら受けてくれる事はないのだそうだ。


まずは軽く事情聴取をされる。

そのうえで貴志のように「素養があると判断された人間」の場合だけ、優先的に予約を入れてもらえて会長に相談を受けてもらえるのだ。


正志の場合は会長に直々に相談を受けて貰おうと思ったら半年先まで待たされる事になる。


それで会長以外の霊能者が相談に乗る事になった訳だが。


そうして出会ったのが竜童だった。



竜童は正志を見た途端に

「学校の同級生とかに手首切って自殺したヤツとか居るか?なんかこう…陰気そうな女子…」

と訊いてきた。


その時点では正志は自殺したクラスメートの死に方など知らなかった。


なのでその場で友人に電話して尋ねてみた。


そして竜童の言うように、その女子の自殺が手首を切ってのものだったと判った。


気がつくと身体がブルブル震えていた。


「別に取って食おうって訳じゃねえ。

お前はこの男がお人好しなのに付け込んで縋ってるだけで。

まだこれといって酷い悪さはしていない。

俺も無理にお前を消そうとは考えてない」


正志は何故か急に竜童が怖くて怖くて堪らなくなった。


竜童が触れようとして伸ばしてくる手を払い除けようとしたが震えがひどくて、ちゃんと手が上がらず

「触るな!!!」

と怒鳴った。


それでも竜童は構わずに正志の頭に触れた。


すると正志の中に

それまで感じた事のないような

惨めさ

悔しさ

絶望

倒錯した復讐心

倒錯した欲望

恐怖

などといった感情が湧き出した。


ヒステリックな女の喚き声とも叫び声ともつかない声が自分の頭の中を満たした。


それがーー


すうっと消えた。


まるで情緒不安の錯乱が竜童の手に飲み込まれたかのように。



「じきに貴志も返ってくるし、それまでの間ちょっと枕を変えてみろ」

そう言われて枕を渡された。


(後で知ったがその枕は『祝物いわいもの』だった)


それ以降、正志は竜童家に押しかけるようになった。


何かと世話を焼いた。

自分でも何故そんな事をしているのかよく判らなかったが…。



ある日曜の朝。


竜童が庭に出て何やらブツブツと独り言を言っている。


普通に考えれば気持ち悪い筈なのに、正志にはそれがとても温かい光景に見えた。


そして気がつくと涙が零れていて

少し心が軽くなった。


竜童は正志の方を振り返って

「やっぱりお前も呼ばれたんだな」

と言った。


「お前にしがみ付いてたのをちゃんとコッチに引き受けたつもりだったんだけどな。お前にしがみ付いてた分が未だあったんだろうな。…今上がったよ」


竜童がそう言うと


(そんな気がしてた…)

と、正志も頷いた。



霊魂存在は

霊状態だと自他の区別がつかない。


『感情共有の強制執行』

『気分共有の強制執行』

そうしたものを生じさせる。


正志に縋り付いていた自殺者の霊は竜童が引き受けて調伏したのだが、正志の方に未だ少し残っていた。


そして霊は竜童の中に入ると、竜童に対して強い依存心を持った。


その感情が正志にも影響を及ぼして、正志は竜童に対して依存したい気持ちを持つようになった。


正志は表面的には竜童の世話を焼いていたが、内面的には「側に居ると落ち着く」ので「竜童先生には生活能力が欠如してますから」と理由をつけて、竜童の欠陥部分に付け込んで側にいたのだ。



それはちゃんと竜童も心得ていたので、二人を繋いでいた霊が消えた事で


「お前も、休みの度にこんな所に来てんじゃねえぞ。ちゃんと青春を謳歌しろ」

と、竜童は正志に説教した。



その後は正志は竜童の所へは

偶に顔を出す、という感じの距離感で落ち着いた。


貴志が宗教大学へ進学したのとは裏腹に、正志は専門学校へ進学してコンピューターグラフィックスを学んだ。


出版社に入社して雑誌編集に関わった。

部署の変更によってエロ漫画の担当者になった。


そして…


何故か「面識があるのならお前が担当で良いよな?」という訳で


エロ漫画家「レイちゃん」との再会。


そうこうするうちに日向照ひゅうがてるが亡くなって、兄の貴志たかしが二代目会長に就任した。


その後も「レイちゃん」の担当者として出版社勤めをしていたのだが、ある日貴志から竜童の弟子兼アシスタントにならないかと打診があった。


アシスタントを雇ってもすぐに逃げられるという事もあり竜童は漫画の仕事をほぼ一人でこなしていて、霊能の仕事をあまり受けられない。


貴志としては自分の捌けない分の仕事を竜童に回して少しでも楽をしたいのだ。


そもそも霊能者としての実力は確実に竜童の方が上なのだ。


竜童には

『メディア露出に耐えない見た目の悪さ』

『人間性の破綻』

という欠点がある為に、二代目は任せられないと実父の日向照自身が宣告して後継者から外されたものの


漫画家業などに竜童を埋没させて、霊能者として活用しないのは何とも惜しい。


正志は当然渋った。


普通に恋愛して、普通に結婚するつもりでいたので、たとえ恩があるといっても宗教に身を捧げる気にはなれなかったのだ。


しかし正志が当時付き合っていた女性は急に資産家の男と結婚してしまった。


新しくエロ漫画部署の編集長になった女は性格も悪く、正志に逆セクハラのような事を言う人間だった。


一年半ほど頑張って耐えた…。


しかし正志は

(運命は俺を竜童先生の弟子にしたがっているのか…?)

と、ついには観念した。


そうして弟子兼アシスタント兼秘書のような役所で竜童家に入り浸る日々が始まったのだ。


色んな人間が来ては

色んな人間が去っていった。


それでも竜童は

「一期一会だ」

と言って


すぐに逃げ去るかも知れない人間に対しても誠実であれと言う。



だけど正志はそれには頷けない。


(竜童先生が誠実であっても相手が誠実を返してくれるとは限らない)


(だから竜童に対して誠実じゃない連中に対しては誠実でなくても良い。俺は先生に対してだけ誠実であれば良いんだ)


そう思うのだった…。



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