世間並みの感じ方の否定
問題のある養護施設の除霊を終えて竜童家へと戻る一行。
帰りの車の中で、やはり気になっていたのか、楓と苅田は竜童に壺の事を訊いた。
「ああ、あの壺な。あれはあれで最初は『祝物』としてちゃんと良いパターンを籠められてたみたいだな。
だが大した能力も無いくせにプライドの高い霊能者だったんだろうな。
値段を相当ふっかけて詐欺みたいな形で売りつけてたみたいでな。
高額で購入させられた側の借金負わされた焦燥感やら何やらが無意識に上書きされて『呪物』になってたんだ」
竜童が淡々と述べると。
「『祝物』の料金を高額に設定してボッタくると、『祝物』が『呪物』に変わる、という例ですね?」
と正志が淡々と訊いた。
「その通り」
どうやらそうした例は数多く存在しているらしい。
楓も苅田もまさかそんな事があるとは知らないので、カルト宗教が「呪物」を「祝物」として高値で売りつけたのかと思ったのだ。
それを言うと
「いや。ある種のカルトはそういう事をしていた時期が確かにある。
内心では嫌っている相手に対して表向きはニコニコ接しながら腹の中では尻の毛まで毟り取って搾取してやる!とか思うような頭のおかしい霊能者も確かに居るからな。
その手の連中は『実験』も兼ねてそういう事をやってたらしいぞ」
と恐ろしい事を竜童がシレッと言う。
「実験ですか…」
楓が呟いた。
「ああ。偽薬効果というヤツを知ってるか?
それを試す実験だ。
偽の薬でも医者が渡すとそれなりに効果を発揮する場合がある。
本当は『呪物』でも、それなりに評判の高い霊能者が『祝物』だと偽って渡せばそれなりに効果が出るかも知れない、という訳だ。
勿論実験台に選ばれたのは、もしも結果が悪く出て『インチキだ!』と恨まれても痛くも痒くもないような者達ばかりだろうな。
つまり人徳もなく、大物でもなんでもない、それでいて野心ばかり強い連中がカモられた筈だ」
竜童がそう言うと
苅田が急に怒り出した。
「酷い!やっぱりそんな連中はカルトじゃないですか!許せない!」
「まあな。そういった連中は独善的だから、どうしてもやる事がエゲツない。
カルトと言えばカルトなんだろうが、一般人から見たらヒマワリ会もそういう連中と一緒くたに見られている可能性が高いんだ。
腹を立てて無駄に自分の心を掻き乱すよりも、敵に悟られぬように無言実行で、敵の実験の邪魔をする事を優先するべきだ。
心を乱すな。乱れたパターンが定着すれば『祓う』事が出来なくなる。逆に自分の自我が『祓われる側』に堕ちるぞ」
竜童が苅田を諌めた。
カルトに腹を立てたオバチャンこと苅田だが。
苅田は「詐欺」に対して強い嫌悪感を持っていた。
子供時代に親が知り合いの保証人になって、その知り合いに逃げられたのだ。
借金を身代わりに背負わされた所為で子供時代はとにかく金に困って、とても惨めな思いをしたらしい。
高校に進学するのも諦めて中卒で働き出したとかで、若い頃から金銭的に切り詰めて暮らしてきた人なのだ。
騙される瞬間は一瞬。
でも騙されて苦しんだ時間はとても長い。
騙す側にとってはカモにした人間達など
顔すらすぐに忘れる程度の存在でしかない。
なのに騙された側は延々と
騙し取られた金や、
背負わされた借金の
その重さに苦しめられ続けるのである。
(世の中って本当に救われないよなぁ)
と、楓も思う。
そしてそれは誰もが思う。
竜童も言う。
「『此の世』には不条理も多い。
辛い事が起きて『辛い、辛い』と感じ続けるだけで、それが『負のパターン』になってしまい、悪い事をドンドン引き寄せるようになってしまうんだからな。
だから霊能者は辛い事が起きても『辛い、辛い』だのと世間並みの感覚で感じ続けてちゃいかん訳だ。
霊能者は『物事の解釈』を『投影する力』が普通の人達よりも強いからな。
世間並みの癒着至上主義的な感じ方で物事を捉えて情緒に耽り続けると霊能者の『投影力』は『邪眼』のようなものになってしまう。
『邪眼』持ちが強い恨みや復讐心を持ち続け、周りに対しても『お前達も同じ目に遭え!この恨みを理解しろ!』といった投影を降りかけると社会がどうなるか判るか?
それこそ激しい恨みや復讐心は『先ず被害体験有りき』だ。
犯罪や人災が彼方此方で起きるようになる。
それが『邪眼』持ちが忌み嫌われる理由だ。
『調伏』が出来る人間は一歩間違えば『邪眼』持ちになってしまう。
それを忘れるな。心を乱すな」
竜童が厳しい表情で苅田を見詰めた。
苅田は俯いた。
そして
「私は、独り立ちはまだまだ無理なようです…」
と呻いた。
こうした、苅田の心構えの弱さや覚悟の無さは竜童から柴田へと伝えられ、苅田の独り立ちは先延ばしされる事に決まったのだった…。




