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霊魂の移植

日向照が心停止した雨(竜童)を蘇らせた『秘術』というものがどんなものなのか…


楓は休日に『ヒマワリ会』の『日向葵ライブラリー』に篭って探す事にした。


既にライブラリーの常連と化している茉莉にも訊いてみたが

「分からない」との事だった。


(『秘術』というからには、やっぱり秘められてるんだろうねー)

と思った。


だがその『秘術』が真行寺の言うように『悪霊化していた霊魂を調伏してストックしておいて、助けたい人間の身代わりにあの世へ送る』ような類のものだったとしても

楓にはやはりそれが悪しき技だとは思えないのだ。


(竜童先生に訊いても良いものだろうか…)と暫し迷ったが


(どうせ私は頭が悪いんだ。分からない事は変に気を回さずに訊くに限る)

と思って竜童に尋ねてみる事にした。


しかし機嫌を損ねるのは嫌なので

(少しサービスを…)と思い


いつものセーラー服のユニフォームに着替える時に、伊達眼鏡を掛けて、前髪を可愛らしいピンで留めて、髪をツインテールにした。




「おお。今日はサービスデイか?」

竜童がニコニコしながら楓に声をかける。


「実は先生にお訊きしたい事がありまして」

楓が真面目な表情でそう言うと


「うーん。嫌な予感しかしないが、取り敢えず言ってみろ」

と竜童が促した。


「はい。実は先日、行きつけの古着屋に買い物に行った時に『真行寺霊能探偵事務所』の前を通りました。

丁度その時に真行寺先生と遭遇しました。

その時に真行寺先生から竜童先生の中に沢山の人間の魂が入ってると言われました。

日向照が心停止した竜童先生を助ける為に悪霊化した霊を調伏して身代わりにあの世へ送って竜童先生を助けていたのだろうとも。

真行寺先生はそれを根拠にヒマワリ会は邪教だと決めつけてる様子だったので、気になって日向照の秘術に関して調べたのですが何も分かりませんでした。

なので竜童先生が御存知ならどんなものなのかお伺いしたいのです」

楓がそう言うと


「前から思っていたんだが。お前は本当に『訊きづらい』とか『言いづらい』とかいった遠慮というものがないんだな…」

と竜童が目を丸くして言った。


「それが取り柄(?)ですから」

テヘッと

楓は自分の頭を軽く叩いて

舌を唇の端から出した。


「秘術といっても端的にいうなら霊魂の移植だ。

臓器移植とかと違って、霊魂の移植といった事に関しては法的にタブーは無いからな。

別に隠してる訳じゃない。

そもそもこの国の既存の社会通念では霊魂というものの存在を前提としたタブーを作り出す事も出来ないだろうしな」

竜童が淡々と答えた。


「正志は何処だ?まだ着替えてるのか?とにかく一度ちゃんとお前達には話しておいた方が良さそうだからな、あいつが来たら話してやる」


そう言って竜童は

楓が淹れたコーヒーを飲んだ。


「うん。女子高生の味がする」

とセクハラ発言をかましながら…。



***************



「さて、蘇芳が聞きたいのは『秘術』つまり『霊魂の移植』に関してだったな?」

竜童に問われ、楓は頷いた。


正志は少し緊張の面持ちだ。


竜童は二人の弟子の顔を相互に見遣り

淡々と話し出した。


「…基本的に霊魂の移植は臓器移植に似てる点もあって『拒絶反応』が起こる。

なので死を免れる為に行った移植の所為で逆に死にかける事もあるんだ。

具体的には俺の中に注ぎ込まれた霊魂の大半が『この環境は合わない、ここから出よう』と試みて積極的に俺を殺そうとした。

その所為で俺は体質が極端に虚弱化して、あり得ないような確率で事故に遭い続けた。

そしてそいつらは俺が心停止するとサッサと出て行った。

するとバカ親父がまた別の霊魂を注入してくる。

そいつらがまた『出よう』として俺を殺す。その繰り返しだったんだ」


「ただ定着した連中もいた。

そいつらは俺を積極的に殺そうとはしなかった。

だけどそいつらはこれまた厄介な連中で日がな一日、年がら年中、ネガティヴな事をブツブツ呟き続けてる奴らだった。

無自覚ではあったんだろうが連中は俺の精神を殺そうとしていた。

俺は霊魂移植の所為で肉体的にも精神的にも常に脅かされ続けたんだ。

そんな事が中学生くらいの頃まで続いて、俺は或る日とうとう嫌になって俺の中に居る奴等に宣告した」


「『お前らはもう何も考えるな!どうせバカだし、どうせ悪い事しか考えられないんだ!お前らがどんなに考えたって、お前らがどうしてそうなったかなんて何も分かりゃしないんだ!だったら考えるのは俺に任せろ!お前らは俺が考えた事、俺が言った事の中からどうして自分がそんな事になってるかの答えを見つけろ!』と、そう言い渡した」


「するとそいつ等は律儀にもそれ以降何も考えず、何も呟かない状態になった。

それからだな普通に健康になったのは。

だが時折、連中の『混沌ケイオス』が暴走して俺が奇行に走る事がある。

お前等は信じなかったみたいだが、日向照、親父の魂にも『上がれなかった欠片』があって、それも俺に憑いてる。

だから本当に『セーラー服の女子高生』への執着は奴に宿るべき性癖だったんだ。

俺には『この混沌は誰に由来するものかな?』という区別がつくんだが。

客観的にはそういう奴等が俺の中に居て、そいつらがそれぞれに抑圧の末の矛盾と狂気を抱えている事も分からないだろうと思う」


「「……」」

楓と正志は暫し言葉を失った。


日向照の女子高生嗜好はとても信じられないような話だが


抑圧の末、矛盾と狂気を抱えた『狂った魂』が『混沌』を発現させるという話は楓も正志も納得した。



「思うんですけど。竜童先生は悪霊化した霊魂は普通にオーラを纏った手刀で解体してますよね?

アレを自分の中に居るタチの悪い奴等にすることは出来ないんですか?」

楓が思わず尋ねたら


「俺もそれを考えないでもなかった。

だが身体は或る程度以上魂が減ると死ぬ。

知られてないようだが、生霊や幽体離脱なんかも『一部分』だけが出てるもんなんだよ。

本当に全部の霊魂が抜けたら身体は死ぬ。

どの程度で死ぬのか、といった臨床データが沢山あって目算が付いてるなら問題ないのだろうが、俺の場合はそういった事は分からない。

生きてる人間相手に魂を削ぐといった事をやった事がないからな」

との事だった。


「どの程度身体に魂が残ってれば死なずに済むのかが正確に解っていたら日向先生も無闇に竜童先生に霊魂移植を行わなかったかも知れませんね」

と正志が労わるような慰めるような視線を竜童に向けて言った。


「それもそうだろうな。

あの人は『とにかく守護神様方に気に入られるように』というのが生きる指針だったから何でもお告げ通りにやってた。

だからお告げ通りやってきたのに俺が死んでそのまま蘇らないのかと思ったら『今度ばかりは裏切られたのか』と本気で信仰を捨てようかと思ったらしい。

とにかく俺が初めて心停止した時には何も考えられない状態だったんだそうだ」

竜童が苦笑する。


「それで、竜童先生の中にいる者達はその後どうなってるんですか?

先生の中に居て『どうして自分達がそうなったのか?』という答えを見つけて上がって行った者とかは居るんでしょうか?」

楓は気になる点を尋ねた。


「ああ、何人かは上がって行った。

だが迷惑料代わりなのか少し魂を遺す形で行ってる。

それで遺された分は完全に俺に吸収されて俺の一部になってるような感じだな…」


竜童は上がって行った者達の事を思い出したのか、いつになく優しい表情になった。


「俺の中に居る奴等は、結果的に『本体に捨てられた蜥蜴の尻尾』みたいな存在になってるんだが。

奴等の本体の方は自分が無自覚のうちにそうした尻尾切りをしてる事にすら気付いてない場合が多いんだ。

だから本体側がその事に潜在的にでも気付いた時にほんの一瞬だが『通路』が開ける。

その時に『通路』を伝って本体に戻ってる」

竜童は優しい表情のまま微笑んだ。


その時、一瞬だけだが竜童の顔立ちがいつもとは違って端整なものに変わって見えたので

(見間違えか?)

と思って楓も正志も目を擦った。


「ともかく、本体に切り捨てられた分体の霊魂というのは、どんなに複雑な屁理屈を捏ねてても本体との合流を目指す傾向が根本部分に含まれている。

人間同士が『運命の出合いだ』などと思って、気が狂ったみたいに互いに求め合うような恋愛をする事があるのも、実は『相手の中に自分の欠片がある』事を無意識のうちに察知して合流を目指してるんだって可能性もある」

そう言って


竜童は『人間の俗な感情にさえ、霊魂の根源的刷り込みが関係してる』という可能性を示唆した。


「自分の欠片が相手の中にある、って言うと詩的でロマンチックに感じますけど。竜童先生の体験談を聞くと壮絶ですよね…」

と楓はブルリと震えた。


「それで言うと、竜童先生の運命の相手は何人もいる事になりますが…」

と正志は何故かジト目で竜童を見遣った。


「まあ、俺はこの面相だからな。たとえ運命の相手とやらと遭遇しても、相手は皆、裸足で逃げ出すだろうと思うぞ?」

と竜童が自虐的発言をして

ニヤリと笑うと


正志はご機嫌をなおして

「そうでしょうとも」

と笑った。


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