#009 遺産、集めます!
一時間かけて森を抜け、別の街に辿り着く。
ここが二人と合流を約束した集合場所である。
追手は……多分、ついてきていないだろう。
俺の後ろに人間の気配は一つも感じない。
無事、街の中に入ってこれた。
ことでホッと一息……。
ついてる場合じゃない。
この街のどこかにいる二人を探さなければ。
合流できるまで、完全に安心しきるべきではないだろう。
と、不安ながら街を歩いていると、
「ラーイーアー!」
バカでかいアリシアの声が聞こえた。
良かった!
こんなに早く二人と合流できるなんて!
喜びから笑顔で声のした方向へ振り向くと、
ドゴッ!
凄まじい勢いで、アリシアが俺の顔面に飛び付いてきた。
「信じていたぞ! ライアは無事、余の元に戻ってくるとな!」
言いながら、涙と鼻水を垂れ流しているアリシア。
頭の上から顔にまで垂れてくる。
……泣くほど俺のことを心配してくれていたんだな。
ありがとう、アリシア。
君のために頑張って良かった。
「ご無事で何よりです……ライアさん」
グロリアさんも姿を現す。
これで三人、また無事に揃うことができた。
この喜びを噛み締めるように、ギュッとアリシアを抱きしめる。
「ともかく、場所を移動しましょうか」
グロリアさんが提案する。
「道の真ん中でこうしていると、その……目立ってしまいますから」
それはごもっともである……。
さっきからなんとなく、視線を集めている気がしていた。
どこかの茶屋か宿に入って、落ち着いて話がしたい。
すぐさま俺たちは移動を開始した。
アリシアをおぶり、近くの店へ入る。
落ち着いて話を再開した。
「そうだ、グロリアさん。ちょっと気になることがあって……」
ここで、俺がダリオに聞いた話を切り出してみる。
「ファラス、って村に何か心当たりはありませんか?」
「……さぁ? 名前も聞いたことがありません」
何も知らない様子のグロリアさん。
やはり、ガセか?
あのダリオが、俺の為になる情報を教えるとは思えない。
するとグロリアさんが次のことを聞いてくる。
「ちなみに、ですが……その村の方角は分かりますか?」
「確か、南西だったはず……いやでも、この街からだと……」
俺が言うと、グロリアさんがハッとした顔でアリシアに話しかける。
「アリシア様、アレがある場所って……」
「うむ。確かに、向こうの方から気配がするぞ」
言って、アリシアが俺の膝の上に座りながら南西方向を指さす。
アレ……とは、なんなのだろうか?
だが、ダリオもそこに俺たちの益になるものがあると言っていた。
二人の嬉しそうな顔を見るに、それは間違いのない事実なのだろう。
「ライアさん、次の目的地が決まりました。私たちを、その村まで案内していただけますか?」
グロリアさんの頼みだ、当然断るわけがない。
しかし、肝心のアレとは何なんだ?
気になっていたところ、グロリアさんが教えてくれる。
「私たちはソレを探すために、魔界から人間界へやってきました」
魔界とは、シャロア帝国の北端……大陸の大半を占拠する、魔族たちが暮らすエリアである。
人間は人間界の領土を広げるため、日夜魔界に進行していた。
俺はその最前線で戦っていた兵士である。
今いるのは、最前線から南へ離れた比較的平和な人間界のエリア。
こんな場所に、何故魔族である二人が探すような物があるのだろうか?
「ソレは、言うならば……先代魔王の遺産です」
「遺産?」
何故そんなものが人間界に?
しかも、一言に遺産といっても何に使えるものなんだ?
それに、遺産ってことは先代魔王は既に……。
「余の父上なら既に亡くなっている」
アリシアが言う。
そうか、先代魔王様はアリシアのお父さんだったんだな。
じゃあお母さんは?
思って、思いとどまる。
それはアリシアの前で話すべきことじゃない。
辛気臭い雰囲気になるのは嫌だからな。
アリシアの頭を撫でながら、俺がグロリアさんに尋ねる。
「それは、財産的な? 金銀財宝なんかが、その村にあるってことですか?」
「いいえ、違います」
俺が聞くと、ハッキリ否定するグロリアさん。
「それは、言うなれば力の結晶……要するに、アリシア様の強化アイテムです」
グロリアさんが、随分と噛み砕いた説明をしてくれる。
なるほど、わかりやすい。
つまりその遺産を探す目的は、アリシアをパワーアップさせることなのか。
グロリアさんが続ける。
「遺産を全て集めることで、初めてアリシア様は魔王として本来の力を手にします」
「そうなると、アリシアはどれだけ強くなるんですか?」
「軽く見積もっても、今のライアさんの百倍ほどにはなるでしょう」
それは驚きだ。
正直、俺も俺が魔族になってからかなり強くなったと自負している。
小国程度なら俺一人でも攻め滅ぼすことができる、そう思うくらいに。
それの百倍とはまた凄い倍率が出たな……。
それが本当なら、世界を支配するくらいアリシア一人でできてしまうのでは?
「アリシアは凄いな。そんな力を隠していただなんて……」
言って、俺がアリシアの頭を撫でる。
するとアリシアが嬉しそうな顔で言う。
「うむ! 余はこの力を使って、世界を余の物にするつもりだ!」
きっと、できると思う。
いや、俺がアリシアを手助けするんだから確実だ。
そうなれば、俺も自由に生きることができる。
好きなことをなんでもやりたい放題だ。
アリシアが続ける。
「余は平和が大好きだ! 余が世界を我が物にした暁には、みんなが笑顔で暮らせる世界を作る! なあライア、それはとても素晴らしいことだと思わないか?」
聞いて、俺は微笑んだ。
「それは、本当に……素晴らしいことだね」
言って、アリシアを抱きしめる。
俺もアリシアの意思に賛成だ。
そんな世界が作れれば、きっと全てが上手くいく。
そしてアリシアには、それを可能にする力がある。
目的を達成するまでの道のりが、こんなにわかりやすく整っているのだ。
目一杯の笑顔で俺が続ける。
「一緒に……その夢を叶えよう! 俺にできることなら、なんでもするから……」
「うむ、よく言ったぞライア! 流石、余の眷属だ!」
……こうして、俺たちの次の目標が決まった。
俺はアリシアの夢を叶えてあげたい。
この夢を叶えることが、今の俺の生きる目的だ。
必ず……アリシアのために、遺産を手に入れてみせる!