#007 決着、そして裏切り者の末路。
荒く息をするダリオを見下し、俺は別れを告げる。
「その傷じゃもう助からないだろう。トドメはささねぇ。なるべく、長く苦しんでから死んでくれ」
言って、少しフラつく。
魔力の使いすぎだ……。
やはり、まだ魔力のコントロールに不慣れである。
今朝よりはマシになったが、もうちょい上手く使わないとな……。
戦闘中にぶっ倒れでもしたら、元も子もない。
ともかく、早くアリシアたちと合流しよう。
俺がその場を去ろうとすると、ダリオが口を開く。
「私が死ぬ瞬間を見ていかないのか?」
……。
人の死に際を見るのは、あまり良い気分じゃない。
俺はこの男とは違う。
人の死を笑って見れるようなゲス野郎じゃない。
少し考えてから、俺が答える。
「余計なこと言ってないで、さっさとくたばりやがれ」
「……そうか」
ダリオが言って、笑う。
そして安らかな顔をしながら続けた。
「なあ、ライア……魔族になって、今の生活は楽しいか?」
……。
なんでそんなことを聞く必要がある?
疑問には思ったが、とりあえず答えてみた。
「まあ、楽しいよ。人間だった頃よりは、何倍もな」
人間だった頃の俺には、もう何も残っていない。
けど、魔族になった今の俺には大事な物が沢山ある。
居場所も、生きる意味も……。
二人からはいろんな物を貰った。
あの二人と一緒に居られるだけで、俺は幸せだ。
俺はこの生活を守るために、これから先も必死になって戦うだろう。
例え、今回と同じように……軍隊のような強大な相手を敵に回しても。
俺はアリシアのために、死ぬまで戦える。
それでいい、それでいいんだ。
この幸せを守るためなら、俺はなんだってやってやる。
ダリオが続けた。
「……ここから南西、ファラスという村に向かえ。お前たちに有益な物が、そこにある」
……?
なんのことだ?
俺たちに有益な物?
「それは一体……?」
「………………」
目を閉じ、無言を貫くダリオ。
ようやく死んだか?
まあ、そんなことはどうでもいい。
俺がやるべきことは、一刻も早くアリシアたちと合流することだ。
思い立ってから、すぐに俺は街の外へ向かって走り出した。
*
ライアが街を出てから数分後。
軍の増援がダリオの元に到着する。
ダリオは死んでいなかった。
駆けつけた増援によって、最低限の処置を施されたダリオ。
そのままダリオは軍の指揮官の元へ連行された。
そこでダリオは、陸軍少佐の尋問を受けることになる。
ダリオの目の前で椅子に座り、話をしているのは……。
クリーム色の髪色をした、小柄な美少女──ジェルス=アンヴァル少佐。
ダリオが口を開いた。
「申し訳ございません、少佐殿。私は魔族と化したライア=ドレイクの処分に失敗し、率いていた部下も全て失いました。これは、何一つ言い逃れできない私の失態です」
「そんなことは分かっている」
ジェルスが不機嫌そうに言った。
聞いて、ニヤリと笑ってダリオが続ける。
「私の失態で、少佐殿の機嫌を損ねてしまって申し訳ない。しかし、私はこの失態分を取り返すだけの大きな収穫を得たのです」
ダリオが言って、ジェルスが少し興味を示す。
「ほう、言ってみろ」
「はい。私はライア=ドレイクの行き先を知っています。そこへ全兵力を集中させて、今度こそ魔族どもを根絶やしにしましょう」
ダリオは自信満々に言い切った。
ダリオがライアに対し、最後に言った村の名前……。
それはライアの行き先をそこに限定し、行動を把握するための罠だったのだ。
ライアとの会話を長引かせていたのも、増援が到着する時間稼ぎのため。
全てはダリオにこんな恥をかかせた、ライアへの復讐を果たすためなのだ。
ジェルスが答える。
「よろしい。では我々はそこへ向かい、魔族どもと会うことにしよう」
「ありがとうございます」
頭を下げ、ほくそ笑むダリオ。
これでライアに復讐できる。
今に見ておけ、あのクソガキめ……そう、ダリオは内心企んでいた。
しかしそれを否定するように、ジェルスが冷淡に言う。
「だが、それだけでは失態の穴埋めには足りない。その分は何で払うか、分かるな?」
聞いて、頭を傾げるダリオ。
そして思考する暇もなく、
ザッ!
ジェルスの剣が振り下ろされた。
左腕を切断させ、苦痛に顔を歪めるダリオ。
ジェルスが続ける。
「ライア=ドレイク。奴は、人類最大の脅威たり得る存在だ。貴様の勝手な行動で、奴は人間を恨みながら死んだろう。その奴が魔族に転生し、人間への復讐を考えたならどうする? それで犠牲が出れば、貴様に責任が取れるのか?」
言って、ジェルスが剣の切先をダリオの顔へ向ける。
必死の形相で命乞いをするダリオ。
「お待ちください! 次こそ、次こそ必ず! 私がライア=ドレイクを仕留めてみせます! なのでどうか、命だけはお助け……」
「貴様は何も分かっていないようだな」
ジェルスが冷酷に告げる。
「我々は既に一度、貴様へ猶予を与えた。それで失敗した男に、二度も温情をかける理由がどこにある? 使えない道具は切り捨てられるだけだ」
刹那、
ザッ!
ダリオの首が切り落とされた。
刃の血を拭い、剣を鞘に収めながらジェルスが言う。
「死んで詫びろ。我々陸軍、いや……中将、ノクナレア=エルゼ様の命令に逆らったことを」
後に、ダリオが言った約束の地にて……。
魔族と陸軍、両者が激しく激突することになるのは……また別の話。