表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/39

#002 魔王様は、超絶キュートなロリっ子でした。

「ようやくお目覚めか、ライア=ドレイク。早速だが、生き返った気分はどうだ?」


 ベッドの上で目覚めると、俺はいきなりそんなことを告げられた。


 なんてことはない、普通のベッドルームだ。

 俺はさっきまで森の中にいたのに、どうしてこんな場所に?


 そして俺にそんなことを告げた人物は、目の前の椅子に座っている。


 間違いない、声を聞いて確信した。

 目の前の彼女は、俺が死に際に聞いた声の主である。


 綺麗な紫色の長髪と、真っ赤な瞳を携えた少女。

 身長も年齢も俺より低く見える。


 顔はまだ幼いながらも、人間離れした美貌……。

 どころか、彼女は本当に人間ではないらしい。


 少女の頭には立派なツノが生え、黒い尻尾がやたら元気にウネウネと動き回っている。


 彼女の容姿に驚きはしたが、同時に納得もした。


 俺は一度、確実に死んでいるのだ。

 それを生き返らせるなど、人間にできる芸当じゃない。


 そんなことができるとしたら……。

 俺が心当たりを思い浮かべると、彼女がハッキリと答えをくれる。


「改めて自己紹介だ。余はアリシア。『魔王』、アリシアである。人間としての貴様は一度死んだが、余の眷属として魔族に転生してもらったぞ」


 ──魔王。

 彼女は確かにそう名乗った。


 魔王とは、人間と長年に渡って争い続けている魔族の長。

 人間よりも遥かに神秘に近い存在だ。


 人智を超えた奇跡を起こすことすら可能と言われている。

 それなら、俺を生き返らせることができたのも納得だ。


 だが、どうにも腑に落ちない部分がある。


 魔族と人間は百年を超える戦争の真っ最中だ。

 その前線に俺は送り込まれ、目の前で何人もの仲間が殺されている。


 人間にとって魔族とは恐怖の象徴なのだ。


 だと言うのに、実際に目の前に現れた魔王がこんな──


「よし、自己紹介終わり! なあライア。今の余ってば、かっこよかったであろう? 貴様の主として、威厳たっぷりな感じがしなかったか? 感じたならいいぞ、許す! 余の頭を撫でることを許可する!」


 言って、俺の膝の上に飛び乗って甘えてくる魔王様。

 特に頭を勢いよく突き出し、猛烈にナデナデを要求してくる。


 ──魔王がこんな可愛らしい存在であっていいのか?


 正直言って、とてつもなく愛らしい小動物のような感触だ。

 今すぐギュッと抱きしめて、頭を撫でたい衝動に駆られる。


 とても悪意があって話してるようにも見えない。

 困惑して固まる俺の顔を見て、魔王様が涙目で訴える。


「撫でてくれないのか? もしかして、余はかっこよくなかったのか? だから余を褒めてくれないのか?」


 え、あ、ちょ、あの……。


 余計にあたふたして俺は何もできない。

 とりあえず、魔王様を抱きしめてみると、


「コラコラ、アリシア様。いきなりそんな甘えてしまっては、ライアさんが困ってしまいますよ?」


 金髪でメイド服を来た女性が、部屋の隅から現れて言った。


「……あなたは?」


 俺が尋ねると、女性はニッコリ笑顔で答える。


「初めまして、ライアさん。私はアリシア様の従者、グロリアです」


 とても素敵な笑顔だ。

 声音もゆったりと優しい印象を受ける。


「あ、どうも。初めまして……」


 俺もぎこちなく挨拶を返した。

 すると、グロリアさんはクスッと笑いながら、


「とりあえず、アリシア様の頭を撫でてあげてください。アリシア様は褒められるのがお好きなので、それで機嫌が治るはずです」


 そう促された。


 おっと。

 すっかり遅くなったが、俺は膝の上に乗せたアリシア様の頭を優しく撫でる。


「フフーン。それで良い、素晴らしい撫でられ心地だぞ」


 満足げな顔で喜ぶアリシア様。


 気を取り直して。

 グロリアさんが目の前の椅子に座り、話を続けた。


「すみません、ライアさん。いきなり騒がしくしてしまって」

「……アハハ、お気になさらず」


 苦笑しながら俺は返す。


 でも、そのおかげでアリシア様の頭を撫でられたのだ。

 なんというか、心がほっこりとした。


 俺はこれで良かったと思う。


 だが現状に関しては全く理解できていない。

 真剣な面持ちで俺がグロリアさんに尋ねる。


「ところでその、この状況はいったい……?」

 

 突然のことで何もかもがさっぱりだ。

 ともかく、知りたい情報が多すぎる。


「そうですね。では単刀直入に、現状を説明しましょう」


 グロリアさんが説明を始める。


「まず、私とアリシア様が人間でないということは理解できていますね? 我々は人間界の支配を目論み、魔界からやってきた魔族です」


 勿論。

 俺を助けてくれたのはこの二人なのだから、間違いはない。


「そして貴方も、魔族に転生したことで人間ではなくなった。場合によっては、生前関わりのあった相手と敵対することもあるかもしれません……ですが、生きたければ受け入れてもらうしかないでしょう」


 そこは俺も納得している。


 正直、自分が何者であるかに興味はない。

 ともかく、生きていられるだけで満足だ。


 それに、俺が生前仲の良かった人間なんてもう残っていない。

 みんな戦場で死んだか、身内もあのクソ親父だけだ。


 だから二人に恩はあっても、敵意の類を抱くことはない。

 人間界でもなんでも一緒に支配してやる。


 という思いを俺は二人に伝えた。


「助けていただけただけでありがたいです。俺で良ければ、アリシア様の眷属として雇ってください」


 聞いて、グロリアさんが驚いた表情をしながら言う。


「……そんなにあっさり決めて大丈夫ですか?」


 何かマズいことを言ったかな?

 そう思った次の瞬間、アリシア様がいきなり俺の頬を掴む。


 そして顔をドアップに近づけながら言った。


「アリシアでいい。様付けはやめろ。それと敬語もな」

「……なんれ、れすか?」


 急な行動に驚きながら俺が答えると、満面の笑みでアリシア様が答えた。


「余がライアのことを気に入っているからだ」


 ……そう言われたら従うしかありませんね。


「わかりまし……わかったよ、アリシア」

「うむうむ、それで良い!」


 アリシアはご満悦の様子だ。


「余は最高の魔王だからな! ライアが余のために尽くす限り、余も決して貴様を裏切らん! だからライア、もっと余のことを褒めてくれていいんだぞ?」


 聞いて、一瞬俺の手が止まる。


 それこそが俺の欲しかった一言だ。

 アリシアは俺のことを信用してくれている。


 裏切りはもううんざりだ。

 けれどアリシアは裏切らないと誓ってくれた。


 それが例え小さな子供の口約束だとしても……。

 そこには俺が尽くすに十分な理由がある。


「ありがとう、アリシア」


 アリシアをギュッと抱きしめ、目一杯頭を撫でながら俺が言う。

 それを見て、グロリアさんが続ける。


「あらあら、お二人ともすっかり仲良くなって。少し安心しました。ではライアさん、本当によろしいのですね?」


 聞かれて、俺は少し考える。


 二人は命の恩人だ。

 眷属になることに異論はないし、どのみちそれしか生きる道はない。


 だったら断る選択肢はないだろう。

 俺は決意を固め、アリシアの頭を撫でながら答えた。


「ええ、俺にできることならなんでもやります。どうか、二人のために働かせてください」


 それを聞いて、笑顔で俺のことを迎え入れてくれる二人。

 

 二人が悪い人でないことは分かる。

 しかし、こんな展開思いもよらなかったなぁ……。


 果たしてこの先、俺はいったいどうなってしまうのだろう?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ