妖邸での出会い
ここは妖が多く集まってくる忌み地童魔村。
普通の人には視えない妖は童魔村のはずれにある妖邸に集い、楽しく暮らしていた。
妖邸で暮らしているのは6人の妖。
吸血鬼のダリア、ダリアの使い魔のタボン、魔法使いのマリア、マリアの使い魔のミヤ、キョンシーの美紹芳、座敷童の絆愛。
そこに家族を亡くし、父の故郷で祖父の暮らしていた妖邸に樹祈幽太が越してきた。
妖邸にやって来た幽太に待っていたのは天国のような平和な暮らしか、地獄なような忙しない暮らしか。
「ここがじいちゃんの暮らしてた家か…。確かにこの雰囲気は妖が寄ってきそうだよな」
そう呟くと、幽太は勢いよく引き戸を引いた。
入るとすぐに長い廊下が続いていた。
幽太の祖父である樹祈幽鬼が亡くなってから誰も近寄っていないはずの家の中には埃1つ落ちていなかった。
「どういうことだ?ここ十年誰も入ってないはずだろ」
幽太が不思議がっていると、奥から誰かに見られているのに気が付いた。
気付かれたと分かったのか、小さな影はさらに奥に走って行った。
不審に思った幽太は忍び足で奥へと進んでいった。
話声のする座敷の襖を開けると、部屋の真ん中に座っていた2人の子供、絆愛と美紹芳は目を丸め、幽太のほうを見ていた。
「お前ら、人の家で何してるんだ?」
そう聞くと、2人は顔を見合わせていた。
「ここはぼくたちの家だよ」
「んなはずねーだろ。村のやつは誰も住んでないって言ったし、何より今まで父さんが管理してたんだ」
幽太がそう言うと、2人は困った顔をしていた。
「俺の祖父が住んでいた大事な家なんだ。秘密基地には丁度良いかもしれないけど、勝手に上がらないでくれ」
幽太がそう言うと、2人は驚いて、幽太に駆け寄った。
「お兄ちゃん、幽鬼の孫なの⁉」
「なんでじいちゃんの名前知ってんだ?」
「ここは妖邸。幽鬼とオレたちが一緒に暮らすお邸」
美紹芳にそう言われ、幽太は驚いていた。
「お前ら、妖だったのか。じいちゃんも視えてたのか?」
「そうだよ。お兄ちゃんほどハッキリ視えてたわけじゃないよ」
「ぼんやりと、存在している。ただそれだけ」
そう言うと、2人は悲しそうに笑った。
すると、幽太はため息を吐いた。
「おにいちゃん、ぼくたちが居るから出て行っちゃう?」
絆愛は心配そうに幽太の顔を覗き込んだ。
すると、幽太は目線を合わせるようにしゃがみ、笑って絆愛の頭に手をやった。
「安心しろ。妖なんて小さい頃からよく視てるし、俺は自分の意志でここへ来た。だから出て行かない」
幽太がそう言うと、2人は安心したようで、嬉しそうな顔になっていた。
しかし、すぐにひきつった顔になっていた。
幽太は不審に思い、振り返ると、勢い良く箒が振り下ろされた。
驚いた幽太は近くに居た2人を抱え、飛び退いた。
「ちょ、お前、2人を離せ‼」
「は?こいつらに危害加えない保証はないよな?」
そう言い、2人は睨みあった。
「ちょ、ちょっと‼マリにぃもおにいちゃんも落ち着いて」
「2人とも、無害なんだから」
幽太の脇の下で2人は慌ててそう言うと、マリアは落ち着いたようだった。
それから、幽太は絆愛と美紹芳を降ろした。
「お前ら、知り合いなのか?」
「うん。マリにぃもここに住んでるの」
「マリア、この人、幽鬼の孫」
そう言って説明すると、2人は驚いていた。
「こんなのが幽鬼の孫?」
そう言い、マリアは幽太を訝しげに観察していた。
幽太は少し居辛そうに目線を逸らした。
「確かに絆愛が視えてるってことはそういう血筋なんだとは思うけど」
「幽鬼に似とるし大丈夫じゃないかえ?」
『ダリア‼』
マリアの後ろからダリアが出てくると、幽太は頭を抱えていた。
「とりあえず、自己紹介じゃ。しとらんじゃろ?」
「そうだった。ぼくは絆愛。ここに住み着いてる座敷童だよ」
「オレは美紹芳。見ての通りのキョンシーだ」
絆愛と美紹芳は幽太の傍で笑顔になっていた。
「おれはマリア。魔法使いだ。一応言っとくけど、女じゃないからな」
「次はわしじゃな。わしはダリアじゃ。この中じゃ1番長寿の吸血鬼じゃ」
ダリアは幽太の顔を上げ、面白そうに笑った。
すると、幽太は呆れ顔になり、ダリアの手を払いのけた。
「俺は樹祈幽太」
幽太はそれだけ言った。
「お前らは本当に人間に視えてないのか?」
「いや、おれとこのじじぃ、メイは視えてる。メイは調子のいい時だけだけどな」
「でも、お前らの話、全然聞かなかったぞ?」
ここに来るまでにあった人たちに聞いた事を思い浮かべながら幽太はそう言った。
すると、ダリアは笑っていた。
「ここ数十年は見せてないからのぉ。忘れておるものがほとんどなんじゃろ。昔ほど忌み嫌われておるわけじゃないからの」
ダリアが説明してやると、幽太はまだ信じられないような顔をしていた。
すると、ダリアは笑った。
「それならこやつらも紹介してやろう」
そう言った時、いきなり白い煙が上がり、驚いていると、宙に浮く、不思議な生き物が出てきた。
「使い魔のような、相棒のような奴らじゃ」
「お話は聞いていましたよ。ダリアの使い魔、タボンです」
「マリア様の使い魔、ミヤ」
タボンは人懐っこそうな笑顔を向け、ミヤは少しむっすとした顔でそう言った。
「使い魔かぁ。具体的には何なんだ?」
「ふふ、それは時が来れば分かりますよ」
こうして、家族を亡くした幽太と、幽鬼亡き後も家に住み着き、守り続けた妖との生活が始まった。