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7.『日々』

『〜♪』


 ピアノとストリングスのユニゾンが気持ちいい、メロディアスなイントロから楽曲はスタートする。

 第一印象としてはラブソングといえばまさにこれぞ! といったようなバラードだ。


 そして、ついに龍樹が歌い出す。

 中性的でありながら、どこか男らしさも織り交ぜた優しい歌声。

 聴き手を包み込むような包容感で、自ずと場の空気が和やかになる。そう、それはまるでRYUKIのような――


「なになに、RYUKI聴いてるの?」


「こんな曲出てたっけ?」


「新曲なんじゃね?」


 楽曲を聞いたクラスメイトたちが、ラジカセの周りに集まってくる。

 あれぇ? なんか、RYUKIとそっくりなんですけど。というかこれって、もしかして本当にRYUKIなんじゃ……さすがに違うかな。

 いやでも龍樹ならありえる……龍樹?


「龍樹って、RYUKIじゃん」


 龍樹の『龍』という名前を音読みにすると、りゅうきになるな。なんで気付かなかったんだろう――いや、気付くわけないって!

 こんな身近な人が超売れっ子アーティストだなんて、思いもしないって!


 さて、問題がある。

 このことを皆に伝えるか、伝えないかだ。


 まぁその答えは一択で、龍樹が公表してない以上は私から言いふらすことは出来ない。これがベストアンサーだ。


「あはは、龍樹もRYUKIの隠れファンだったみたいで、新曲のCD持ってきてもらったんだよねー」

 

「なぁーんだ。咲っちょ、愛しの望月くんに曲作ってもらったんじゃないのかー」


「愛しの!?」


 夢香ちゃんは、人の表情を読んだり気持ちを察するのが異常なまでに上手い。つまるところ、私の恋心もこの前の登校道でバレてしまっていたということだ。


「ね、ねぇ咲」


「――智子」


 昨日の今日で気まずくて智子とは会話をしていなかったけど、曲を聴いた智子が歩み寄ってきた。


「ウチ、RYUKIのこと誤解してた。こんな超エモい曲描くアーティストだったんだね。酷いこと言って、ごめん」


「智子……私もごめん。昨日はちょっと頭に血が上ってた」


 やっぱりRYUKIは凄いなぁ。聴き手の心をこうも簡単に掴んでしまうのだから。

 やっぱり、私はRYUKIが大好きで――


「――へぇ。望月くんって、咲っちょのことこんな風に思ってるんだぁ」


「え!? 夢香ちゃ――え!?」


 なにこの子、どこまで察してるの!? 怖い!

 ていうかそうじゃん! 普通にRYUKIの新曲として聴いていたけど、これって龍樹から私へのラブソングで――



 後日。

 例の曲は、『日々』というタイトルでリリースされ、初動で100万枚を売り上げる大ヒット作に。


 ついでに、中々素直になれない幼馴染たちの恋愛模様を描いた胸キュンドラマのED曲に起用されたことでも話題となった。


「ね、ねぇ、龍樹。あの曲の『明日も明後日もその先も君にために困りたい』って歌詞は……」


「うん?」


「いや、なんでもない! なんでもないですたい!」


 私が素直になれる日は、もうちょっとだけ先なのかもしれない。

 あと、龍樹の前でRYUKIに首ったけな姿を見せていたのが、突然恥ずかしくなってきた。


「RYUKIは私の人生なの!」


 とか言ってしまった過去を消したい。

 龍樹も私にくらい言ってくれればいいのに、人が悪いなぁ、もう!


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