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6.『売れっ子シンガーソングライターRYUKI』

 売れっ子シンガーソングライター、RYUKI。

 デビュー曲『きみのために』が動画投稿サイトの公式チャンネルに投稿されるや否や、瞬く間に1000万再生を達成。

 思春期の揺れる感情を描いた詩的な歌詞と、ギター1本というシンプルな構成が多くの人の心に刺さり、あっという間に人気歌手の仲間入り。


 その後は大手レーベルに目をつけられ、ドラマや朝のニュース番組などの大型タイアップがついたことで、より広い世代に受け入れられることとなった。


 RYUKIの魅力といえば、私生活どころか素顔や年齢など一切の情報を明かさないミステリアスなアーティストだということ。

 これだけ売れていてなお、ライブやテレビ出演の経験がないのも、話題性としては上々といったところか。


 主に若年層からの支持が厚く、咲も熱狂的なファンのひとりだということは、幼馴染の俺から見ても明白である。


 そんなわけで、至るところに彼のファンが散在している現代において、RYUKIを貶すような発言は大変危険なのである。


 ――全国の中高生から今最も推されているアーティスト、RYUKI。


「まぁ、俺のことなんだけども」


 いやはや、まさか趣味で作った1曲からこんな騒ぎになるとは、全くもって予想外だった。


 なんだかんだ俺の本業は学生なので、そっちに影響が出るとマズいと思って誰にも公表してないし、RYUKIとしての発言やインタビューにも気をつけていたんだけど。


 気付いたら咲がRYUKIの大ファンになっていた時はさすがにびっくりしたし、照れたよね。


「RYUKIに負けないくらいの名曲を作って!」


 とは、全く無茶振りってもんですよ。

 図らずも俺は己を越えなければいけなくなったらしい。

 咲のための曲を、ねぇ。


「つーか、デビュー曲も咲をイメージして作ったんだけどな……」


 まぁ、いつも通りでいいか。



「ぶえっくしょい!」


「咲っちょ、風邪?」


「いや、なんか色々ムズムズしたような……」


「昨日はごめんねぇー。智子、普段はあんなじゃないんだけどぉー、なんか今浮かれてるってゆーか、幸せ絶頂有頂天ボンバーってゆーか……」


「幸せ絶頂有頂天ボンバーはよくわかんないけど……」


 昨日は私もちょっと頭に血が上っちゃったし、一夜明けて冷静になってみると正直お互い様な気もしてきた。

 まぁ、RYUKIを馬鹿にしたことだけは許せないけど……なんかRYUKIの曲って、凄く純粋に心に染みるんだよね。

 なんだかんだ私もミーハーだったってことかな。


「咲、はいこれ」


「龍樹! え、もう出来たの!?」


 音もなく近付いてきたかと思えば、シンプルなケースに入った真っ白なCDを手渡し、そそくさとどこかに行ってしまった。

 だけど、これはあれだろう。昨日頼んだ、私のための超エモいラブソン、グ――


「はっず!!!」


「へぇー。咲っちょが言ってた人って、やっぱり望月くんだったんだぁー」


「いや、えっと……」


 いくら頭に血が上ってたとはいえ、なんて恥ずかしいお願いをしてしまったんだろうか。

 いっそ私の成績を案じた英語のリスニングCDとかであってくれ。


「丁度さっきの授業で使ったラジカセがあるしぃー、今聞いてみようよー」


「なにその辱め!?」


「いいからいいからぁー」


 おあつらえ向きにコンセントが挿さったままのラジカセに、無駄に手際のいい夢香ちゃんがCDをセットし、私に心の準備を与えることなく再生を開始した。


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