3.『お友達登場』
「ふぁーあ。夜通しゲームやっちゃったからさすがに眠いや」
「咲っちょ。お疲れだねぇー」
「あ、夢香ちゃん。私ね、その咲っちょって愛称まだ認めたわけじゃないからね」
飯野夢香ちゃんは、高校に入学して初めて仲良くなった女の子だ。ギャルっぽさと不思議ちゃん成分を配合した、ちょっと珍しめの特性を持つ面白い子だと思う。
「そういえばさぁー。この前のテストの平均点、98点らしいよー」
「むしろあのテストの平均点を下げてる人がいることに驚きだよ……」
「ねぇ咲っちょー。咲っちょって、望月くんとよく話してるよねぇー。彼があんなにイケメンだったなんて、ビックリしちゃったー」
龍樹はアレでいて面倒臭がりなのか、はたまたおしゃれに興味が無いだけなのか、私がお願いしないとイケメン成分を完璧に封印してしまう。
なので、高校では龍樹の顔面偏差値の高さはバレていなかったのだが、ついに我慢できなくなった私が思わずイケメン解放命令を下してしまったため、龍樹のイケメンは周知の事実となった。
「でもさぁー、ホント意外だよねぇー。あれからまた冴えない感じに戻っちゃったけどさぁー。一度あれを見せちゃったら、もう誤魔化せないよねぇー。咲っちょは知ってたのー?」
「ま、まぁ、顔は、昔から悪くはないんじゃない?」
「ははは、あのレベルで悪くはない程度なんて、咲っちょは理想が高いんだねぇー。あたし、望月くんのこと狙っちゃおうかなぁー。女慣れしてなさそうだし、意外とチョロかったりしてー」
「え!? あ、うん! や、やめておいた方がいいんじゃないかなー、あははー……」
「――ふぅーん」
夢香ちゃんは、時々こちらを見透かしたような笑みを浮かべることがある。今のにやけは、間違いなくそれだ。
――バレたかな? まぁ、私が龍樹を独り占めにしたいために、あまりその手の『お願い』をしないことまではわからないと思うけど。
「まぁ、結局我慢できなかったけど……」
「咲っちょって結構面食いなんだぁー」
「そっ、そういうわけじゃないけどね!?」
私からしてみれば、龍樹の本当の顔を見た途端に騒ぎ立てる周りの女の子たちの方がよっぽど面食いに見えるけど……そりゃ龍樹はあんまり他の子と喋らないし、仕方ないよね。
龍樹へのわがままは、私の特権だもん。
そういえば、龍樹への初めてのわがままって、なんだったかな。