2.5『森さんは苦労人』
「ふんふふ〜ん」
ご機嫌だ。誰が? 俺が。
何を隠そう、今日は数年ぶりに咲と一緒に登校しているのだ!
「龍樹さん。この前のは私も悪かったです――いや、私は悪くないな。なんであんなことしてしまったんですか?」
「ゑ?」
「いや、え? じゃ……なんだそれ!? うわ! ゑだ! えじゃない!」
咲がこんなに畏まってるのも珍しい。
そういえば一緒に登校しよう、と誘われたのも久しいし、何かあったのだろうか。
「何かあったのだろうか。じゃないよ。あったよ。教室中が大パニックになった事件が、つい昨日」
昨日といえば、テストがあった。
咲が赤点を回避したいと言うものだから、森に学校中の弱みを調べさせて、それを握り潰すかわりにテスト問題をこれにしろと――
「要求がしょぼいだけでやってること脅迫だよね? 私のお願いが発端なだけに文句言いづらいのがアレだけど」
「でも俺は森に何とかしてって言っただけだよ? 脅迫紛いのことをするなんて知らされてなかったし、捕まるのは森だけで……」
「森さんが可哀想でしょ!? なんで切り捨てる気満々なの!?」
もちろん冗談だ。森には世話になってるし、いざという時でも切り捨てるような真似はしない。
そもそも、森は足がつくようなヘマはしないし、最悪捕まっても揉み消せばいいんだから。
「――あれ?」
「どうしたの、咲」
突然突拍子もないことに気付いたような表情を浮かべる咲。みるみるうちにその顔は青くなっていく。
「もしかして、今まで私が龍樹にしてきたお願いって、周りまわって全部森さんの負担になってたってこと……?」
「うーん、まぁ、広義的には」
「広義的にはって何!?」
もうヘタなわがままは言えないな、と改めて己に誓った咲であった。