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12.『それぞれのイベント』


「咲っちょ、久しぶりぃー」


「わぁ、夢香ちゃん、焼けたね」


 夏休み開始から2週間。

 ここにきてついに、「友達に遊びを誘われる」というイベントが到来した。


「毎日海とプールに行ってたからねぇー」


「毎日!? よく体が持つね……」


 ちなみに、言うまでもない事だが龍樹とのイベントは何もない。

 あ、強いて言うならRYUKIが新曲『君がいなけりゃ』をリリースするらしい。

 『君がいなけりゃやってられない 君が俺の道標だ』という歌詞は、もしかしたら私に向けたものなのだろうか、なんて妄想をしてしまったり……ま、まぁそんなところだ。


「今日、どこで遊ぼっか?」


「えっとぉー、じゃあ――プールとかぁ?」


「好きだねぇー」


 特に計画を立てることなく集まったので、行き当たりばったりで行き先を決めることとなった。


 まぁ、プールってのも夏休みの恒例イベントだし、一度くらいは行ってみるのもいいだろう。

 欲を言えば龍樹も一緒だったら――って、夢香ちゃんに失礼なことを考えてしまった。


「じゃあ、けってー! プール行こっかぁー」


 というわけで、私の夏休み初イベントは友人とのプールに決定したのであった。



「……私は休暇中だったように記憶しておりますが、お呼びとあらば」


「……森、ちょっと怒ってる?」


「滅相もございません。確かに私は休暇中でしたが、どのようなご要件でしょうか」


 これは、アレだ。ジト目というやつだ。

 確かに一度休暇を言い渡した以上、こうやっていきなり呼びつけるのも可哀想なことをした。


 だけど、いつも従順な森がこのような表情を見せるのは初めてで、正直ちょっとばかし怖い。


「い、いや、別に仕事を頼もうというわけではないんだ。ただちょっと、何してるかなーって」


「……じゃあ、家より大きいかき氷を作らされたり、ウォータースライダーのような流しそうめんを企画させられることもないと?」


 ないよ! そんなこと今までになかっただろ!

 いや、確かにちょっと無茶振りはあったかも知れないけど……そこまでではなかっただろ!

 

「なんだ――この森、馳せ参じました。なんなりとお申し付けください」


「お、おう……」


 何を心配してるのか知らないが、どうやら森にも地雷があるらしい。よかった、知らぬ間に地雷原でタップダンスしてなくて。


 正直なところ、この2週間はかなり疲れた。

 普段俺のスケジュール管理と雑務とたったひとりで担当し、さながらコンシェルジュのような存在であるのが森だ。


 知らぬ間に森に任せてしまっていた業務を含めると、我が家はかなりのブラック企業と言える。

 これは、労働環境の見直しが必要だろう。


 それはさておき、森の大切さは重々理解することとなった。

 ついうっかり森をテーマに『君がいなけりゃ』という曲が書き上がっていたくらいだ。


 そんな森には、休暇だけでなく褒美も与えなくてはいけない。今日はそのために呼んだ――というのが半分。

 もう半分は、広い家にひとりっきりで暇だったのだ。

 これは言ったら怒られるやつだな、ごめん森。


「森さ、欲しいものとかないの?」


「――? 質問の意図はわかりかねますが……十分すぎるほどのお給金を頂いていますから。龍樹様の下にいて、物欲が満たされないということはありません」


「そうか……いや、森は普段からすごい頑張ってくれてるから、ご褒美をあげようと思うんだけど。何か希望はある?」


「――そういうことでしたら……」


 おぉ、なにかあるのか。

 普段から欲を出さない奴だからな。


 正直「そんなものはないです」とか言われるんじゃないかと思ったが、杞憂でよかった。

 国民的アーティストの最前列プレミアチケットでも、大好きな漫画家と素敵なディナーでも、なんでも叶えようじゃないか。


 森には世話になってるし、金にも人脈にも糸目はつけない。休暇を伸ばしてくれと言われたら――ま、まぁ、前向きに検討しよう。


 さぁ、言ってみたまえ。

 君の、その願いを――――。


「――それでさ」


「はい、龍樹様」


「なんで俺は森とプールに来てるの?」


「なんでも良いとのことでしたので」


 なんでもいいとプールになるの!?

 しかも、プールならシンガポールのホテルを貸し切ったり、南国のプライベートビーチで優雅にバカンスを過ごせばいいものを、なんでわざわざ近所の市民プールなの!?


「さぁ、楽しみましょう」


「せやな……」


 プールなんて何年ぶりか分からないが、森たっての希望なので全力で遊ぶことにするか。


 ――あぁ、もしここに咲がいればもっと楽しいのに……なんて考えるのは、森に失礼すぎるので自重させておく。


 夏休み最初のイベントが、幕を開ける。


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