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 あれよあれよとの間にメアリー嬢はヘキサゴン皇国に"売り渡される"こととなった。

 何しろ父とクワドラ王国に伺った際、国王はしたり顔で微笑んだのである。

 友好国ではあるが同盟国ではない両者の足がかりとしてメアリーは献上された。

 この娘でなくてもいいのはいると何人かの王族も推薦された。それはそうだろう。メアリーは王族の血が流れているが後継者争いで敗北した側の子孫であるので、王族の家系図には乗らない。ならば自分の側室の子供、例えばゲームでは名前もなく、存在しか知らなかった第三王女を推されるのは当たり前の道理だった。

 私はそれにやわく拒否を伝えてメアリーでなくてはいけないと言った。

「王太子殿下は意中の方のおありのご様子」と微笑んでみせると一瞬真顔になった国王はすぐさま笑みを浮かべた。

 情報が流れすぎだとでも思ったのだろう。

 間者が近くにいるのではないかと思考を過ったのであろうがそんな者はいない。私の記憶では。

 何しろ少し時間の流れが違うようだから若干のアクシデントは付き物だろう。

 父はというと国王を好きになれない様子だった。

 皇国は豊かだ。血の争いはご法度、愛を持って妻に接する。嘘も方便だが、心は錦だ。側室の話が出たあたりで眉を顰めていた。一人を深く愛せない者が国民を深く愛せるだろうか。父、いや、皇国の人間は皆が皆愛を持って愛に酔いしれ愛を愛するのである。



「メアリー嬢、お初にお目にかかります。ヘキサゴン皇国第一皇子、ルーン・ヘキサゴンと申します」



 母上が管理をしている手入れされた花に囲まれたテラスでルーンは大袈裟なほど礼をとる。

 椅子に座ったメアリーの膝元に傅き、地面に膝をつけ頭を下げる。

 温室付きテラスは母上が国母に選ばれたその時に父が贈ったものだった。

 庭師である彼女は全てを捨てて国に尽くすこととなった。選ばれたのは光栄の極みだが花を愛でる母上に惹かれたのもあって迷うことなく作らせたらしい。

 母上は大層喜んだそうだ。ルーンはその光景を見たかったが預かり知らぬこと故臣下に聞くだけに留めた。母上が幸せであればそれは国の幸福なのである。少なくともルーンにとってはそうだった。



「頭をお上げください、ルーン皇太子殿下」



 気丈な声。凛とした発音。何よりゲームで見た何倍もメアリーは美しかった。国王には適当に王太子浮気じゃん??と伝えたが本当にそうなっていたのは予想外だった。謁見時も思ったがやはり時間軸は少し前後しているようだ。

 メアリーが婚約破棄されるのは学園を卒業してすぐだ。何しろ三年を使ってヒロインはルートを決めキャラクターを落とすのでその間は冷え込んではいるがメアリーと王太子の関係は続くはずだった。

 まあもうどうでも良い事だ。メアリーは救えた。多分。



「わたくしで良かったのですか?」

「はい?」

「わたくしはその……、お恥ずかしながら能力が足りず王太子殿下の婚約者でありながら何も実績がなく……、加えて婚約破棄までされた身でございます。聞いたところお世継ぎはルーン皇太子殿下だけでございますのでしょう?わたくしには、まだこの国を知らないわたくしには荷が重いと存じます」

「……」



 彼女の言い分は最もだ。彼女の国では両国の歴史については多少学ぶ程度で資料も存在しない。中間国は信仰を止めた国だ。そして有り得ないのだが、敵に隙を見せてはならないと情報は開示されない。これは矛盾だ。建前だ。魔法国はそうやって中間国を遠ざけた。争いを嫌ったから。中間国は魔法がない、獣になる力もない。一人の魔法使いや獣人で中間国の人間は何十人もやろうと思えば殺れる。我らに敵意はないがそれを信じきれない彼らは守るための兵士ではなく侵略するための軍を整えた。それが魔法国並びに亜人国が自主的に遠ざかった理由である。一方中間国の歴史書では軍事力に両国が慄き、その力を恐れたため友好国になるよう条約を作ったのだと改変されている。という設定もある。これは原案者が作ったものなのだが、ちょっと風刺が入っている気もしなくはない。これ以上は触れないでおく。


 さて、メアリーは過小評価しすぎているのもあるが、魔法国を知らなすぎる。

 私は供物として両国の礎としてメアリーを娶ったわけではない。この国の人間はそんな穢らしい取引を厭う。ルーンも同様に。

 これから知っていけばいいとか使い古された押しつけは辞めたいがどう話したらいいものか悩んだ。私の"優しい嘘"は暴露出来ない。しかしメアリーを愛したいのは伝えたい。

 膝の上で組まれた柔らかいシルクのような腕を撫でて手に取る。何も言わずに手に触れたルーンを彼女は咎めなかった。行方を見守ってくれるので薬指に口付けを贈った。



「左手の薬指には心の臓に通じる太い血管があるのだそうです。なので結婚指輪は左の薬指に付けるのだと聞いたことがあります。私はあなたと心を通わせて愛しあいたい。ここに……」



 彼女の薬指に、執着の証を渡せたのならどんなに喜ばしく幸福なことだろう。

 私だけが彼女に好意をうちあけ、無条件で幸せにすることが出来る、権利。それが与えられる。



「頂きたいのです。あなたの一生を」



 私は忘れていた。

 メアリーのことばかりで"気質"を忘れていたのだ。

 【アカダン】は攻略キャラクターに富んだ作品だった。俺様、双子、年下、S性眼鏡、幼なじみ、(これが本当の)一匹狼、etc……。

 ありそうだったが何故か無かったのを【アカダン2】では追加したのだ。

 "ヤンデレ"という真性やべーやつである……。

 ルーンはヒロインを病んだ顔で「君がそばにいない国であるなら壊れてしまえばいい」と三カ国巻き込む大騒動に発展させる困ったちゃんだった。

 そのおかげで賢狼様がヒロインと会い二週目攻略キャラクターになるのだが、あくまでそれはゲームだからである。

 現実であるなら「このゲーム何選んでも未来終わってんな」では済まされない。

 しかしこの時の私は未来を考える余裕はなかったので、仕方ないで済ますしかないだろう。



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