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プロローグ

 【運命の赤いイト~男爵令嬢は王子に求婚される!?~】訳して【アカダン】は日本のとある大手ゲーム企業が手がけた恋愛シュミレーションゲームである。

 その知名度は、例えば乙女ゲーム界隈の人であれば、例えばその大手企業を知っていれば誰でも分かるようなものだった。

 もしかしたらゲームを普段やらない人もSNSなどで目にしたこともあるかもしれない。それぐらいの認知度であった。

 しかし、それは良い方の知名度ではない。

 更に当時その原案者だった人物の独白によって【アカダン】は炎上し、それによって【アカダン】は誰もが知る作品となったのだ。

 事の顛末を引き起こしたのは原案者の上司だった。

 当時身分差のある恋を描いた、明記はないが中世ヨーロッパのような雰囲気のある乙女ゲームが人気だった。波に乗ろうと大手企業はそれを、原案者をリーダーにし制作したのである。

 内容は王子に見初められた男爵令嬢が身分に負けず、周囲に負けず、王女になるために自分を磨く話だった。中にはいじめや犯罪まがいのこと、幼なじみの男からの告白や学園で知り合う高貴な男性からの好意に翻弄されながら切磋琢磨し、王子の婚約者である気品高い公爵令嬢を認めさせ見事王女になるハートフルストーリー。のはずだった。

 あろう事か、当時上司だった男はその作品が出来上がる間際、原案者を痛烈批判し内容をまるっきり変えて発売した。

 内容は全くの反対。

 王子に好意を抱いた男爵令嬢は身分差に激怒し、彼の気を引いて婚約者を無実の罪にて断罪、自分は無理やり王女となり国を傾倒させるという物語だ。

 当時これまたよくあった悪役令嬢ものである。

 原案者はそれを止めたがそれなりに【アカダン】は売れたため上司は原案者を能力不足と称して退職させ作者を自分としたのだ。

 原案者は自分のSNSで「こうなって残念だ」と言う言葉と共に原案を流した。それは瞬く間に人々に伝わり上司は無事解雇された。

 原案はとても良かった。原案者は公爵令嬢であるメアリーを誰よりも愛していてそれはもう完璧な女性だった。なのに、どうして。こちら側に気持ちすらも伝わってくるような作品愛はクソ上司の名前と共に拡散され、よって誰もが知る"不名誉"な乙女ゲームになったのだった。


 さて前置きが長くなってしまったが、【アカダン】の原作を愛してやまないのは原案者だけではない。

 私もその一人だった。ネットでそれに触れ歓喜に満ちたあの時から私は原案者の虜である。

 能力を買われて別ゲーム会社に入社したのでその人の作品は未だ買っている。【アカダン】はその一連の流れから著作権を放棄し原案者に移行され、原案者はそれをフリー素材であると公表した。気持ちはわかる。原案者の愛したメアリーはいないのである。

 その事から【アカダン】の原作を愛するもの達で有志を募り完全オリジナル二次創作を作り上げた。

 その指揮を取ったのが私だ。

 感銘を受け、どうしてもメアリーを幸せにしたいのだとファンメを送った所「原案者に著作権は帰属し、大幅な利益化しないのであればOK」という寛大なお言葉を頂いて制作した。

 今日はそれの発売日である。

 内容は【アカダン】の原作を追った十五年後だ。ヒロインと王子との子供、この作品の主人公の話。宰相のメアリーと前第二王子の恋の話も収録した。

 素晴らしい出来だった。はずなのである。



「皇太子殿下!起きてくださいませ!ルーン皇太子殿下!」



 その作品はパッケージ版とインストール版を用意し【アカダン】の知名度から予想を超える予約や問い合わせがあった。

 徹夜だったのは認める。認めるがわざわざゲーム脳を覗いたようなこの風景には物申したい。



「……あのクソ上司の弟子とも言われる作者が作った【アカダン2】に出てくるヘキサゴン皇国の皇子……ルーンになることはなくない?なんで?は?どういうことなの」



 この作品も忌々しくて話したくない。簡単に言うとビターエンドの続きである。

 ハッピーエンドが王女になるのに対してビターエンドは攻略できる人物全てと友愛で終わるものだ。バッドエンドは選択肢の過大ミスにより攻略人物は愚か王子にさえ「好きだけど一緒にいれない」と言われるエンドである。

 メアリーの末路は酷い。ハッピーエンドでは牢屋に入れられいつの間にか死に、ビターエンドでは好きでもない攻略人物である第二王子と政略結婚、バッドエンドではヒロインに刺されて死ぬ。

 人気を博したメアリーが生きているのが唯一のビターエンドでその続き、となる。

 隣の皇国の皇子が追加と前作では触りしか出てこないSFを明確化する。



「ルーン皇太子!おそようでございます。皇帝陛下がお待ちです。早くお着替えなさって下さい!」

「ルーンも嫌い。重要人物であるメアリーをほっといて何の取り柄もない馬鹿な女を好きになる。なんでメアリーを好きにならないの。頭腐ってんのか」

「はあ。もうこのままでもいいですから、早く、陛下の元までいらして下さいませ」



 さっきからうるさいのはルーン皇太子の乳母の子供で従者だ。ズケズケと物を言うがさっぱりとした物言いだから珍しく嫌うプレイヤーは少ない。



「分かった分かった、行くから着替えはどこ?」




 とりあえずは誰かに起こされるまで夢を見続けよう。

 そして叱咤するのだ。そのために私の脳内はこれを見せているに違いない。

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