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片隅に生きる人々  作者: 伊集院アケミ
第三部『時空移動』編
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第28話「相方の夢」

 いつしか僕は、自分で文章を書く必要性を見出せなくなっていた。DJ君の方が遥かに文章は上手だし、僕の元で学ぶことで、彼は相場の仕組みを急速に理解し始めていたからだ。


 僕は裏方に回り、彼を売り出すプロデューサーに徹することにした。元々僕は、剣乃さんの側近をやってた時代から、そういう仕事の方が性に合っている。僕はアカウント名を【DJ全力】に変更し、その権限のほとんどを彼に委譲した。DJ君は更に持ち味を活かせるようになり、フォロワーはあっという間に1万人を超えた。


 全力三階建てから、DJ全力として活動した1年半、決して順風満帆とは言えなかったが、結果として僕は、相場師としての復活を果たすことが出来た。最も成功した相場は、2017年の年初にお年玉銘柄として仕掛けたメガネ相場である。誰もが知っている、あのメガネ屋のメガネスーパーだ。


 当時、倒産寸前のボロ株だとみなされていたメガネの株価を、僕らは自分たちの仕掛けで倍加させた。驚くべきことに、その相場は経営陣からも感謝された。株価が上昇したことで、それまで全く無価値だった新株予約権の権利行使が進み、会社にも数億円のお金が入ったからだ。


挿絵(By みてみん)


 会社から届いた感謝状は、今でも僕の宝である。ネット仕手筋と揶揄され、煽り屋と叩かれまくった人生がようやく報われたなと僕は思った。


 僕はそこで引退を決意した。師匠を超えたとは言い難いが、相場師として、これ以上の高みはないと思ったからだ。僕は、持ち株のほとんどすべてを清算し、これまで僕を助けてくれたDJ君や赤瀬川さんに、それなりの金を渡した。彼は僕の人生における最高の相方であり、彼の存在なしに、DJ全力の成功はありえなかった。


 だが支払った金は、彼の仕事に対する正当な報酬に過ぎない。僕は彼のおかげで、相場師としての復権を果たすことが出来た。その恩はちゃんと返さなきゃいけない。引退宣言の後、僕は彼のやりたいことを率直に聞いてみた。


「たとえコミュ障であっても、漫画やアニメの審美眼を持つ非リアたちがお互いに助け合い、笑って暮らせる世界を作りたい」 


 彼は真正面から僕を見て、そう答えた。その時の彼の表情と、言葉から受けた感動を、僕は一生忘れないだろう。他者に対して畏敬の念を抱いたのは、それが初めての経験だった。


 師匠は身内をとても大切にする男だったが、人間性には疑問符が付く部分が多々あった。赤瀬川さんも、決して足を向けて眠れない恩人ではあるが、頭のネジは二、三本抜けている。僕を見限った、K監督は言うまでもない。僕は、彼の文才しか見てなかった自分自身の愚かさを激しく悔いた。


 それからの僕は、それまで以上に彼を魅力的に演出することに徹した。DJ垢には鍵をかけ、DJ君が彼のファンに対してのみ言葉をかけられる場所に変えた。彼もその方針に異を唱えなかった。彼は元々、僕に合わせてくれていただけで、本来は自分と同じ非リアのために、創作をしていきたいと思ってた人間だったからだ。


 その後、僕は仮想通貨業界に身を転じた。当時、BTCビットコインのような仮想通貨には、金融商品取引法が適用されなかったからだ。「この場所なら、僕の理想である人間だけの相場を取り戻せるかもしれない」と思った僕は、相場師として久しぶりに腕を振るった。


 DJ君の心を壊した【あの事件】が起こるまで、僕は彼と共に色んな企画を考えたり、BTCをトレードしたりしながら、それなりに楽しく暮らしていたのだ。


 仮想通貨について学ぶうちに、僕は自ら仮想通貨を発行する術があることを知った。とりあえずやってみようと思った僕は、その仮想通貨を10億枚発行し、MACROSSマクロスという名前を付けた。僕とDJ君が大好きだったTVアニメにちなんだ名前だ。そしてこのMACROSSが、DJ君の心を壊した、【ある事件】の引き金になるのである。


 あの時どうすればよかったのか? これから先どうすればいいのか、僕にはさっぱりわからなかった。確かなことは、僕の事を理解し、僕のアイデアを形に出来る唯一無二の優秀な相方を、自分の思い付きのせいで失ってしまったという事だけだ。


 そんな状態だからこそ、僕は『人生を変える箱』なんかに興味を示してしまった気がする。結果的には、師匠の遺品を手にすることが出来たとはいえ、現実に満足していたなら、こんなものに関心を示す訳がないからだ。


(続く)


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