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?.シュトフのダイアログ

「あれ、なんだろ」


……ガラガラ……ガタッ。


道の端に転がる2つの灰色の塊を見つけた僕は、引いていた馬に合図を出し荷台を止めた。


「パックウルフが……死んでる?」


灰色の塊に見えた物は魔物。それも明らかに生気が無く、そもそも近付いた自分に反応する事が無い以上、死体だと言う事は自明だった。


(消えてないって事は……つい最近やられたのかな)


魔物の死体は、加工せず放置するといつの間にか消滅する。魔物が片付けてるって話もあるけど……。


足に触れるとまだ肉質も柔らかく、死後時間が経っていない事が事実として確認出来た。


「折角だし解体しちゃおうか。状態もいいし」


愛馬の方に語りかけながら毛皮を剥ぐ。


この辺りは魔物が出る上、生い茂った木で視界も悪く長居はしたくないため、急いで作業にとりかかる。


その内の1匹を解体する際に、ちらりと左後ろ脚と右前脚に噛まれたような(あと)を発見した。更によく見ると、2匹ともところどころ(あざ)がある……何かで執拗に殴られたようだ。


(何かが噛んで、殴った?)


冒険者とかに殴られたのかな。かといって人が噛むとは思えないし……そもそも亡骸が放置されているのもおかしい。


(まあ、考えるのは後でいっか)


若干の違和感に首をかしげながらも、作業を続ける。


なんにせよ、日が暮れる前に森を抜けたい。ここさえ抜ければ、少しは休めるだろう。



――――――――――



「そろそろ休憩に……」


薄暗い森を抜け、辺りも同様に薄暗くなってきた頃。道から少し外れた原っぱに何かが転がっているのを見つけた。


その場に馬車を止め『今日は色々見つけるなあ』なんて思いながら近付くと……。


「あれ、亜人の子。……猫の子かな?」


そこには、(よわい)11、12程度の黒髪の少女が倒れていた。髪の間からは猫亜人らしく三角形の耳があり、細く長い尻尾は足に沿うようにして伸びている。


「……ん?」


だが、視線を落とすとその服装に違和感を覚えた。


ただの薄茶色の布に穴を空けて、腕が出るようにして羽織っている。布団代わりにでもしているのだろう。


「!」


それに隠れている腕や足をよく見ると、噛み跡がある。出血してはいないが、柄に見えた所々にある赤黒い模様は血が固まったものだった。


「大丈夫……!?」


悪い予感がして、つい声を掛ける。すると、その猫少女はビクリと硬直して飛び起き、ぎらりと光る目をこちらへ向けた。


「っ!?……どなた、ですか?」


飛び起きた猫亜人の子供は、声が少し上ずっていたものの、すぐ冷静さを取り戻してこちらを見る。


――どうやら寝ていただけみたいだ。


冷静に見れば判ったのかもしれないけれど、さっきパックウルフの死体を見たばかりで、少し混乱していたのかもしれない。ステータスを見られた感覚があったから、多分【ステータス閲覧】持ちなのだろう。


黒い両目は冷静にこちらを見据えていて、吸い込まれそうだ。僕は刺激しないよう、落ち着いて口を開く。


「ごめん、起こしちゃったかな?僕はシュトフ……もう知ってるか。一応交易商をやってる」


(てのひら)を見せ、何も持っていない事を一目で判るようにする。


布から覗く足に目をやると、裸足だった。視線を上げると、血で汚れた布を掴んではだけないようにしている。


――かけ布かと思ってたけど、服代わりじゃないよね……?


まじまじ見ても悪いと思い、少女を視界の中央から外す。暫くすると少女は警戒を解き、数回(まばた)きをしてから口を開いた。


「こちらこそ、ステータスを勝手に見てしまい申し訳ありません。俺は【ツクモ】、と言います」


男のような一人称より、格好や見た目から予想していなかったほど丁寧な対応に驚く。確かにステータスを見られた事を気付いたように言ったけど、わざわざその事だと伝えてくるのか。嫌味、という訳でもないだろうし……不思議な子だ。


呆気にとられて暫く見つめていると、女の子は不安気な目をこちらに向けてきたので慌てて返答する。


「ああ、驚かせちゃったのは僕だし気にしないで。……それより、大丈夫?怪我してるみたいだけど」

「いえ、お気遣いありがとうございます。動くのに支障はないので――」


きゅるるる。


少女の声は、何処からか響く音にかき消された。耳が良い方ではないのでその出処を正確に知る事は出来ないものの、自分ではないなら答えは1つしかない。


「あ、っと……」


恥ずかしそうに目を泳がせるツクモと名乗った少女。何も食べていなかったのだろうか。


「……ここらで休憩しようと思ってたんだけど、良ければ一緒にどうだい?そろそろ1人で食事も寂しいと思ってたんだ」


事実、もうじき見晴らしも悪くなる時間だったから丁度いい。


僕がお誘いをかけると、未だ少し恥じらう黒猫の少女は遠慮がちに答えを返してきた。


「……ご迷惑でなければ」

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