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68.休息

「これ、姉御の分っス。ここ置いときますね」

「ん、助かる」


あれから、俺達は何事も無く街へ戻る事が出来た。また鉢合わせても困るから、急いで帰ってきたというのもある。


「……むう」

「どうかしたんスか?」


そんなこんなで依頼も報告し終わったため、現在はギルドで報酬の分配をしてもらっていたのだが……。


「いや、色々任せっきりだなー、と。報酬にしろ、依頼にしろ」

「これくらい、大した手間じゃないっスよ」


銀貨と銅貨の入り交じった袋を見ながら、スープを啜る。


俺も金は必要だし前に言われたこともあるため口には出さないが……今回倒した数は俺は3体で、対するコルチは10体越え。


「3倍以上戦果に差があって、雑用までさせるのは申し訳なさが……」


「いやいや、ゴブリンを引き付けててくれたお陰っスよ。急に叫んだ時はびっくりしましたけど」

「あー。それは本当ごめん」


「いや、助かったっス。いい作戦だったと思います」

「褒めてくれるのは嬉しいけど、迂闊だったと思うんだよな……」


【雄叫び】という名前の通り、叫ぶ事で発動するスキル。戦闘中は注意を引くために大声を出したが、今にして思えばあれで他のゴブリンが来ていたかもしれない。


コルチは兎も角消耗していた俺は、更に襲撃されていたなら完璧にお荷物だった。


「真面目っスねえ、姉御。むしろどんと来いって感じでしたけど。あの時は特に」

「討伐数もギリギリだったっけ?」


「それに、能力強化スキルだったんでしょう?あれ」

「一応な。……」


話の合間で、ずず、と器に口をつけて残ったスープを喉に流し込む。


(……【雄叫び】の効果は強力だ)


俺ですら棍棒を片手で、しかも軽々と振り回せるようになる程だった。


ただ、ゴブリンを倒すために棍棒を取りに行った時には既に切れていたのは効果時間に難ありだ。


俺はトドメを刺すために棍棒を振り上げて、初めてバフが切れた事を知った。だが、同じバフを貰っていたコルチの話だとゴブリンの首を絞めた辺りでもう効果は切れていたらしい。つまり、実際の効果時間は5秒くらいだと思われる。


「……戦ってる最中には使えそうにないしなあ」


掛け声程度では発動しない事は依頼帰りにも確認したが、つまりは意識して叫ぶ必要があるようだ。安全圏にいるならまだしも、戦ってる最中に叫ぶ事に集中するのはキツい。


それに無防備な姿を晒すくらいなら、もっと楽なスキルを使った方がマシだ。


スープの具を咀嚼し、口の中に野菜の出汁と鶏肉の味を感じながら、ステータスの一部に触れる。


――――――――――

【スマッシュ.lv1】

魔力により加速させた一撃を放つ。

使用可能武器:鈍器

消費MP:35

――――――――――


そのスキルというのが、この【スマッシュ】とかいう奴だ。スキル名と覚えた状況から考えて、ゴブリンの頭をかっ飛ばした時に入手したのだろう。


消費MPこそ重いが、このスキルがあれば叫んだりする必要も無い。多分。


(……まだ、1度も使えてないからな……)


というのも、使用可能武器が鈍器と気付いたのが帰り道を暫く歩いてからだったからだ。流石にゴブリンの棍棒は捨ててしまったので、試し打ちも出来なかった。


最悪、拾った石か何かでも発動するかもしれないが……いい加減例の短剣も使いたいので丁度良い。


……という事にしておこう。


「ご馳走様。コルチは何も食べなくて良かったのか?」

「あー……。あたしは、あんまりお腹減ってないっスから」


「省エネなんだな、コルチ」

「はは、そうっスね。じゃ、行きましょ。身体流しましょうよ、姉御」


「ああ、確かにそろそろ身体も汚れて……。……?」


立ち上がった俺だったが、当然のように差し伸べられた手を前に停止する。


(これは、手を繋げと言うことか……?)


街中なら兎も角、なんだろう、ギルドのこういう、そこそこ目立つ場所で子供扱いをされるのはちょっと――。


「姉御、ほら。行きますよ」

「あ」


考え込んで手を取るのを躊躇していると、向こうから手を握られる。俺はそのまま引きずられるようにギルドを出る。


わざわざ振り払ったりはしないが、周りの面々から微笑ましい物を見るような視線を感じた。


……子供扱いされてるのだろうか。その通りだけども。



――――――――――



風呂上がり、コルチと共に部屋でくつろぐ。といっても、コルチはまだ元気なようで、ベッドで寝転がっているのは俺だけだが。


「……ずっと思ってたけど。汚れ落としみたいな便利な魔法とかって、ないのか?」

「ん……?まあ、ありますけど」

「え、あるんだ」


「姉御も知ってると思うっスけど、【浄化】っス」

「あー、あれかぁ……」


「だから、今日みたいな時はそれで十分ではあります。【浄化】で何でも綺麗になる訳じゃないっスけど」

「……。へぇ……」


俺が知らないだけかもしれないが、ファンタジーの使い道が素朴な世界だな、本当。それで十分なら、身体を流したりするのは娯楽の範疇になるのだろうか。


相変わらず、この世界の文化はよく分からないな……と、ぼーっと考えていると、コルチは小さい石のような物を取り出した。


「こういう、【浄化】の魔法が込められた魔石があるんスよ。姉御も記憶無くなる前は、使ってたかもしれないっスね」

「……どうだろうな……」


まあ、使った事は無い。俺の世界にそんな物は間違いなく、無い。


「コルチはいつも……風呂に?」


「まあ、ほぼ毎日っス。姉御、もしかしてお風呂嫌いなんスか?」

「……そんなに……かな……」


ベッドで横たわりながら、彼女の持っている魔石を見る。


元いた世界では毎日風呂へ入るのは珍しくはないはずだが……それは多分、汚れを嫌うためだ。身体を清潔にするのに代替手段があるなら、楽な方を選ぶだろう。


(……まあ、でも。疲れるから別の方法がいいってのもあるけど。毎度、身体だるいし……)


俺は滑らかな毛並みになったそれを動かし、腰に巻くように尻尾に触れる。


耳を避けて髪を洗うのは慣れていないため、まだコルチに洗って貰っている。ついでに尻尾も洗われるのだが、これがきつい。


丁寧に洗われているため、痛くはない。ただ声が出そうになるくらいに、背筋にこう、形容し難い感覚が走るというか……少し、気持ちが良い。


声を出せるなら楽なのだが、洗われているだけで変な声を出していれば変な目で見られる。なので、洗って貰っている時は声を抑えているのだが……これが結構体力を消耗する。


「ぅ……んー。……」


まあでも、今ごろごろしている理由は単純な眠気である。この身体が11歳という年齢にしては力もあったり、動けたりする方だというのは判っている。とはいえ、細かい部分は年相応みたいだ。


「……。……ごめん、ねる……」

「あはは……謝らなくていいっスよ。無理しないで寝て下さい」


身体が睡魔に耐え切れそうにないため、なんとかコルチに断りを入れて先に睡眠を取る。


脳は働いているのに身体がついていかない、こういうところは本当に不便だ。現に、瞑った目を再度開く気にはならない。


「じゃ、あたしも寝ますかね。ちょっと失礼するっスよ」

「ん……」


声と衣擦れの音でコルチがベッドに腰掛けた事を知り、向き合わないようそっと壁の方を向いた。


すると、腰より上の辺りに何かが触れ、そのまま軽く引っ張られる。……抱かれている、のだろうか。


「コル、チ……?」


犯人の名前を呼ぶと、疑問の声に応えるように、更にしっかりと抱きしめられる。


「こうやっておけば、姉御が起きても分かりますからね」

「……んにゃ……。んなこと……ぉ……」


いや、そんな事しなくても起こすつもりだ……と言おうとした言葉が勝手に途切れる。抱かれたままも照れ臭いが、最早、体には一言も発する元気すら残って無いようだ。


「……えへへ、あったかいっスね、姉御」


(妙にひんやりする……)


コルチに熱を奪われて尚、意識は覚醒しそうにない。段々意識もあやふやになってきた俺は、諦めて抱かれたまま睡眠を取る事にした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 次の戦闘でも例の武器を忘れて、鈍器とか違う武器で戦う可能性に1票(眠そうな顔)
[一言] 猫の体温は人間より若干高いもんね〜
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