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67.弓兵

方針も定まったため、来た道を引き返す。敵がいる可能性も加味した行動だが、実質ただの帰り道だ。


「あいつらって、待ち伏せとかしてくるのか?」

「いや、無いと思うっス」


俺がつい疑問を口にすると、やんわり否定される。コルチは前方を警戒してくれているため、自分は後方を見ているが……。いるかもしれないという曖昧な情報と裏腹に、いない理由を考察出来るからこそ諦めているのも確かだ。


「実はおびき寄せられてたとか?……ゴブリン、そんなに賢くはないか」

「そもそも、尾けてきてませんからね。大体、見つかったらすぐ襲われるっス」


一応、ゴブリンは今まで戦ったどの魔物よりも知能がありそうだった。とは言えども、奥へ誘い込むために敢えて姿を見せない、なんて選択肢を取れる程に賢いとも思えない。


それに、挟み撃ちにするためにずっと後を尾けられていたりしたなら、コルチの考える通り入口へ向かっている今こそ痕跡を見つけている筈。


(まあ、そんな増えるなら大変な事になってるよな)


依頼があっても魔物が必ず多いという訳ではないと知って、少し安心する。


魔物を処理しないといけないダンジョンが掲示板に貼られた数だけあるのなら、この近辺は危険が過ぎる――。


「あれ、ゴブリン――姉御っ!」


「っ!」


安堵したと同時にコルチが叫んだ為、すぐに【高速思考】を使う。


声に振り向いたお陰で視界はコルチの方向へ寄っていた事は僥倖だ。コルチが何を見て声を荒げたか、俺にも判った。


(……何か飛んできてる……!?)


辛うじて視界に捉えたのは、矢と石礫(いしつぶて)。コルチは俺を庇うように剣を振っていて、それによって矢だけは切り払われようとしているが……他の飛来物はその限りでは無い。


振り返ったばかりでステップも踏めないし、後の事も考えると倒れる訳にはいかない。


なら、俺に出来ることは……!


「……っい、てっ!」


顔面目掛けて飛んできた石は掴み取り、他は覚悟して耐える。地味に痛いが、防具のお陰で傷にはならないだろう。


「姉御、大丈夫っスか!?」

「なんとか……」


「ギシャァァ!」

「ギャッ!ギャッ!」

「ギィッ!!」


遠くでゴブリンが喚いている。目を凝らせば、それが何か武器を持っている事も分かる。取り敢えず、俺の勘は外れていなかったらしい。


「すいません、飛び道具まで考えてませんでした」

「いや、平気だ……それより」


じわじわとこちらに寄るゴブリン達を見て、もう一度【高速思考】を使って考えを纏める。


未だ少し遠くに見えるのは装備の整った中規模の群れ。といっても防御面に関しては大した発展は見られないが、武器の方に関してはレパートリーが増えている。数匹は弓持ちで、他は棍棒や剣を持っており素手の奴がいない。


「……何処にいたんだろうな」

「あちらさんも、()()だったみたいっスね」


一通り確認してスキルを解除すると、コルチが俺の呟きに返答する。何処に隠れていたのか不思議だったが、コルチのおかげでその出処は判った。


(ダンジョンは巣穴みたいな物とは聞いたが、ここは正にそれだな……)


洞窟の入口にあった足跡が、ゴブリンが出ていく時についた物だとすれば合点がいく。


……偶然、帰還のタイミングと重なってしまったという事だ。運が良いのか、悪いのか。


「弓も使えるのか、あいつら」


「狙いは粗いっスけど、棒立ちだと当たるので……とっ」

「危ねっ……了解!」


コルチにこの後の動きを聞こうとするが、第二射をかけてきたためその場から散開する。流石に見えていれば当たりはしない。連携は取れそうにないが、やるべき事は決まっている。


(突っ込んで、派手に暴れる!)


作戦もへったくれも無い、それこそ頭の悪い作戦に感じるかもしれないが、こうするのが一番良い。というか、近距離攻撃は素手か棍棒、遠距離攻撃は投擲の戦い方ではこんな事くらいしかできはしない。


「行くぞっ!……にゃぁぁぁぁっ!!」


――まず、【雄叫び】を使う。


……発動したのか分からず少し焦ったが、取り敢えず気合いを入れて叫ぶ。この際、別にスキルが発動しなくてもいい。


これだけ大声を出せば当然、こちらにゴブリン達が注目するが……俺が囮になれば、コルチが自由に動けるようになる。


視界の端で当の彼女がびくりとしてこちらを見た気がするのは気の所為だろう。思いつきだったから伝える暇は無かった。


「ギシャァッ!」


謝罪は後でするとして、ゴブリン達がつがえていた矢の先が全てこちらを向くのを確認し、射られた瞬間に【高速思考】を使う。


前進したまま、飛んできた物の内二本の矢が当たるコースにあるのを確認し……右手で棍棒を盾に一本を防ぎ、もう一本は身体を捻って回避。


そして勢いに任せて斜めに前転しつつ、左手で立ち上がる。


「っとぉ!」

「ギィッ!」


こちらに剣を振り下ろされた剣に対して更に斜めに踏み込み、回るように避ける。


「はぁっ―――!!」


そして、遠心力を維持しながら棍棒を振り抜く。重力に逆らわないよう振りかぶった木製の凶器は緑の頭を完全に捉え、伝わった衝撃はその身体を宙に浮かせつつ転倒させた。


―――レベルが上昇しました。

―――戦闘スキル【スマッシュ.lv1】を取得しました。

―――スキル【鈍器使い.lv3】になりました。


「……【高速思考】をっ」


突然のアナウンスに僅かに戸惑いながら、余裕を作るためにスキルを使う。


当てたゴブリンが絶命した事はスキルやレベルが成長した事からも明白だが、今は自身のステータスを確認したい。



――――――――――

名称:ツクモ

性別:♀

Lv:9

種族:亜人(猫)

状態:雄叫び

HP:94/126 MP:58/155

戦闘スキル:

【スマッシュ.lv1】【高速思考.lv2】【雄叫び.lv1】

スキル:

【魅力.lv1】【観察.lv3】【直感.lv1】【鑑定.lv4】【ステータス閲覧.lv2】【隠密.lv4】【投擲.lv1】【体術.lv3】【鈍器使い.lv3】【投擲.lv1】【自然回復.lv1】【根性.lv1】

特殊スキル:

複魂(ふくこん).lv1 1/1】【道連れ.lv2】

――――――――――



(棍棒が軽く感じたのは、【雄叫び】のバフのせいか)


闇雲に叫んだが、何だかんだ発動出来ていたみたいだ。自分のステータスの『状態:雄叫び』の欄を見て納得する。


先程から片手でも棍棒が軽いため不思議には思っていたが、想定以上の効果だ。


(後は……あいつらのステータス確認だな)


時間を置いて少し落ち着いた頭で、冷静に現状を整理する。


ステータスを見たせいでこちらに敵意を向けてきそうだが、どうせ元からこちらに向いているから問題はないだろう。見る限り、弓兵は既にコルチが倒しているようだが。



――――――――――

Lv:13

種族:ゴブリン

状態:正常

HP:156/156 MP:26/26

戦闘スキル:

【兜割り.lv1】

スキル:

【剣術.lv2】【鈍器使い.lv1】

――――――――――

――――――――――

Lv:13

種族:ゴブリン

状態:正常

HP:156/156 MP:26/26

スキル:

【鈍器使い.lv2】

――――――――――

――――――――――

Lv:14

種族:ゴブリン

状態:正常

HP:168/168 MP:28/28

スキル:

【鈍器使い.lv2】

――――――――――

――――――――――

Lv:11

種族:ゴブリン

状態:死亡

HP:0/132 MP:22/22

スキル:

【弓術.lv2】

――――――――――



―――スキル【ステータス閲覧.lv3】になりました。


(……ステータス閲覧もスキルだったな)


再度ゴブリン達のステータスを表示しても何も追加されないため、相変わらず何が変わったのか判らない。


それに、ゴブリン達は(おおよ)そ同じステータスだが、俺にとって脅威である事は変わらない。というか、並べて確認したからこそ俺のレベルの低さが際立つ。


【スマッシュ】とかいうスキルも気にはなるが、こうしている間にもMPがごりごり削られている。


そのため一旦スキルを解き、仇討ちとばかりに近くにいた二匹のうち、一匹のゴブリンが襲いかかってくるのに対応する。


「ギシャァッ」

「ギシィ」

「――せ……ぁッ」


片方のゴブリンが両手で振りかぶった剣に棍棒を刺すように突き出し、懐に潜り込みながら空いた手で首根っこを締めるように掴んで押し込む。


「ギヒュッ……」

「!っ」


剣から手を離して苦しそうにしつつ、首を締める腕を掴むゴブリン。


押し倒せまではしなかったが、手放した剣を刺さった棍棒ごと投げ飛ばし、相手の武器を完全に封じる。


それでも空いた手で俺の腕を外すために掴むゴブリン。空気が足りていないためかその力はか弱いが、このままだと絶命までにはかなり時間がかかるだろう。


「……くっ」

「……ギッ……カヒ、ギヒュ……」


仕留めるのを諦め、振りほどくために蹴り飛ばして距離をとる。


幾らゴブリンが子供並の大きさとはいえ、俺だってそれより少し大きい程度の子供だ。ゴブリンは近くにもう一匹いたため、掴まれた状態だと動けずに攻撃を食らう可能性もある。


そのため、慌ててもう1匹のゴブリンの方向を見ると――。


「ギャ……」

「――姉御、後はそいつだけっス」


コルチがもう一匹を仕留めていた。またかと思いつつも、この瞬間ではかなり有難い。


「でかした!……せっ!」

「ギャ……!?」


残り一匹なら迷う事は無くなった。俺は咳き込みから解放されかけたゴブリンへ向き直り、その頭を掴んで―――。


「……ん゛っ!」


――その緑の頭部へ、自分の頭を勢いよくぶつける。


「せっ……どぉっ!!」

「……ギッ」


そして頭部を掴んだまま押して後退させつつ、その足元にこちらの足を引っ掛け……地面へ叩きつける。


(柔道に、こんな技あったっけか……!)


受け身なんて概念のないゴブリンは頭から着地し、ぴくりとも動かなくなる。


だからといって、死亡確認は怠らない。ステータスにて確認すると、気絶しているだけのようだ。


「とどめくらい、あれ使うか……あれ?」


こういう時にこそだと思い、角のナイフを取り出そうと空間魔法を開き……たかったのだが。何度試しても、例の裂け目が出てこない。


「もしかして、空間魔法使おうとしてます?」


ゴブリンの上に足を置いて手をわちゃわちゃとしながら戸惑う俺を疑問に思ったのか、コルチにそんな事を言われる。


「ああ、作って貰った奴出そうと思って……」

「あー、そっか。知らないっスよね。あれ、戦ってる時には使えないんスよ」


「え、そうなのか」


どうやら、武器を使いたい時に空間魔法にしまってはいけないようだ。確かに、なんで空間魔法があるのに、ギルドに戻る人達は欠かさず帯刀してるのか疑問だったが……そういう事か。


(すまんな、角ナイフ……)


溜め息は出るがどうしようもないので、ゴブリンから足をどけた俺は棍棒を拾いに向かった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 戦闘法が、相変わらずの蛮族(苦笑) 丈夫な角を素材に作ってもらった武器は、未だ使われず。 あの武器は泣いて良いと思います。
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