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66.直感

(……案外丈夫だな、これ)


ゴブリンから奪った棍棒を片手で持ちながら、森で手に入れた物よりもいい造りをしている事を察する。


ゴブリンの頭部に一度ぶつけたので、森で手に入れた棍棒なら根元から折れていた。だが、今回手に入れた棍棒は未だに造形を保っている。


そもそも殴る場所の重さも十分にあるので、投げなくても効果が見込めそうだ……いや、普通はそうか。


もう一方の手で棍棒の頭を抱えながらぽんぽんと跳ねさせていると、コルチが不思議そうにこちらを見つめてくる。


「それ、使うんスか?」

「一応な。無いよりマシだし」

「へぇー。……」


珍しい物を見る目で俺を見てくるコルチ。ゴブリンの遺品をくすねるのは一般的ではないのだろうか。


……。一般的な冒険者をよく知らないから定かではないが、奇特な部類か。ギルドで見た冒険者、普通に自分の武器持ってたし。


俺にもまともな武器があれば捨てても良いが……あ、そうだ。


「……自前の武器もあるぞ」


何か言いたげな彼女に、空いている右手でウサギの角で作って貰った短剣を取り出して見せる。


「あ、短剣も持ってたんスね。……でも、なんでさっき使わなかったんです?」


「……」

「……」


今さっき、武器についての話題が出るまで忘れていたから……とは言い辛く、周りを警戒する(てい)で辺りに目を向ける。


「無意識に一番慣れてる戦い方を選んでたみたいだな」


「つまり、忘れてたんスね?」


「……そうとも言うかな」

「忘れてたなら、そうとしか言わないっスよ」


即バレしたが誤魔化そうとすると、彼女に突っ込みを入れられる。……仕方ないだろう、短剣を貰った前後に色々ありすぎたんだ。


俺は短剣を仕舞って棍棒だけを持つ。重くはないので片手で持つ事も可能だろうが、威力を考えると最初は棍棒だけでいい。


「やっぱ、自分の武器はあった方がいいか」


「個人の自由っスけどね。定石(じょうせき)が云々って話なら、あたしも人の事言えませんし」


「へえ……?」


人の事を言えない、とはどういう事だろうか。見る限りコルチに変な点は無さそうだが。


周囲の警戒に戻った彼女は、俺の様子を察したのかこちらを見ずに付け足す。


「あたしも防具は付けませんから。慣れない事して怪我するの阿呆らしいっスからね」


「はは、確かにな。……」


確かに、コルチの言う通りだ。慣れない事をしてやられたら後悔しかない。


……いや。でも、コルチは防具を付けてないのか。あまりに自然に立ち振る舞っていたから、私服に似た防具なのかと思っていた。


彼女のお下がりを着て依頼に向かっていた俺が言うのも何だが、結構危険な気がする。魔物に怯む様子も無かった彼女の事だ、避けるのも自信があるのだろうが。


刃物を使う事もある魔物を相手に防具を付けない理由はなんだろう……動きを制限されたくない、とかか?


……まあ、それこそ個人の自由か。現状足を引っ張っている側の俺が直すよう勧める理由も無い。


「……んで、さ。足跡とかあったか?今のとこ、それらしいの見てないんだが」

「全然っスねえ」


そんな事を考えながらもずっと進んでいたのだが、結局状況に進歩は無い。ここまで普通に喋っていられたのは、一向に魔物が出てくる気配がないからだ。流石に痕跡の一つでもあればもう少し警戒している。


さっきはそこそこ派手に戦ったため、近くにいたなら音だけでも寄ってきたと思うが、奇襲どころか足跡すら見つからないのだ。不安にもなる。


「……ゴブリンって臆病だったりするのか?」


そのため、流石におかしいと思い彼女に万が一の可能性を尋ねる。


臆病なノーガラットですらこれだけ探せば見つけられた筈。となれば、敵意を持つゴブリンが見つからない道理も無いのだが。


「そんなはずはないんスけど―――」


どうやら俺より知識のある彼女ですら違和感があるようで、疲れの色こそ見えないが軽くぼやいている。


仮にさっきの4体がはぐれだとしても、そこそこ進んだので普通に出てきてもおかしくはないそうだ。


「ただ、狩られて直ぐで、そこまで増えてなかった可能性もあります。……その時は、報酬は諦めるしか無さそうっスけど」


とはいえ、そういう事例が一切無い訳でもないらしい。残念そうに呟くコルチを見て、俺も少しため息をつく。


「報酬なしか、しゃあない―――っ……!」


―――スキル【直感.lv1】を取得しました。


瞬間、背中に軽く寒気のような妙な感覚を感じた。振り返って敵を探るが、何もいない。


普通なら思い過ごしだと流す所だが、頭に響いたその声により確証を得ている俺は、警戒を強めながらステータスを確認する。



――――――――――

名称:ツクモ

性別:♀

Lv:8

種族:亜人(猫)

状態:正常

HP:114/114 MP:116/140

戦闘スキル:

【高速思考.lv2】【雄叫び.lv1】

スキル:

【魅力.lv1】【観察.lv3】【直感.lv1】【鑑定.lv4】【ステータス閲覧.lv2】【隠密.lv4】【投擲.lv1】【体術.lv3】【鈍器使い.lv2】【投擲.lv1】【自然回復.lv1】【根性.lv1】

特殊スキル:

複魂(ふくこん).lv1 1/1】【道連れ.lv2】

――――――――――

――――――――――

【直感.lv1】

勘が鋭くなる。

――――――――――



そして、即座に【直感】というスキルの詳細を出してみる。


(……情報量が少ない)


そんなに贅沢な話では無いと思うが、具体的な用途の説明を望むのは高望みなのだろうか。まあ、なんとなく常時発動(パッシブ)らしいのは判る。


「どうしました、姉御?」


「今さっき、【直感】ってスキルを入手したんだが……それによると、ゴブリンはあっち、通ってきた道に居るみたいだ」


「良いタイミングで覚えたっスね。元の方向っスか」


コルチが剣を握り直しながら振り返るのを見ながら、考える。


勘違いでスキルを覚えるとは考え辛い。というか、思い込みででスキルが生える世界では無いと思いたい。


「スキルを取得するだけの理由はある……と、思う。証拠は無いけど」


「どちらにしても、闇雲に進んでも(らち)が開かないっスからね。あんまり奥に行っても危険っス、ここらで引き上げましょうか」


スキルをどこまで信じていいのかは分からないが、取得したという事実は揺るがないのだ。


彼女の言う通り闇雲に探していても無駄足になりそうだし、このまま進むのは避けたい。危険なら尚更だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 異世界転生もの名物、ゴブの大集団又はキング登場の予感っ!!
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