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63.途次

足早に所狭しと依頼書の貼り付けられた掲示板の前に向かったコルチ。


「さて、どれにしますかね」

「……」


そんな彼女の近くで依頼を観察している俺ではあるが、依頼選びの参考になるような知識は皆無なので意見を出す事は無い。


向こうもそれは判っているのだろう、こちらが黙っていても何も言ってはこない。……彼女の方が経験もあるので妥当と理解してはいるが、目の前の少女に任せっきりなのはやはり少し情けなさはある。


ユノキは、請ける依頼はどう決めていたんだろうか。今はギルド長とはいえ、絶対あいつも冒険者の経験はあるはずだ。


ウルムを連れたりしているから、その時もソロではなかった可能性はあるが……だとすれば彼も、今の自分のような感情を抱いていたのだろうか。


転生前から魔物の知識が豊富だった、とかだとしたら羨ましい事だ。……そこまで考えて、彼には便利なスキルがある事を思い出す。


(……いや、適当に選んでもなんとかなるのか。テレポート出来るんだから)


どこまで出来るのか知らないが、想像する限りチート並に強力なスキルだ。


当然移動も楽にだろうし、戦いでも相手の後ろに回り込める。連続で上に使えば空中に浮いたりも出来るのかもしれない。……いや、流石に無理か?


「あ、これとかどうっスか、姉御」

「ん」


どうせ自分が覚える事は無いであろうスキル、その使い道に妄想を膨らませていると、コルチが依頼書を手に取って話しかけてくる。


「銀貨5枚で、【ゴブリン】……」


そこには、ゴブリンの掃討をして欲しいという旨がつらつらと書かれていた。出てきてしまわないように魔物の殲滅を行って欲しい、とかそんな事が書かれているみたいだ。


「あ、ゴブリン、知らないっスよね。このくらいの……」

「いや。一度倒した事があるから見た目は判る。緑の子供みたいな奴だろ」


説明してくれようとするコルチに先んじて、知っている事をアピールする。確か、ゴブリンと言えばこの世界に初めて来てから戦った魔物だ。


「あや、そうでしたか。戦った事があるなら大丈夫っスかね、ちょっと手続きしてきます」


そう言って受付に行くコルチに軽く頷いて返し、依頼が貼り付けられている掲示板の前で待つ。


(正にモンスターって感じだよな、ゴブリン……)


思い返せば、あいつのお陰でここを異世界だと認識した気がする。良くも悪くもインパクトの強い見た目は、妙に記憶に残っていた。


……当時は必死で殴りまくったので、記憶の中のゴブリンはちょっとグロい状態になっているが、見た目は思い出せる。


小さい俺より更に二回りくらい小さいその身体に、明らかに人間とは違う形状をした耳。俺も人と違う耳は生えているが、ゴブリンのそれは歪に引き伸ばされたような形をしていたはずだ。


「じゃあ行きましょ、姉御」

「ん、ああ」


緑の子供もどきの造形を思い出す途中で手続きを済ませたコルチが声を掛けてきたため、回想を中断して彼女を追う。


……まあ、これから狩りに行くなら思い出す必要も無いだろう。


それより、ぼーっとしていてはぐれてしまう方が問題だ。依頼書を持っているのは彼女なので、はぐれたら迷子になるのは目に見えてるしな。



街から離れ始め、はぐれたら迷子だけでは済まなくなりそうな森。初めてこの世界に来た時に比べれば、自然の多さにも慣れたものだ。


普段なら食べられる野草を探して寄り道……文字通り道草を食う事もあったが、流石に今はやめておこう。はぐれかねない。


「姉御、ゴブリンと戦った事あったんですね。依頼で、ですか?」


せめて少しでも道を覚えようと景色を覚えながら歩いていると、数歩先を歩いていた彼女が話しかけてきた。


「いや。一体だけだったが、森にいた時にな。……やっぱ、群れたりする魔物なのか?」


「そうっスね。集団で襲ってきますし、結構勝手は違うかもっス」


「……あー……ん?」


野生の魔物という存在に何か引っかかる物を感じるが……なんだろう。


確か、前にコルチから聞いた話だと、ダンジョンに収まり切らなかった魔物は―――。


「―――あ。魔物がいたって事は、駆除しないとまずいくらい増えてるって事じゃないか……?」


そしてひとつの推理に辿り着いた俺は、思わず声を上げる。


そうだ、ダンジョンに収まりきらない魔物が表に出てくるという話だった。あの森に魔物がいたと言う事は、近くに外に出てくるくらいに魔物が増えているダンジョンがあったという事になる。


魔物が出る森とはいえ食料もあったので、一度森から出た事を後悔していたが。そもそも、普通に危険な場所だったのかも……。


「あはは、それは無いっス」

「……へ?」


……と、心配をしていたのだが。考えすぎと言わんばかりに答えを返されてしまった。


「姉御が戦ったの、一匹だけだったんでしょう?なら、ただのはぐれっスよ」


何でも無さげに語るその態度からして、一般的な知識なのだろう。ただ、その一般に当てはまらない俺を見て、彼女は続ける。


「そんなに多くはないですけど、ダンジョンから出る魔物はいるんスよ。溢れるくらいに増えたら危ないってだけっス」

「……あ、そうなのか」


「そもそも、魔物って魔力が漂ってると自然に発生するらしいっスから。その森も多分そんな感じでしょうね」

「あー……」


新事実を教えられ、淡白な反応しか返せなくなっている。確か、エプの実の説明に魔力がどうとか書いていたが……ゴブリンやらがあの辺りで自然に発生した魔物、という可能性が濃厚なようだ。


(なんというか、不思議ではあるんだけど、冷めるな……)


そういう所まで調べている辺り、この世界が本当に魔物を資源として見る事が出来るくらいに発展しているのも納得できる。


だが、なんと言うべきか……あれだ、心霊写真の撮り方、とかそういうのを知った感覚に似ている。いや、知らないよりはいいんだけども。


「てっきり、ダンジョンからしか出てこないのかと思ってた。なるほどな」


「そもそも、コアのあるとこだけじゃないっスからね。ダンジョンって」


……というか、コルチが博識なだけかもしれない。当たり前のように話しているが、魔物が発生するシステムは知れるものなのだろうか。


いつぞやに、ダンジョンを調査のために爆破した……なんて話を聞かされたが、そういった実験を知らせたりするものとも思えない。


実年齢はともかく、コルチと俺は、年齢がそう離れていないように見える。


一度考えた事もあるが、子供が冒険者になる事が『訳あり』ならば、彼女にもそれなりの理由があるのではないだろうか。


「魔物の住処を言いやすいから、ダンジョンって呼んでる場合もありますし―――ん、何かついてます?」


「……あー、何でもない。少し考え事してただけだ」


「?……あ、そろそろダンジョン着くっスよ」


コルチについて考えていたせいか、ずっと凝視していたようだ。もうそろそろ着くと教えてくれようとした彼女と目が合ってしまった。


俺は意識を現実に引き戻しながら、言い訳をして目を逸らす。


(……俺だって訳ありの癖に、な)


久々の魔物の討伐だ、気を引き締めて行こう。


ダンジョンの入口が近いため、ローブを空間魔法へとしまう。そして、作ってもらった装備を(あらわ)にして軽く肩を回した。

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