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61.装備

「どうだ、ツクモ」

「……おー……」


鍛冶屋にて防具を引き取りに行った俺は、早速着けさせて貰っている。


……ここで着替えたのは確かだが、一応下着は付けているので前のように素肌を晒した訳では無い。それでもコルチが見たら何かしら言われそうだが、ここには更衣室なんてないから仕方ないだろう。


心の中で言い訳するのもそこそこに、身体を動かしながら身につけた防具の全貌を確認する。初めてこの世界で、ちゃんとした物を着た気がする。……お下がりとか、メイド服もちゃんとした服ではあるけども。


シンプルな革のベストに、ベルトで固定された少し長めのスカートのような腰巻。


当然、服は脱いで下着の上から着ているのだが。腹までしっかりと隠れる革のベストは身体にきつくない程度にフィットしている。


腰巻はめくれ上がったりする事は無さそうだが、太腿(ふともも)にあてるように巻いている革のお陰で多少めくれても問題はなさそうだ。スカート部分と繋がって居ないのは尻尾が出せるように、だろうか。


そして、革の篭手(こて)。二の腕から先、指の付け根を軽く覆うように作られたそれは手甲(てっこう)に近く、指先までは覆われていないものの、腕が剥き出しではないだけで安心感がある。


こうなると、借り物のブーツが一番動き辛く感じる。素足よりは全然マシだが。腕を曲げ拳を握るという、いつもの動きに違和感がない事を確認するだけでも思わずにやけてしまいそうだ。


全体的に女性的なデザインではあるが、それでも俺は喜びを隠せなかった。


「ありがとう、ゲーモ!」

「気に入ったか……ぁあ……んん」


感謝の気持ちを伝えると、欠伸を噛み殺すゲーモ。二日前には完成していたはずなので、この防具の制作が直接的な原因でははなさそうだ。


とは言っても、子供用の防具なんて作り慣れているとは思えないし、苦労をかけたのは間違いないだろう。


彼にもう一度感謝の気持ちを述べつつ、空間魔法から銀貨の入った袋を取り出した。


「……おん?どうしたんじゃ、それ」

「臨時収入があった。防具代、これで足りるか?」


「……いらんと言うとっただろう」


向こうは特に嫌がってもいないが、かといって受け取る事に肯定的でもないようだ。


とはいえ、無料でこういう物を貰うのにはこちら側に抵抗があるんだよな。お下がりという名目だったり、貰い物という建前がある物だったらともかく……つまりは、気分的な物ではあるのだが。


「ワシは別に気にせんがな。几帳面な奴だの、お主」

「俺が気にする。また何か頼みたい時、頭にちらつきそうでさ」


「……そうか、まあ払えなくても気にするな。銀貨20枚だ」

「ん、判った」


観念したように言われた金額を聞いて、確かに今までの財布事情だったら不味かったとは思ったが……今ならそれくらいは十分払える範囲だ。


空間魔法にバラの銀貨を数えながら放り込み、袋の中に銀貨を10枚残して彼の机に置くと、彼は意外そうな声をあげた。


「……本当に臨時収入があったようだな」


「ダンジョンの依頼ミスの一件で貰ったんだ」

「ああ、なるほどのう。……にしたって、随分弾んでくれたもんだ」


袋の中身を数えてみると、実際には銀貨が31枚だった。ギルドの手伝いでどの程度貰っているのかは知らないが、銀貨の汚れ方と相場から考えたところ、日給は銀貨2枚程度だ。


そうなると、余りが25枚。バイト代も大概多いが、25枚全てが依頼ミスでの補償だとすると前に聞いた時より相当多い。


「……心当たりはあるけど、なんか怖いから使っときたいんだよな……」


ユノキが多めに渡して来た可能性もあるが、理由は対して無い筈だ。転生者のよしみだとすれば、そんな理由で相場の何倍も貰ったそれを保持したくはない。


この世界の治安は良い方に感じるが、それだって限界があるだろう。見た事はないとはいえ孤児院があったり、入った事の無い裏道だって多数存在する街だ。


空間魔法があるとはいえ、身の丈に合わない金を使っているのを見られて恐喝されないとも限らないし――。


「……お主、旅に出たりはせんのか?」

「え?いや、特にその予定は無いけど」


「永住する、って訳じゃあ無いんだろう。ヤツの所にいるくらいだ」


軽く屈伸しながら自分の、唐突にそんな事を言われる。


正直、部屋も借りているだけなのは流石に問題なので、この街に居着くつもりがないのは事実だが……。


「うーん……旅か……」

「……ただの年寄りの節介だから、あまり気にせんで良いがな。記憶がないなら、世界を見て回るのも経験になると思っただけだ」


「いや、ありがとう。参考になる」

「ま、お主はまだ若い。焦る必要もないだろうよ」


すぐ机に向かって倒れ込んだゲーモに、背を向けて鍛冶屋の入口へ向かう。


なんだかんだ、俺は切っ掛けが無いと動けないタイプだ。あれだけ庇護下にある事を気にしていても、具体的な案は思いつかない。


だけどきっと、こう言われなければ変わろうとする意思すら記憶の隅に追いやっていただろう。……俺は、そこまで自分に厳しく出来る人間ではない。


ゲーモからの言葉を切っ掛けに出来るかは判らないが、考え続けることだけは――やめては、いけないだろう。

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