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?.柚木遥の夜会話

「質問、いいか?ここなら、(しばら)く人も来ないだろ」


「ん?いいけど、何か聞きたいの?」


メランちゃんに届けて貰った映像記録(ムーブログ)、そしてこの子の出自。


転生者だと思って早速アプローチをかけたけど……なんでか警戒されてるのが今。つらい。


「なんで俺に声をかけてきたんだ?」


「言わなかったっけ。同じ転生者なら仲良くしたいでしょ?」


ジト目をこちらに向けてくるツクモちゃん。


彼女が(やま)しい事をしていないのは調査済みだから、警戒する必要も無いはず。


……。でも、僕が原因で怯えてるっぽいけど。この子、ウルムの言う以上に慎重というか臆病だ。


ウルムとかはすんなり受け入れてくれたけど、違う世界の人間に対してこうなるのは普通なのかな。……いやでも、彼女も転生者(おんなじ)だよね?


「そもそも、なんで俺を転生者だと思ったんだ?」


言動でも警戒していると言わんばかりに、事細かにこちらに疑問を飛ばしてくる猫耳(ツクモ)ちゃんは、常にこちらの一挙一動に注目している。


……流石に悪い事をしてる気がしてきたから、真面目に返答しようかな。


「それはこの英単語だね。小声で読んでたの、聞こえたよ」


「……」


「この辺りだとあんまり使われないんだよね、英語。それだけじゃまだ微妙だったんだけど……」


息継ぎしながらツクモちゃんを見ると、こちらの話を聞こうと頑張っているのか猫耳がピンと立っている。可愛い。


まだ警戒はされてそうだけど、納得はしてくれたかな。……ツクモちゃんにも心当たりがあったのかも。


とにかく、僕はこちらに敵意がないのをアピールする事しか出来ないし……話し続けてみよう。


「でも、その前から変だとは思ってたからね。冒険者になりたがる孤児なんて、変だと思わない?」


「……冒険者になる事はあるんじゃないか」

「あるけど、ツクモちゃんは出身が不明だったから」


自分は違うと言いたげな彼女に笑いかける。確かに孤児でも冒険者になる子はいるけど、そんなのは少数派だ。


特にこの大陸だと、身元のはっきりしない子供なんて普通は孤児院行きだし。他に比べればいい事なんだけど。


「あれ、記憶から割り出してるからそうそう不明だなんて出ないんだよ?それこそ……」


「……出身が別世界だったりしない限りは、か」


歯をかみ締めて言葉を返す彼女に、僕は無言で頷いた。


()()、で伝わるくらいにはツクモちゃんも意識はしていたみたいだけど、転生者が複数いるとは知らなかったから隠す理由も無かったんだろう。


僕も、実際に会うまではそんなにいると思ってなかったし。


「まあ、本当に記憶喪失の人は冒険者になろうとはしないよ」


「……記憶が無いって意味では本当だがな」

「……?」


「――、――観察し続けていた理由はなんだ?」


記憶が無い、という言葉が聞こえて思わず首を傾げる。転生してすぐは僕も記憶喪失という言い訳を使ったけど……どういう事だろう。気になりはするものの、彼女は続け様に質問をしてきたため言葉を止める。


肝心の質問あんまり聞いてない……えーと、観察がどうとか言ってたけど。


「……それは、ツクモちゃんを見ていたかったからだね!何を隠そう、僕は亜人が大好きなんだ!」


「茶化さないでくれるか?」


凄い冷めた反応が帰ってきて、思わず止まる僕。質問をロクに聞いていなかったからってふざけた僕が悪いのは確かだけど、なんでここまで警戒されているのだろう。


「常日頃から亜人にあんな対応を取っているのかもしれない。だが、あの時は何かを確認するために俺を見ていた。そうだろ?」


傷心気味だけど、なんとか持ち直しながらツクモちゃんの話を聞く。


どうやら、朝に僕がずっと見ていた事を言っているらしい。確かに、三割くらいは目的があって見てたけどさ。


まあ、特に証拠も無いだろうし誤魔化せそうかな。……事実あんまり胸を張れる事ではないから、説明しろと言われても困るし。


「……勘違いじゃない?可愛い子は見たいし――」

「そうか。まあ、だとしたらお前の相方が止めないとは思えないがな」

「む……」


ツクモちゃんは僕の言葉をなんでもないかのようにスルーすると、再度責めるような視線で僕を見る。


相方、っていうのはウルムのこととして……何か、ボロを出していただろうか。でも、何かしら確信をもってこちらに言っている事だけは確かだ。


これは、何かしら理由が無いと納得してくれそうにないものの、正直に言う訳にはいかない。


(【ステータス】をこっそり見た、なんて言ったらそれこそ警戒させちゃう……)


【ステータス閲覧】と【隠密】、そして【看破】で……他人のステータスボードを気付かれずに確認出来る裏技。まあ、別に見るだけならいくらでも方法はあるんだけど。


一般的には知られてないから、多分あの時見てたセフィーさんとかにもバレてはいないはず。


だからといって盗み見が印象が良いはずもないし、黙っておくに限る――。


「――ごめんごめん、そんな目で見ないで」


……じーっ。


そう擬音をつけたくなる程にこちらを見ていた彼女に声をかける。流石にそろそろ言葉を返さないと、後ろめたい事があると言っているようなものだ。


「えっと、一つ確認したいんだけど。ツクモちゃんって女の子だよね?」

「まあ、身体はそうだな」


「……どういうこと?」


「いや、わかるだろ。転生前って意味なら俺は()だぞ」



――――――――――



「……男、じゃと?」

「そうなんだよ」


メジスからの帰り、僕は先程の事をウルムに話してみた。


「勿論、ステータスは女の子って書かれてたよ」

「……嘘はついておらんようじゃの」


「え、僕が?いや、ついてないってば」


あの時、彼女が男だと主張し始めたため言葉に詰まってしまった僕。


映像記録(ムーブログ)ではステータスは確認出来なかったから、それまでは僕もツクモちゃんを男だと思っていたんだけど―――。


「疑いたくもなるわい。ステータスを【魂の写し絵】と形容した事があるが、あれは言葉通りの意味じゃぞ?見た目と中身が違うなどそうあるものか」

「……現に、ウルムがそうだもんねえ」


隣にいる、僕より()()年上の狐っ娘を見る。


見た目はツクモちゃんよりちょっと年上程度に見える彼女は、実年齢は三桁。


――前、リアルロリババアだ!と叫んで殴られた思い出がある。


――――――――――

名称:ハルカ=ユノキ

性別:♂

年齢:42

種族:人間

出身:不明

――――――――――


僕は取り出した自分のギルドカードを見て、顎に手を当てる。記憶から割り出したこれは、何も正確であるというわけじゃない。


この世界に赤ん坊として『転生』した時から数えて、20年くらいこの異世界にいるけど……僕は42歳という事になっている。でも僕は、肉体的には20前後のままだ。


記憶の合計値が反映されていると考えるのは普通として、そうなるとおかしい事になる。


「……11歳って、ちゃん付けしちゃ駄目な年齢かな?」

「は?まあ、人によるのではないか?ツクモとやらの話なら、やめた方が良さそうじゃが」


「じゃあ、またやらかしちゃったかな……」


彼女が『ちゃん付けされるような年齢ではない』と言っていた事を思い出す。


彼女のギルドカードはセフィーさんから見せて貰ったけど、11歳と書かれていた。普通に考えれば少女というだけ……でも、僕の事を踏まえて考えれば、彼女は合計11年しか生きていない事になってしまう。


(あの様子じゃ、転生してすぐみたいだし)


ぼそっと聞こえた記憶喪失うんぬんが影響してても、11年分の記憶はあるはずだけど。


――だいたい、自己認識と違うステータスを持っていることがおかしい。


「仮にスキルで女の子の見た目に化けても、ステータスは誤魔化せないよね?」

「女装した者を女性と呼ぶのかお主は。出来てたらトルマのとこのがやっとるじゃろ」


「トルマの……ああ、確かに。あそこのギルド長はね」


少し呆れた顔で見てくるウルムから目を逸らして、トルマのギルド長を思い出す。


見た目は完全に女性のトルマのギルド長もステータス上では性別は男だった。もしステータスも誤魔化せるなら、彼……彼女が、見た目に合わせない理由がない。あの人はそういう所に拘るタイプだし。


「そうなると、ツクモちゃんは自分を男だと思い込んでるってことなのかな……」


「ツクモが嘘をついているんじゃろ。気持ちの悪い視線でああも見つられれば、自ら女子(おなご)だとは言わんと思うぞ」


「気持ち悪いって……。……さ、流石にないでしょ」


ウルムからの突っ込みに、少し心当たりを感じながら考える。


身長が低いからか、上目遣いしてきたツクモちゃん……正直、仕草も丁寧な彼女が男だと言われても信じられない。


でも、女の子だとすれば……彼女が僕の事を警戒していた理由も納得出来てしまう。こう考えると、本当にその可能性がありそうな気がしてくる。


「……いや、でも、あれは必要だったんだよ?」


「ステータスが見えないなら兎も角、見辛い事などある訳ないしのう」

「本当だってば」


そもそもレベル差があると、普通にステータスを見る事は出来ない。でも見てから知ったことだけど、ツクモちゃんはレベル8だった。流石にレベル差が2桁もあれば見えるに決まってる。


「ステータスボードは普通に出たけど、文字が表示されなかったんだよ」


「信じ難いのう」

「本当だって」


転生者に効き辛いという効果があるかもしれないけど、こんなのは初めてだ。


「というか、お主は普通に仕事せい。転生者とか関係なく見に来たかっただけじゃろ」

「いや、ちゃんと仕事はしてたよ」


言う通りツクモちゃんを見て満足したから調査してない……とは言えず、罪悪感を頬を掻いて誤魔化す。


理由が無いとここに来れないから表向きの理由こそ作ったけど、この調査はケモ耳ちゃんを見るくらいしか興味ないし……。


「……まあよい。龍の雫での聞き込みの結果、この辺りの魔物は確かに活性化――」


……まあ、ツクモちゃんの事は僕が考えることじゃないか。仮に男だとしても、メイド服で働いたり、普段も女性服を着るくらいには女の子してるみたいだったし。


「分布も変わり始め――聞いとるか?」

「ごめん、もう1回お願い」


今はツクモちゃんより、鋭い目で睨んでくるウルムの話を聞くことの方が重要かな……。

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― 新着の感想 ―
[一言] うむ。 どう取り繕おうが、柚木遥とやらはTPOなんて気にせず性癖をカミングアウトする、変態だった。 それを確信しましたです、はい。
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