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58.動向

(あれ、いない。人に(まぎ)れて……は、ない)


慌てて外に追いかけたものの、外には二人の影すら見つからない。


一応人通りもあったものの、紛れる事が出来るとは思えない。いくら彼が普段着のような格好だったとはいえ、それは前世の話だ。何だかんだあの格好はこちらの世界では浮く。


そもそも片割れは紅白(こうはく)の巫女服を着ていたのだから、嫌でも気付くに決まっている。


わざわざ別行動する必要もないだろうし、見える範囲にいないのだろう。路地にでも入ったのだろうかと近くを探してみたが、それらしき影は無い。


(まあ、服に関しちゃ人の事を言えはしないが……)


ドジを誘発するという謎の効果が無くてもこの服は特殊な造りのため、街中を歩けばそこそこ目立つ。


最近はほぼ常時発動を意識している【隠密】スキルで目立たないようにしていたが、効果も微妙な気がする。このままでは(らち)があかないため、探すのもそこそこに屋内(おくない)に引っ込む。


「お話、終わったの?」

「……あれ、あの方々はどうしたんスか?」


すると、対称的な髪色をした二人に声をかけられる。外で探している間にコルチとセフィーは厨房から出て来ていたようだ。


「いや、それが……また夜に来る、とか言って何処かに……」


「夜、また来るんスか」


コルチは苦笑いこそしてはいたが、声色(こわいろ)は完全に呆れている。最初こそギルド長という肩書きで尊敬(そんけい)の気持ちはあったのだろうが、行動があれではこうなるのも理解出来る。


「何なんでしょ、暇なんですかね」

「……正直、さっぱりだ」


最早、取り繕う気もない呟きを漏らすコルチ。来た理由はいくつか考えられるが、当然それをコルチに伝える訳にはいかないので無知を(よそお)う。


その変な行動の被害者である俺も、彼等を変な奴と認識しているが……何なんだという問いに関して、答えを持ち合わせている訳ではない。いきなり転生者である事を確認され、警戒していたら何処かに行ってしまったというだけだ。


結果としては、お互い転生者である事は分かった。……転生者がこの世界に複数いる、という情報で調子を狂わされただけとも言える。


(あいつが自分を転生者だと(いつわ)っている線は無いだろうし、な……)


仮にその場合でも、転生者という物に対して知識があるのは間違いないが……そもそも、ユノキはそんなに器用な方では無さそうだった。


当時こそ警戒していたが、彼等のやり取りが演技には思えなくなっている。


特に狐亜人の少女……ウルムの方が終始ユノキの事を(さげす)むような視線で見ていたのは、演技にしては迫真過ぎた。


「ユノキの事だから、ツクモちゃんを見に来ただけ……って可能性もあるのよね」

「あの人ギルド長っスよね……?」


「いや、この制服を回収しに来たらしいぞ」


……セフィーの言う通り、俺を見に来たとかいう謎の動機(どうき)も主張していたが、彼の名誉(めいよ)を守るために弁護をする。


彼等の()()が演技であろうがなかろうが、表向きの目的はこのドジっ娘強制メイド服とやらの回収だ。


単純明快で馬鹿らしいネーミングは兎も角、効果を考えれば危険物ではある。間違って送り付けた物なら、回収するのは当然の話だろう。


「でも、そうなるとツクモちゃんがそのお洋服着てるところも見納(みおさ)めかあ」


「ツクモの姉御、貰ったらどうですか。エンチャントの影響は無いんでしょう?……気に入ってそうですし」


「気に入ってない。返す」


朝の事を想起(そうき)して呟いたのだろうその言葉に、強く否定する。セフィーは残念そうだが、どうせ今日以降は手伝う事は無いだろう。


(……俺の何をそんなに見る必要があったんだ)


ふと、ユノキが俺の身体を舐め回すように見た事を思い出す。


視線を向けられた時、下心があれば何処を見られているか判るとかいう(うわさ)を聞いた事があるが、今回の一件はその説の検証にはならないだろう。


生憎(あいにく)自分にそういう経験があったかは判らないが、下心のない視線は反応出来ないのだろうか。それとも、その情報自体が間違っているのだろうか。結局何処を観察されていたのかは判らずじまいだ。


(別世界の人間なのは、確信してたんだよな?)


視線云々(うんぬん)真偽(しんぎ)は兎も角、今更になってユノキに何故観察されていたのかを疑問に思い始める。


ユノキのTシャツに書かれた文字を口に出してしまったのは、観察してくるより前だ。


となれば、奴はこちらが転生者と判った上で俺を観察してきたという事になる。転生の確認のためである可能性もあったが、俺にふっかけた時のウルムの反応からすればそれは無いだろう。


そもそも、身体を見たところで転生したかどうか判別出来るとは思えない。


……後、服の回収くらいで(おさ)直々(じきじき)に来る必要が無いと思う。雑用を誰かに押し付けられない立場ではないだろうし、何か他の事情があったと考えた方が自然だ。


(それこそ、俺の知る所じゃないだろうけどな……)


ギルド長という立場の人間が動くような事情なんて、生前の名前も記憶も曖昧な俺には分かりようがない。


取り敢えず、夜には彼から答えを確認する事は出来る。全部答えてくれるかは判らないが、考えるのはその後でも遅くないだろう。

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