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56.観察

「……ん、僕の顔に何かついてる?」


見られている事に気付いた彼は、何でもないかのように視線を上げる。


「いや、そういう訳じゃないが……」

「そっか。……」


ギルド長なのか、とか何しているのか、等の疑問はあれども、Tシャツにジーパンという視覚的な印象に気を取られて言葉が続かない。


相槌(あいづち)を一言で済ませた彼は、俺の周囲をゆっくり回るようにして眺めるのを再開する。……というか、やめて欲しいとは言わなかったものの、そのまま続行されるとは思わなかった。


ふと視線をウルムと名乗った狐亜人の方へ向けると、気まずそうな様子で答えを返してくる。


「もう少し、待ってくれるかの?しばらくすれば満足すると思うんじゃが」


「いや、これ何やってるんスか」


「こやつの(くせ)じゃから、気にせんでくれ」


その返答に冷静に突っ込みを入れるコルチだったが、金髪の狐亜人は至極真っ当なその疑問に間髪入れずに返答する。


用意していたのかというレベルの早さの返答は、この光景が今回が初めてで無いことを顕著(けんちょ)に表している。


「え、ええ……?」


コルチもそれに気付いたのか、困惑した様子でこちらを見る。二人とも察しがついていたが……今、ここで俺の観察に(いそ)しんでいるこいつが恐らく、ギルド長のはずだ。


「……ユノキ、相変わらずなのね……」


……そして、案の定いつもこんな事をしているらしい。セフィーの呟きがそれを物語っている。


「ユノキがギルド長なんだよな?」

「うむ」

「そうね」


確認も兼ねて質問すると、金髪の彼女は勿論、近くにいたセフィーも頷いて同意した。


意外性は無いが、余計に今の状況の謎が深まった気がする。


「……」

「えっと、ユノキさ……じゃない、ユノキ」


「……」

「あの……?」


視線をユノキの方に向けるが、金髪の彼は黙ったまま真剣に俺の身体を観察していた。一応声を掛けてみるが、先程と違って無視をされてしまったため、沈黙してしまう。


「私、準備して来るわ。何かされたら呼ぶのよ、ツクモちゃん」

「あたしも手伝ってきますね、姉御」


その場にいた二人はいつまでも観察を続けているユノキを見て、暫くは変化も無いだろうと思ったのか厨房に行ってしまう。


そうなれば、当然この場に初対面の二人だけが残る。更に、その内片方は話が通じない。


(これ、どうしろと……)


自分が女性である事を考えれば、下心を警戒して「じろじろ見るな」と言うのは自然だったか。言うべきタイミングはとうに(のが)してしまっている気もするが。


と言っても、厨房に行ってしまった二人が止めなかったのは彼の真剣な様子も関係しているかもしれない。下心から見ている、というよりは俺を『観察している』ように見える。


……ギルド長という立場、かつ初対面の人間に『セクハラだ!』と突っ込める程、勇気が出ないのも一因(いちいん)だが。


「……うちの阿呆がすまんの。ツクモ、と言ったか」

「ん、ああ」


いっそ俺も厨房に逃げてしまおうかと迷っていた所、腕を組んでいたウルムが話しかけてきた。


取り敢えずこのまま本題に入るようだ。正直、背後にいる彼を止めるなりして欲しいが、早く要件を済ませて貰うためにもこの際無視してしまおう。


「その服なんじゃが、試験段階の物を間違って送ってしもうてな」


「これ、変なエンチャントがついてるって聞いたけど、そういう事か……」


ウルムの言葉に納得し、自分の着ている服について思い出す。デバフがついているのは謎だったが、何かを試して付けたものだったのか。


「知っているなら話は早い。それは『ドジっ娘強制メイド服』と言っての」

「なるほ……。ん?」


「ユノキが作ったんじゃが」

「ちょっと待て……なに、メイド服だって?」


意図せず製作者についても分かったが、奇抜(きばつ)なネーミングの方が気になり、思わず聞き返す。


なんというか、異世界に似つかわしくない単語の組み合わせが聞こえたような気がするが……。


「『ドジっ娘強制メイド服』じゃ。強いる、という意味の強制じゃぞ」

「……ドジっ娘、強制……」


ウルムの言葉を確認するように繰り返し、その意味を考える。


せめて()()の方ならまだマシだったかもしれない。それでも、メイド服である意味は無い気がするが。


(……でも、まあ……なるほど……)


名前を聞き、この服に付いた謎のデバフについての合点がいった、


ゲーモの話では『注意力が散漫になる程度』と言っていたが……まあ、俗に言い換えればドジが増えるという事でもあるだろう。


「そう!それを着ることでどんなロリでもドジっ娘になれるんだよ!」

「にゃっ!」


後ろからの突然の声に尻尾が跳ねつつも、声の主とウルムが同時に視界に入るよう、後ずさりをする。


よもや男児(だんじ)に着せる用途ではないだろうし、対象が女児(じょじ)である事は確かだったが……製作者当人が答え合わせをしてくれた。


……今すぐセフィーに駆け込んだ方が良いかもしれない。先程は下心が無さそうに見えたが、変態ではない証拠ではなかったようだ。


「大声を出すでない、やかましい……もういいのかや」


「可愛かったよ!だからもうちょっと見ていいかな………うそうそ、やめて、ウルム」


狐亜人が手のひらに青白い炎を出現させたのを見て、ユノキは手を上げながら焦って弁明(べんめい)する。


「さて、ツクモちゃん……いや、ちゃん付けは失礼なのかな、ツクモくんとか?」

「……いや、呼びやすい呼び方でいいけど」


突然真面目になった彼は、こちらの目を見ながら聞いてくる。


呼び名をいくつか考えているようだが、俺としては呼ばれ方に拘りは無い。セフィーからはちゃん付けで呼ばれているし、コルチに至っては『姉御』だ。


本題はこの服についてだろうと素っ気なく返したが、彼はまだ悩んでいるようだ。


「……呼ばれたい名前とかある?あだ名とか」

「いや、別に。呼び捨てでいい」


強いて言えばちゃん付けはされたくないが……そもそも、彼は最初会った時には普通に『ツクモちゃん』と呼んできた筈だ。


今更なんでそんな事を聞くのか考えていると、彼は少し悩んでから口を開いた。


「うーん……()()前のあだ名とか、無い?」


「……。えっ?」

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