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53.性能

「ご苦労さま、ツクモちゃん」

「セフィーもお疲れ……って言っても、これからか」


お互いに(ねぎら)いの言葉を()わし、厨房へ向かう。


服による影響も特にないまま、ギルドの手伝いは二日目もつつがなく終了……というか、俺が帰らされる時間となる。


良い子は寝る時間、なんて言えるほど早くもない時間ではあるが、少なくともカウンター越しに聞こえる喧騒の主犯(しゅはん)である酔っ払い達はこれからが本番のようだ。


冒険者の朝が弱いというのは、夜更かししているからじゃないだろうか。……同じ理由でも、コルチの方は幾分(いくぶん)かマシだろうが。


毎日誰かのお祝いでもやっているのか、というくらい騒がしい。宴会(えんかい)ムードを(とが)めるつもりはないが、酒を飲みすぎてグロッキーになっている人間もちらほら見えるので、心配にはなる。


「姉御、帰りましょ」

「ん……ああ」


暫く待っていると、帰る準備の出来たコルチが声をかけてきたが、生返事をして彼らの様子を見る。


そのうち身体を壊しそうだが、魔法でなんとでもなる世界だとその辺りの健康への思慮(しりょ)は浅いのだろうか。他人の事とはいえ、心配になってくるな。


「なんか気になる事でもあったんスか?」

「……。あー……いや、亜人ってなかなか見ないなって」


ずっと冒険者達の様子を見ていたからか、彼女に心配される。少し考えて、俺は咄嗟(とっさ)に思いついた別の質問をした。


「そうっスか?」

「街中にいる量に比べて、亜人の冒険者が特に少ない気がしてさ」

「んー……」


なんで彼らはそこまで飲むのか。そんなことを聞いても、分かる物ではないだろう。


人それぞれ違う事情のはずだし、モチベーションを維持するためなのかもしれない。俺の記憶にある『飲まなきゃやっていられない』という言葉は、異世界でも通用するはずだ。


……前の世界について、しょうもない事ばっか覚えてるよな。こういう事を覚えてるなら、一つくらい自分の事を思い出してもいいと思うんだが。


「……メジスには強い魔物が少ないって話はしましたっけ」

「聞いたな。この辺りは低ランクの魔物だ、とか」


訓練場への道を歩きながら、いつぞやの話を思い出す。


ダンジョンの魔物には強さがあり、基本的には周りの魔力の濃度によって決まるらしい。明確に格付けがされている訳ではないそうだが、冒険者の間では『ランク分け』して魔物を評価する事もあるそうだ。


というのも、魔力の濃度によって湧く魔物も変わってくるから、という話だったはずだが……。


「亜人の方々って身体能力高いので、この辺でわざわざ冒険者にならないらしいっスよ」

「……コルチも俺も、大して変わらない気がするが」


歩きながら自分の頭の上にある耳を触ると、むず(かゆ)いような不可思議な感覚が俺を襲う。人間とは確かに違うが、言ってしまえばそれだけだ。


そこそこ前にコルチと依頼に行った時の事を思い返せば、彼女の方が動けていた気さえする。


「まあ、姉御は人間に近いタイプっスからねぇ。街中で見たことないっスか、毛並みのいい人」

「毛並みの良い……いたな」


俺は脳をフル稼働させ、メジスに初めて入った時の事を思い出す。そういえば、パックウルフに近い骨格の頭をした、二足歩行の人間……獣人はいたはずだ。


「ああいう人は、普通より身体能力が高いんです」

「ああ、なるほど」


あの時は珍しいという意識は無かったが、今になってもっとよく見ておけば良かったと思い始めている。


「……いいなあ」


俺は自分の体つきを思い返し、ため息混じりに愚痴を吐く。すると、隣の彼女が意外そうな顔で聞いてくる。


「ツクモの姉御は、ああいうのに憧れがあるタイプなんスか?」

「そうだな。爪とかで切り裂いたり……打撃も威力が出そうだし、脚力(きゃくりょく)も強そうだよな」


確かあの獣人の手の形は言葉通りに人間離れしていて、腕が強靭(きょうじん)である事は一目瞭然(いちもくりょうぜん)だった。


下半身までは覚えていないが、脚もオオカミのような物であるならその健脚(けんきゃく)ぶりにも期待出来る。


「あはは……なんというか、イメージ通りっスね」


コルチは苦笑いしているが、武器も使えるなら身体能力が高いのは何においてもアドバンテージだ。そうでなくても、少女の身体になった俺としては、戦闘向きの身体に憧れを持つのは当然。


「案外、毛皮って良い物じゃないらしいっスよ?よく、人間が羨ましいって聞きますし」

「うーん……そういうもんか」


結局、隣の芝生(しばふ)が青く見えるだけなのかもしれないが、俺の場合は無いものねだりに近い。


訓練場の部屋の扉を開け、中の姿見を見るとそこにはしかめっ面の猫耳少女がメイド服を着てこちらをまじまじと見つめていた。


少なくとも、子供用に作られたようなメイド服を着ている少女()には(うらや)ましい話だ。……身体能力までの高望みはしないから、せめて男に生まれ変わらせて欲しい。


「亜人の冒険者を見ないのは、昔の名残(なごり)なのか」

「そういう事っス」


部屋に着いたので、話をまとめながらエプロンを脱ぐ。フリルどころか弱体の魔術付与(エンチャント)がついているワンピースも脱ぎたいが、これを脱いだらほぼ全裸だ。


「まあでも、最近はこの辺もランクの高い魔物が増えてきたので。亜人の冒険者もその内増えますよ」


「たまには俺以外の亜人も見たいな。今度、適当に店とかぶらついてみるか……」


「その時はご一緒するっス!買い物とか、まず服を―――まあ、亜人は見つからないでしょうけど―――」


……。多分、コルチは聞こえて無いと思って呟いたのだろうが。俺にはばっちり聞こえた。他の所はロクに聞いていなかったが。


「見つからないって、亜人の事だよな。なんでわかるんだ?」


未だプランを口に出しているコルチに、間を置かずに指摘する。


【感覚強化】のおかげかもしれないが、気付いた以上は聞かせて貰おう。


「―――えっ……まあ、その……。あ、亜人の方って夜型が多いので。遊びに行く時間には会えないと思うっス」


……絶対嘘だ。質問しただけでこの有様。不意打ちしたのも効いたのだろうが、歯切れも悪くどもっていた。


少しして持ち直してはいたが、それまでの反応が嘘である事をを物語っている。


「いや、明日が最後ですし頑張りましょ!おやすみっス姉御!」

「……おやすみ」


何か知ってはいそうだったが……まあ、聞いても答えてくれなさそうだし、俺も寝ることにしよう。


どちらにせよ明日にはこの変な服ともおさらば出来る。結局は悪いエンチャントの効果は無かったと思うが、だからといってずっと着ているのは御免(ごめん)だ。

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