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?.アルギと『---』

「食事が来るまでの暇つぶし程度でよければ、ツクモについてお話するよ」

「!いいのか」


周りにいた使用人に気が付いて少しおどおどしていた『自称ツクモ』の猫亜人は、僕の言葉に飛びつくように反応した。


【隠蔽】のエンチャントをかけているローブを着込んでいた時に視線を感じたので見てしまったが……懐かしい顔だったのでつい声をかけてしまった。まさか同名とは思わなかったが……。


(確かに、見た目は似ている。でも、性格は別物だ)


話し方が見た目と不相応(ふそうおう)な目の前の少女は、記憶の中から飛び出してきたと錯覚(さっかく)する程に似ている。


執事の【ドーブル】は『立場柄(たちばがら)そういった(やから)もおります(ゆえ)、警戒だけはなさってください』と言ってきたが……。


何より『そういう輩』と(しょう)される程、彼女に敵意があるようには感じない。取り敢えずは、話す分には問題ないはずだ。


「そもそも、アルギはツクモとどういう関係だったんだ?」


「彼女は、僕の義妹(ぎまい)だ。見た目は背丈(せたけ)も含めて、君と本当に似ているよ」


居住まいを正した彼女はツクモについて聞いてきたため、僕は軽く笑顔を作り彼女へ質問の答えを返す。


男口調(おとこくちょう)で喋っているのは性格なのだろうけど、靴は履いていない割に身に付けているものがそこそこに上等な物だったりと、確かに怪しい。


だけど、姿形(すがたかたち)を似せてツクモの振りをするつもりなら、もっと上手くやるはずだ。


「一緒に暮らしていたけれど、命の在処(ありか)についてとか、人格を形成するのは何か……とか話してたかな。……まあ、僕は殆ど理解出来なかったんだけど」


案の定、軽く引いている彼女を見て別人だと確信する。義理の妹ながら、幸いこういう変な特徴には事欠かない……本人やそれを知っている人間なら、こんな反応はしない。


「そ、そうか……何か、癖とかはあったか?」


「そうだね……よく、家出する癖があった。数日で帰ってきてたけど、大抵草とか石を持って帰っては食べてたかな」

「……ん?」


「最初は皆が止めてたんだけど、最終的には言っても無駄だからって僕以外は放置してたね」


疑問符を浮かべた彼女を放置しつつ、その場景(じょうけい)を思い出して話す。


本人(いわ)く『ちゃんとした所で採取した』そうで、だから食べられる……と、言いたげだった。


……いくら当時の僕も子供だったとはいえ、ツクモよりは年上だ。


野草は食べられる物もまああるだろうものの、鉱石に関しては『ちゃんとした所』で採取したからといって食べられる物でない事くらいは知っている。


それでも彼女(ツクモ)は『何でも試す事が、目標へ到達する近道だからね』と言って一向にやめようとしなかった。


流石に石を食べたのはあの1回きりしか見たことはないけど……多分もっと食べている可能性は高い。彼女の目標は聞いても教えてくれなかったけど、石を食べなければいけない程の理由はなんだったのだろう。


「毒草とか持ってくる事も多くて―――」


「……待ってくれ」


僕が(たた)み掛けるようにツクモの奇人変人(きじんへんじん)ぶりを話していると、目の前の彼女に心底引いた顔で制止される。


……。本当に引いているようだ。なんと言えばいいのか、こちらが変な事を言ったような目でこちらを見ている。細かい説明を省いたから変な事を言っているのは確かだ。


いや、細かい説明があっても変だね……僕もそう思う。


「ツクモについての話だよな?」

「気持ちは判るけど、君と同じ猫亜人の子だよ」


同情しながらも事実だと主張すると、彼女は言葉を失った。話した内容を疑われているのだろうか。


意図もなくやっている訳ではなかったみたいだけど、僕だってその意図は分からない。事実しか言っていない以上、疑われても困るのは確かだ。


彼女は(いま)だ少し引きつつ、質問を続行する。


「いなくなったって言ってたよな。それってどうしてだ?」


「10歳の誕生日の後、出かけてしまってね……それっきり見てないんだ。置き手紙も伝言も無かったから、行方も分からない」

「……なるほど」


彼女の様子を見て、小休止と言わんばかりに紅茶を飲む。目の前の猫亜人も流石に頭の中を纏めきれないのか、その表情はどこか(けわ)しい。


「他に何か聞きたいことはあるかな?」

「う、うーん……」


聞いてはみるが、答えは(かんば)しくないようだ。


暫く紅茶を飲みながら様子を見ていると、熟考(じゅっこう)に入っていた彼女は空間魔法からギルドカードを取り出した。


(……?この子、冒険者なのか)


流石に詳細はまともに読めなかったが無防備に取り出していたため、軽く全体は見えた。ムーブログを使って調査すればこの少女の正体は分かるだろう。


……。


「そう言えば、君はいくつなんだい?」

「11歳だ。まあ、いなくなった時期は一致してるんだけど……」


あっさりそう言うと、彼女はギルドカードを差し出してきた。


「あ……ええと」


聞けば答えてくれるとは感じていたものの、ギルドカードまで差し出されるとは思わなかった。


(紋様(もんよう)から見る限り、所属は龍の雫か)


そこには彼女の年齢が11歳と(しる)されていた。名前もツクモであり、出身は不明。


(出身不明……記憶になんらかの障害を持っている場合に起こる表記だったはず。表記に偽装を許すようなギルドでもない)


つまり、彼女が語っていた記憶喪失という事情は本当、という事だ。


「んっと、どうした?」


多少なりとも疑っていた罪悪感(ざいあくかん)が顔に出ていたのだろうか。ギルドカードを見ていたこちらの様子に気付き、心配そうにこちらを見る猫亜人の少女。


……だけど、年齢は11歳だから……この子は『ツクモと同姓同名の別人』という事でもある。


「……言い忘れてたけど、いなくなったのは5()()()の事だ」

「へ?」


自分にも言い聞かせるように、目の前の彼女に告げる。


「いなくなったのは10歳だけど……今は15……いや、16歳なんだ」

「あ……」


何度もふらりといなくなっては何時(いつ)の間にか帰ってくる、そんな彼女の事だ。行方不明になって暫くは、また帰ってくると思っていた。


だけど、この5年間何処へ行っても『黒髪で10代の猫亜人』を見たという情報すら入ってきた事はない。


……。本当は、言い忘れていた訳ではない。目の前の存在がツクモであると思いたかっただけだ。


「……はあ。なら、人違いだったみたいだな。悪かった」


「こちらこそすまない、早く言っておくべきだった」


「……いや、教えてくれてありがとう」


ため息をついて、あからさまに落ち込んでいる彼女に謝罪を述べる。


彼女にはこちらの事情など知った事ではないだろうし、小言の1つくらいは覚悟していたが……彼女から帰ってきたのは感謝の言葉だった。


……結局僕の事情で、最初から最後まで迷惑をかけたんだけどな。本当に出来た子供だ。

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