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36.角兎

「流石に入口まで来たら大丈夫か」


俺はダンジョンの入口へと戻り、両手に持っていた2色のロークラビットを地面へと置いた。


一応2匹のステータスを確認したが、HPを失って気絶しているだけのようだ。


「俺も、半分近く削られてるんだよな……」


自分のステータスを見ながら座り込む。今のところ、HPを回復出来るような物は見たことがない。つまり、休憩を取る事が俺の唯一(ゆいいつ)のHP回復方法だ。


失ったら意識を失って行動出来ないだけだが、魔物との戦いの最中にHPを0にされるのは事実上の死亡だという事くらい、嫌でも判る。


無防備な獲物を前にして逃げ出す程、魔物は優しくないだろう……なんてのは憶測(おくそく)の域を出ないが、正しいか試す程馬鹿ではない。


この世界、HPが無くなっても死亡ではないのはラットとの戦闘でもよく知っているのだが……だとすれば、HPとはなんなのだろうか。


生命力……と、言うには気絶するだけ。今まで目立った外傷のある怪我ばかりしていたから気にしていなかったが、【魔力球】のような外傷のほぼない攻撃でもHPは減った。


スキルレベルの違う魔力球を1つずつ食らってHPが44削られている。最大は102、残り58なので恐らくあと3、4発食らえばHPは無くなるという事だ。


……だが、1発食らった事による身体の不調と言えば、打ち身程度のもの。


「正直、10発くらいは耐えられそうな気はするんだよな」


痛くない訳では無いが、今から更に4発食らっても身体は問題なく動くはず。


魔物だけは特別に気絶する、なんて訳もないだろう。ガドルと戦った時の事を考えれば、それは明らかだ。


HPが無くなって気絶してしまうという仕組みでなければ、割と気合いでどうにかなるのかもしれない。


……確か、【根性】とかいうHPがなくなっても行動出来るスキルは持っていたな。名前は気合いっぽいけど。


だが、もしスキルがなくても気合いでどうにかなるなら、スキルの必要性が無くなってしまう。


スキルに関しても謎が深まる。なくても出来そうな事は多いし……考え出すと謎は増える一方だ。


俺は考えを中断し、HPを失って伸びている2匹のウサギを見る。


「……時間経過で回復するなら、殺さないとな……」


HPというものに不明な点は多いが、こいつらに(とど)めを刺さない理由はない。


どちらにせよ、空間魔法へと収納するには殺す必要がある。石を詰めた布で殺すのも手だが……。


(つの)、借りるぞ」


白いロークラビットの身体を掴んで振り上げ、茶色の方の首筋へ角を刺す。


多少骨につっかえた感触があり不安になったが、その立派な白い角は血で汚れても傷は付いていない。


投げ飛ばされて地面を転がっても傷1つつかない丈夫な角だ、肉や骨くらいどうってことはないのだろう。


なので、同様に茶色のロークラビットの角で白い方の止めを刺したのだが。


「……え、(もろ)いのか」


思い切り刺して止めを刺したはいいものの、角の先端が欠けてしまった。


試しにロークラビットの頭を足で抑えて角を引っ張ると、茶色のそれはばきん、と子気味(こぎみ)いい音を立てて折れた。


「依頼に必要なのは角だけだし、こうした方が楽かな……」


死体をそのままを持っていくのも気が引けたので、角が折れるならそうさせて貰おう。


「角だけ採ればいいなら、殺す必要もなくなるしな」


気付くのが遅かった、罪の無い2匹のウサギの命が奪われて……。


いや、殺人未遂(さつじんみすい)かこいつら。囮まで使って割と本気で殺しにきた害獣に情けはかけなくていいだろう。


いやでも、無用な殺生(せっしょう)はやめておくか。


脳内でくるくる手のひらを返しながら、欠けた角を空間魔法に突っ込む。


臨機応変(りんきおうへん)に行こうと結論付け、白いロークラビットの角を折るために足をかけて引っ張った……が、折れない。


「……やっぱり、そうか」


さっきも欠けたりしなかったので予想はしていたが、白いロークラビットだけ特段(とくだん)硬い角を持っているようだ。まあ、()っているのでそのまま空間魔法へしまえるが。


俺は自分のステータスを見て、HPが最大値の102まで回復した事を知る。結構休んでいたようで、空は日が(のぼ)っていた。


気付けば肩と背中の痛みも消え、動かすのに支障は無くなっている。


依頼は……2本、(うち)1本は欠けた状態で渡すのも流石にどうかと思うので、追加で狩りに行こう。


「でも、【魔力球】打たせきっても逃げるし……近付くにしたって、また解除できるかな……」


さっき戦った時は、生成途中に石を当てたからこそ解除されていた可能性がある。1度大きくなった【魔力球】に小さい石ころが反応するのかどうかは不明だ。


そもそも、距離がそこそこ近いから石を投げ当てられただけだ。俺は投げるのが苦手という訳ではないものの、近付きながら遠くの小さい球体に正確に当てられる程の自信はない。


ロークラビットの倒し方を考えていると、しまい忘れていた白い方のロークラビットが目に入った。


俺は空間魔法へ仕舞うため、ロークラビットを持ち上げる。


こうやって持つと、見たまんまウサギって感じだな。まあ、こんな角を生やしてはいるけど。


「……!あ、いける……」


(ひらめ)きに声が漏れる。俺はその角を握りしめて、自分でも分かる程に不敵に微笑んだ。


……何度も悪いが、使わせて貰うぞ。

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