?.リコレクション コルチ+2
「あ、そういえばツクモの姉御見ませんでした?」
魔物の駆除依頼をこなし、龍の雫で報告。数年は繰り返しやってる作業なので、もう慣れっこっスけど……。
姉御を誘うつもりで依頼内容も控えめにしてたので、早くに終わっちゃったんスよね。
「ツクモさんは先程帰られましたが、行き先は判らないですね。お力になれずごめんなさい」
ツクモの姉御の居場所を聞いてみたものの、受付にわざわざ行くところを伝えている訳もなし。
1人でノーガラットの駆除依頼を請けたって聞きましたが、ビスティラットが出てきたらしいですし……無事で良かったっスけど、何処行ったんですかね。
「いやいや、ありがとうございます。メランの姉御」
お礼を言いながら龍の雫を後にし、鍛冶屋へと向かう。
メジスに慣れてなさそうでしたし、行くとしてもあそこくらいしかないはず。後は訓練場くらいっスかね。
「姉御、いるかな……」
初対面でかなり警戒されていたため、半ば強引に仲良くなろうとした記憶を思い出す。
「……黙り込まれた時はやらかしたかと思ってましたけど」
久々の同年代の女友達だったので、距離感掴み損ねちゃってましたし。どうやって謝ろうか迷ってたら急に話しかけられたんで、ちょっとびっくりっス。
まあ、変に距離を置かれるよりはいいんですがね。ゲーモ親方も言っていましたが、あの年で気を遣われると絡み辛いっていうのは同意見っスね。
まだ警戒はされてる気はしますが、口調だけでも砕けてくれるのはありがたい事ですよ、本当に。
「ま、仲良くやれそうで良かったっス。……ちょっと変わってますけど」
口調はあたしも言える立場じゃないっスけど、青年っぽい口調に一人称が俺。記憶喪失にしては個性に溢れてるというか……。
男の子なのかなと思って冒険者カードを見せて貰ったら、性別も女性で年齢も11歳でしたし……。そういう性格って事っスよね。
登録試験じゃあの人の右腕切り落としたって話だったので、魔法や剣を使うのかと思ったら戦闘スタイルは格闘メイン。謎っス。
……魔物寄りの亜人は体術を使うって話はまだ聞きますけど、ツクモの姉御は明らかに人間寄りですし、不自然なんスよねえ。
「……おっと、通り過ぎるとこでした」
裏通りにある一見寂れたように見える鍛冶屋へ。人もあまり来ないので、寂れたというのもあながち間違いでは無さそうですけど。
親方は奥にいる……って事は、ツクモの姉御も奥にいそうですね。
「お邪魔するっスよー!ツクモのあね……ご?」
――――――――――
「あの、コルチ、本当に行くのか?」
鍛冶屋で何故か半裸でいた姉御の下着を買うため、日の暮れない内に店に連れていく。
「サイズ測った意味無くなるじゃないっスか、行きますよ姉御」
何故か嫌がる姉御の手を引きながら、先程の光景を思い出す。
何事もないかのように作業を続ける親方の後ろで、半裸で待機する女の子。
(……憲兵を呼ぼうか、迷いどころでしたね)
ツクモの姉御がぽかんとしてたので、親方が無知な子供を騙している可能性もありましたし。
今度からどういう顔で会おうか心配だったので、本当に誤解で良かったっス。……いや、別の意味で良くないんですけど。
「……まさか下着も持ってないとは思いませんでしたよ」
そもそも、裸にローブで出歩いてたって事ですし……恥じらいとかそういうのを記憶喪失で失くしたんですかね。まさか趣味ではないでしょうけど、まともな服を持ってないのは問題っス。
「ほら、着きましたよ」
「……っ……ああ……」
下着を買いに行くだけで嫌がる姉御を見てると、趣味の線も有りそうだから困ります。……とにかく、下着は付けて貰いましょうか。
「うーん、姉御もあたしくらいのサイズではありますしねぇ……」
「……本当に……界かよ……」
隣でぼやいているのを聞き流しつつ、姉御の手を離して下着を物色する。
「あ、これとか―――」
「こ、これがいいかな!」
白地に軽く装飾のついた下着を手に取ると、いつの間にか離れた所にいた姉御が食い気味に指定してくる。
見ると、肌に密着するような機能的に切り取られたような形の下着を持っていた。
「あたしが支払いするからって気を遣わなくてもいいっスよ」
「い、いや別にそういうんじゃなくて、一番動き易そうだからさ」
「……んー、まあそうっスね。サイズも問題無さそうですし」
あたしは可愛げのない下着を見て、その名称を思い出す。
……スポーツブラ、でしたっけ。パーズのギルド長が変わってから、明らかに妙な服が多くなったらしいんスよねえ。
「じゃ、取り敢えず試着して下さい」
「えっ」
「試着しなきゃ合うか判らないじゃないですか。……そこの中で脱いで下さいね?」
『更衣室、あるんだ……』なんて呟きが聞こえましたし、着替える場所は知ってるみたいっスね。記憶喪失とはいえ、全部忘れてる訳じゃなくて良かったっス。
「すいません、これどこのですか?」
「それは……パーズ産ですね」
「あー、パーズのとこっスか」
店員の女性の返答を聞きながら、ピンクのレース生地で作られた派手すぎるデザインの下着を見て苦笑いする。
「……こういうのも作ってるんスね、あそこ」
あたしには合わないけど、もう少し大きければ入る程度のサイズのそれを手に取る。
パーズのおかげでこういう派手な下着や服に関してはかなり増えた印象がありますが、どうもあそこはちぐはぐな印象を受けるというか……デザインに一貫性がないというか。
別のギルドも噛んでるって話なので、複数人で作ってるのかもしれないっスけど。まあ、パーズより服飾が盛んな街は別にありますし、有りそうな話なんですよねえ。
「終わったっスかー?」
「い、一応……」
流石に終わっただろうと、頃合いを見計らって姉御に声をかけると、ローブを腰巻きにして下半身を隠しながら少し恥ずかしそうに姉御が出てくる。
なんで手で隠すのは恥ずかしくないのにこれは恥ずかしいんスか――というツッコミをぐっと堪えて、続けて亜人用の下着を手渡す。
「じゃ、これどうぞ」
「え、それも試着……?」
「上はともかく、下は試着はしちゃダメっス。会計済ませときますんで着てください」
「……え、と」
姉御がかたくなに下着を受け取ろうとしない。、押し付けながら続ける。
「どうせ下も持ってないんでしょう?ちゃんと履いて下さい」
「……いや……」
尚も煮え切らない態度の姉御を見て、本当に露出の癖でもあるのか不安になったものの、あたしは下着を見てとある事に気付く。
「あー……。そっか、着け方判らないっスよね」
亜人は尻尾を避けて下着を着ける必要があり、その下着の造りも特殊になっているため、物によっては着け方を知らないと履くのが難しい……と、知り合いに聞いた事があります。
とはいえ、亜人用でも下着の着け方は今日日子供でも知っている。つまり――。
「そ、そうそう。だから、また今度に……」
「そういう事は早く言って下さいよ。じゃ、あたしが着けてあげますね」
「……。……へ!?」
――姉御はそれを知ってて着け方が判らないということですね。
記憶喪失でそういう事が抜け落ちているなら仕方の無い事でしょうけど、恥ずかしい気持ちも判るっス。
「記憶喪失なのは知ってるので、恥ずかしがらなくて大丈夫っス」
「い、いや自分でやるから……!」
靴を脱いで更衣室に入ると、急いで下着を履こうとする姉御。当然尻尾が引っかかって履けていない。
「そうじゃないっス。ちょっと尻尾触りますよ」
「……ぁ、にゃぅ……!?」
尻尾を触られてびくんと身体を強ばらせていた姉御が、そのまま固まったので、そのまま尻尾を掴みながら少し降ろした下着の穴へと滑り込ませる。
「この穴に入れてから下着を上げるんすよ。で、ここで調節……姉御、判りました?」
「……ぅ、にゅ……」
……尻尾、弱かったんでしょうか。普段よく掴んでたので、大丈夫かと思ったんスけど……顔真っ赤ですし、ここまでにしときますか。
「取り敢えずこの服だけ着といて下さい。これなら大丈夫でしょう?」
「……ああ、うん」
少し返事が上の空で心配していたものの、じっと見ていると直ぐに服を着始めたのを確認し、会計を済ませに店員を呼びに行く。
「……というか、下着履けないのに服とかは着られるんスね」